第3話 能力鑑定

003 能力鑑定


生徒たちが順番に能力を鑑定されていく。

「あなたの職業は勇者です」

「おおお」

「すごいスキルをお持ちですぞ」

「おおおお」

地下の広場は興奮に包まれている。

転移者はほぼ確実に強力なスキルを送られている。

ギフテッドされている。神からの。

この世界を、助けるために、神が手を貸しているということである。

これも、経験則として常識であるらしい。


「さあ、次はあなたの番です」

「名前は?」兵士が聞く。

「ツク」

「何?」

「ツク」

経験則では、皆、姓と名を持っていることになっているのだ。

髪の毛が黒くない場合は、姓と名が反対になる場合があることも経験則から知られている。

しかし、名前がツクとは?経験則では、そのようなものはなかったのだが。


「それは、姓なのか名なのか」

「ツクとしか、思い出せませんが」


「このおっさん、一体誰?」

ついに、に皆が気づいた瞬間だった。

「おいおい、誰だよてめえは」

「ひょっとして、間違って召喚されたんじゃ?」

「おいおい、巻き込まれってやつかよ」

「本当の主人公だったりするんだよね」

「こんな、死にそうなおっさんが」

「ていうか、それパジャマ?入院でもしてたのか」


さんざんないわれようだが、死体は適当に持ってきたみたいなことをさっきいわれたような気がする。

「ツクさま、鑑定石に触れてくださいませ」さすが女優だ、仕事をこなそうとするプロ意識である。

「さあ、あなたが最後ですよ」俳優もプロ意識を見せる。


「スキル、『鑑定』」

「え?本当なのですか?」

「なんですと、聞いていた話と違いますが」


「おお、定番の安定『鑑定』かよ」

「やっぱ、こいつが本当の主人公かも」


「鑑定とは情けない、何の鑑定ができるのか」

その時、大臣が入ってきた。

「え?さあ」


「鑑定など、ものの価値がわかってこそなのだ。この世界では鑑定とは、本当に知識経験を積んだ人間しか役に立たない、やっぱり巻き込まれ者か、厄介な」と大臣がいう。


「諸君、この世界では鑑定のスキルは今言ったとおり、知識と経験がないと役立たないのだ、彼は君らの仲間ではないのかね」


「ええ、そんなおっさんと俺等が一緒に見えるって、どんだけ俺たちがふけてるんだよ」

「お前はどっちかというと、あのおっさんに近い」

「ギャハハ」大爆笑が起こる。彼らは皆高校生なのである。


「さあ、みなさん。これは勇者様方を日々お守りくださる神の加護の腕輪です。これをつけると、加護を得ることができます。経験値をより高くする効果があるといわれています」

「聖女の皆さまは、わたくしがつけて差し上げましょう」

金髪碧眼の美男美女が優しくいってくれると、ついにやついてしまうのは仕方ないのかもしれない。

それは、銀色で美しい彫り物が掘ってある。高価そうな一品である。

「神殿でお祓いを受けているものでございます」


皆、喜々として、つけられているが、俺の鑑定が、反応している。

確かこの世界での鑑定は、知識と経験がないとうまく働かないといわれていたが、「の腕輪」と鑑定されていた。

「いや、俺は」

兵士が両腕を抱えてくる。

彼らの腰に吊っている剣はだ。

「ええ、あなたには、残念ながら必要はないと、大臣が仰っています」

「ええ、神の加護は戦いに必要なもの、あなたはきっと戦わないので必要はないでしょう」


「はっはっは!超うけるんですけど。じゃん」

「本当!」また周囲は爆笑している。


しかし、彼らは大事なことを聞き逃している。

戦うために必要と今言われたことの意味を。

だが、すでに隷属の腕輪を身につけた後では、どうしようもないがな。


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