第37話 捜索
037 捜索
さすがに、辺りは血まみれというか、あちこちに血だまりができていた。
「これはさすがに、門から出るのはまずいな」
しかし貴族街は高さ10mの壁に囲まれている。
門から出ないと出れないのである。
だが、この男にとっては、それすらなんの障害にもならない。
そもそも、門から入る必要もなかったが、見知った顔がいたので、嫌がらせに行ったに過ぎない。一歩踏めるような場所があれば上ることができる。
だが、それすら必要としない。
石壁は、レンガ積みだが、男が手をかざせばサラサラと砂になっていく。
金属ですら、粉にする男にとって、小さな穴を作るなど造作もないことだった。
穴を潜り抜け、市民街へと出る。
「さてと、あの門番はまだいるかな」
門の正面から遠くに
見えた。いたのである。
奴が密告したに違いない。
そうではなかったが、男がそう考えたのだからどうしようもない。
衛兵は運よく、宿直小屋に入る。
しかし、部屋に入るほどでなく、かすかに見えている。
男は、鉛玉を取り出す、男は執念深いのだ、必ず成し遂げるという執念を持っている。
しかし、さすがに、直線にしか進まない鉛玉で狙撃することは不可能だった。
だが男は投げた。
目に見えない速度で飛ぶ鉛玉。
そして、小屋の扉の部分で急速に曲がる。
男は、シュート回転を与えて弾道を操って見せたのである。
グエ!という小さな音が聞こえ、ドサリと何かが倒れる音が聞こえた。
王都の宿屋。
「おい、あったのか、早く儂にそれを見せてくれ」ゴブニュが珍しく興奮している。
「おっさん、あわてるな。だが、ここはヤバい用も済んだし、出発しよう。」
「え?ちょっと待てよ、まだ王都見物もしていないんだぞ」
「マリウス、お前だけ、見物していけよ。多分、事件が起こったので、捜索が厳しくなると思うぞ」
「おい、たった数時間で事件を起こしたのか?」
「アースと一緒に留守番しとけばよかったよ」マリウスは物見遊山の旅行ができると思っていたようである。俺も、そのついでに、用事をすまそうと考えていたのだがな。
「用事が思ったより簡単に済んだんだ。帰りの途中に話す。とにかく急げ」
「儂のミスリル銀」
「おっさん、俺がもっている、インゴットで大量にある、泣いてる場合じゃねえ」
「もっと、平和に何かできないのか?」
「俺は貴族的に振舞っていたのだがな」
「偽貴族様だからばれたのか」
俺たちは、急いで王都を後にした。
そして、事件発覚前に、王都外へと出ることができた。
幸いにして、惨殺現場は、貴族街でもはずれだったため、発見が遅れたのである。
惨殺事件はその後発覚し、王都内に緊急手配が行われる。
門を通過した貴族、他国の貴族は、通過後出て行っていない。
はじめ、その惨劇の場所の死体にいるのかと考えられたのだが、死体の照合が行われた結果、外国貴族が入っていないことが、わかったのである。
「それにしても、この死に方は普通ではないな」
捜索の指揮を執ることになった、近衛騎士ジェームスは言った。
鉛玉が体内から摘出されたという。
王国情報部の間諜が一人死んだとの情報が寄せられた。
一人だけ庶民が殺されていたものがそれらしい。
「これは、拳銃で撃たれたんじゃね」召喚者の男が言った。
「拳銃?」
「詳しくは知らんけど、鉛玉が体内で開いて、大きくダメージを与えているって聞いたぞ」
「地球の武器か?」
「多分、それに、そっちの方は、ショットガンで撃たれたんじゃね」
ぐずぐずに崩れた死体が数体あったのである。
「それに、先に起こった詰所での死体も撃たれたとすれば辻褄が合うし」
「恐るべき武器が存在するのだな、召喚の際に持ち込まれたということか?」
「何言ってんの、俺らみたいな日本人の高校生がもってるわけないっしょ」
アメリカの高校生なら持っている可能性もあるが、日本では難しいというかほぼ無理である。
「しかし銃とやらは、轟音がするんだろう」
「ああ、実際聞いたことはないけど、でも、音を抑える装置、サイレンサーとかいうのもあるらしいから、それをつけていたのかも」
「なるほど・・・」
ジェームスは考え込む。
そもそも、ショットガンにはサイレンサーはない。
そして、投げられた鉛玉の大きさを複数詰めたような弾はない。というかそんな巨大な弾を撃てるショットガンは存在しない。それは、きっとバズーカ並みの口径になるだろう。
番系と口径が全く違っており、あっていない。勿論、日本の高校生がそんなことを知るはずもない。
「とにかく、他国の貴族を探せ、まだ貴族街にいるはずだ」
「は」近衛たちは、嫌な顔だ。
貴族の私邸に入り捜索する必要があるのだ。
ものすごい抵抗を受けるだろう。
因みに壁の穴はふさがれていた。
ゆえに、見つかることはなかったのだ。
彼らの捜索は全く徒労に終わるのだった。
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