第36話 ミャオ刀

036 ミャオ刀


「いきなり、全員でかかってくるとは、ゾーレオパルディアのではあるな」

すでに、全員が抜剣している。


「まあ、これからは、その名をかたることもあるまいが」


「ぬかせ!」

先頭の男が切りかかる。

高速の抜き打ちがその男に閃く。

「一刀両断剣」

まさに神速の抜き打ちの一撃だった。

逆袈裟に切り上げられた男は血しぶきをまき散らして、たおれる。


周囲の者がぎょっとした。

しかし、男は首を捻る。何かがおかしいのである。

男の感覚では、もっとスムーズに真っ二つになるはずだったのである。


その時、男の視界の片隅に何かが見えた。

それは、剣ではなかった。

反りが合ったのである。


この世界での剣は両刃直剣である。

それには、反りがあり、片刃であった。

男は、自分の違和感にやっと気づいたのである。

それは、自分の剣術に関する違和感だった。

何かの記憶が体を動かすのだが、どうもうまくいっていない。

そして、その動きは、反りのある片刃刀に当てはめると、見事に解決できることをその一瞬に悟ったのである。まさに死神である。


「貴様、それはなんだ」

指さされた男はビクリとした。

次の瞬間には、男の首には、アルセールの剣が突き刺さっていた。


男はそれを手に取った。

ミャオ刀であったろうか?それは男の考えていたものではなかったが、所謂、刀であった。

この世界で撃ち合うために、厚く太く作られている。

日本刀では、さすがに両手直剣と削りあうのはつらいであろうからか?


日本刀という名すら思い出せないが、そのイメージははっきりとしていた。

それこそが自分の求めるものであることは、間違いない。


「やっと合点がいったぞ!礼を言う。」男は宣言した。


「その剣は返してやろう、儂は忙しいので失礼したいのだが」


「逃がす訳がなかろう」やっと驚きから帰ってきた男達。


「では、死ね」

手の平には、鉛玉がいくつも握られていた。

恐るべきりょ力で投げられた、それは鉛玉、弾丸と同じ力を持っている。

たちまち、十数人が死傷する。散弾が発射されたようなものである。


何が起こったのか?


印地打(いんじうち)簡単にいうと、石を投げるのだ。

手っ取り早く攻撃を行い、なおかつ効果がある。古代からの戦闘法。

そこらへんの石を投げるので、すぐに調達できるというメリットがある。運ぶ手間もいらない現地調達だからである。


その石の代わりが鉛(これは鉱山で発掘したものを単離し成形した)なのである。

そして、投げ手の力が異常なだけなのだ。

威力が足りない場合は、投石器を使う。

皮紐などで石を包んで、振り回してそれを投げるのだ、遠心力により加速し発射する。

その戦法で敵を倒したのが、ダビデ王である。


この男の場合は、人間ショットガンである。


立ち昇る気が揺らめいている。

男は完全に身体強化の極致に達していた。

その魔力(気)が頭の先から揺らめいて渦を作る。

目が、強化の極致の効果で赤く光り始めていた。


実は全身も少し赤く光りを放っていた。

暗闇の中で見れば、まさに悪魔が降臨したように見えたであろう。

惜しむらくは蝙蝠こうもりの羽が背中にないことであろうか。

この男の事である、のちにきっと生やすことが


「ひひひ」

残りの一党たちは、腰を抜かさんばかりに驚いていた。

目の前に、悪魔が顕現したからである。


勇者伝説で語られる悪魔たちにそっくりだったからだ。

悪魔の特徴は赤く光る眼なのだ。

そして、残虐性。

人間の事など、虫のごとくすり潰す。


悪魔から言わせれば、人種が違う、肌の色が違うというだけで別の人間を殺し尽くすような種族に言われたくはないだろうが。


「この武器では思うようにいかんが、かかってこい」

それは男の動きを明らかに変えた、流れるように切り裂いていく。

次々と首を切り裂かれていく、残党。


「助けてくれ!」

逃げ出す数名。

金翅鳥王剣こんじちょうおうけん!」魔力の刃が飛び、逃げた男の一人を切り裂く。

「縮地!」一瞬で逃げた男の横に出現する悪魔、そして、首を跳ね飛ばす。


最後の一人と目が合う。

男はすでに泣いていた。口からはよだれが流れ何か必死で願っている。それは悲鳴なのかもしれない。


「助けてといった敵を貴様は見逃すのか?そうではあるまい」

一刀が男を縦に切り裂く。



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