第35話 指南

035 指南


そこには、潜んでこちらの様子をうかがう男がいた。

「知らん、誰だ貴様は!」

それは、王国情報部の影である。

「武人であれば、そのような間諜の存在も気づけないというのは、致命的だな、馬鹿その者といえるのではないか、早く始末しろ、指南できんぞ」

「王国の影の者であろう」

「愚か者、発見されるような愚かな間諜など国には必要ないのだ」


影は逃げようとしたが、は光線のような速度で飛来した。

そして、影の胸を撃ちぬいた。

小さな鉛玉を腕力に任せて投げつけただけのものである。

だが、それは拳銃で撃たれた時と同様な効果を見せたのである。

影は、バタリと倒れ伏した。


「馬鹿者どもめ、始末すらできんとは、ゾーレオパルディアとは呼べんな、儂は、貴様らの親戚ではないぞ、このような愚か者たちと一緒にされてたまるか、親戚ではない故、指南もできん。儂の技は、一族の秘伝なのでな」


男が立ち去ろうとする。

さすがにゾーレオパルディア家の一党も度肝を抜かれてしまった。

貴族街は安全なので、刃傷沙汰は起こることは少ない。それをいとも簡単に目の前で人を殺されたのである。


30人余りの徒党が道を開けるように開いていく。

男は余裕で歩いていく。


「ちょっと待て」その時徒党の一人が声を挙げる。

「なんだ、無関係な徒党よ」

「その剣はなんだ!」

「うん?」男の腰には、名品と思われる剣がつられている。

鞘にも、いろいろと意匠が施されている。

「それは、アルセール様の剣であろう!」

そう、男の量産品の剣は、アルセールにより破壊されたのである。

そして、その剣を無断で借用していたのである。

それを身知っていた者がいたのである。

「そうなのか、儂は、これを街で買ったのだがな」

「嘘をつくな、売るはずがないだろう、陛下より賜った剣なのだぞ」

「ほう、そうなのか」

「貴様、なぜそれを持っている」


「聞いてなかったのか、注意不足も甚だしい、買ったといったぞ」

「アルセール様は、脱獄囚らに襲われて殺されたのだ、貴様脱獄囚か!」


「馬鹿者め、脱獄囚?貴様らのいうアルセール何某とは、脱獄囚に切られたのか?愚かな、そんな名も知れぬ者に切られる武家がいるのか?なんとも嘆かわしい限りだな」


「よくも!」

彼らは痛いところをつかれた。


「貴様らは、ゾーレオパルディアの名を捨てるべきだ、名もない脱獄囚に切られるような者にゾーレの名を名乗ることは許されぬ、武門の一族に泥を塗ったことを恥じて今後、外でその名を口にするな、儂が恥ずかしくなる」


彼らは、武門の一族で口よりも腕力で物事を解決するので、全く太刀打ちできなかったのである。


「待て!その剣はおいていけ」

男が去ろうとしていた時に一人の男が声を出した。

その剣は、亡きアルセールの名剣である。

下賜された剣がないということは大問題でもあるのだ。


「うむ、置いていってもよいが、いくらで買い取るのか」

「己!」


「まさか今度は強盗の真似事か?この国の貴族とやらは本当に腐っておるな、我が国で報告せねば」どの国が我が国なのかは不明だった。


「ここで始末するぞ」一人が声を低めて言う。

「ああ」数人が頷く。


まさに、強盗殺人事件が起ころうとしていた。


「まさか、金も払わず、なおかつ私を亡き者にして剣を奪うつもりか」

「ここには、誰もいなかったのだ」


「そうなのか?間諜の死体もいるのだが、別の者が知っておる可能性は排除できないがな、それに門衛の中には、ここにいった貴族の存在を知っている者もいたと思うが?」


「すべてをなかったことにする」

「そうか、覚悟を決めたか、では聞こう、お前たちの信じる神とはなんだ」


「アーマベルガー総神であろうが」

「デウスはどうしたのだ」

「神頼みで逃げられると思うなよ」


「わかった、お前達は合格だ」


「何が合格だ!」彼らが怒声を挙げる。



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