第47話 成長期

047 成長期


第一容疑者は、神聖騎士団の第3師団の師団長となった男である。

彼は、アルテュールに暗殺者の情報をもたらしたが、その後、異例の出世を遂げたのである。

利益を得た者を疑え!これが犯罪捜査の基本。

そして、最後に聞いた声の持ち主と声が酷似しているということが判明している。


第二容疑者は、かつて枢機卿であり、今や前教皇を失脚させ、新教皇についたキシン・マダールである。


勿論容疑者であり、疑わしいだけでしかない。

だが、この世界では、法律は未整備である。

というか、脱獄者がこのような行動をしていてもよいのだろうか?


彼らは、まさにデウス教団の主力である。

騎士団はアーマベルガー神聖騎士団に名を変えたが。


「だが、お前は本当にツクか?」とアル。

「そうだが」

「いや、兄貴はもっとこう、いけてなかったです」とマリウス。

「いや、身長と体つきが全く違う」とおっさん。


「なんでも、成長期に入ったそうだ」人間革命のお蔭で成長したらしい。

「馬鹿な!」

「でたらめすぎる」

「とすると、俺もまだ成長できるかも」

「そんなわけないだろう」


「大丈夫だ、問題ない」

「大ありだろう」

「そうかな」

「そうだ」


「具体的に言うと?」

「う~ん、そうだな、親しみが薄れたかな」

「おっさん度、確実に下がりました」

「鍛冶の腕は?」


「問題ない」

試す必要もない。今までの状態が嘘のように、細部に精神がいきわたっているのだから、腕が落ちているはずもない。

しかも、身体強化に使う魔力量も10分の1で同じ強度になる。

そういうことが、自然とわかるのだ。


「御主人様、お出かけになるなら、これを装着してください」

それは、かわいらしい顔には似合わない、ガントレットである。

そして、細い金属で編まれた手袋。

「ご主人様のために、私が編みました」

「ありがとう」

工業製品のように、むらなくできた金属糸を編んだグローブである。しかも指ぬき。

秘術、魔刃(まじん)を使うためには、手が剣とつながる必要がある。

そして、持ち手の部分には、金属のボタンのように突起が出ており、刀の柄をつかめば、その部分に指がかぶさるようにできている。


魔刃とは、魔力を刃の部分に載せる技である。刃先が鋭いほど載せやすいし、威力が上がる。

この世界の両手剣では、無理がある。切るというより打撃の衝撃で撃砕する方が主力の武器だからだ。

金翅鳥王剣とは、魔刃を飛ばす業である。


刀は日本刀と同じく両手持ちである。ゆえに盾は持てない。防具として、手甲が有効になる。

ただし、手の動きを制限するようなものでは逆に邪魔なのである。


ほぼ通常の刀(ミスリル鋼)と特殊金属の刀(ヒヒイロカネ)、そして巨大刀(オリハルコン)。ほかにアポイタカラの刀がある。

しかし、ミスリル刀とヒヒイロ刀の2本を皮の腰ベルトに吊る。

そして、大蛇丸を背中にかける。

これで、動けるのか?

いや、問題ない。

特に大蛇丸はとても邪魔になりそうだ。

しかし、試し切りは必要なのだ。


それは、由緒正しい行い。

かの水戸光圀公も若いころは励まれた行いである。

刀の切れ味は、戦いの帰趨に大きく影響するからである。


そして、夜の闇に辺りが包まれる頃、男は、街に放たれたのである。


アーマベルガー神聖騎士団第3師団は、首都アーマベルガーの近くにある衛星都市、ソドムールに本拠地を置いている。


そして、男は、その都市に入り込んでいた。

神聖騎士団が駐屯しているため、治安は極めてよろしい。


騎士団は、自分らの基地を哨戒している。

街は、街の警備隊がいる。

騎士団の基地は砦である。

さすがに、冒険心のある酔っ払いもこの近くに行くことはない。

騎士は強い、そして、よっぱらいなど殴り倒すか切り倒す。

殺したところで罪に問われることはない。無礼を働いた庶民を成敗しただけなのだから。


2人1組で、哨戒を行っている。軽武装である。そもそも、このような警戒は不要だ。

砦には盗む価値のあるようなものはない。そして、見つかればよくて、殴られ、悪ければ切られるような場所に近づく者などいない。

はずだった。


「汝の神は?」

影から黒い装いの男が現れた。

「我らを、アーマベルガー神聖騎士団と知っての狼藉ろうぜきか」

「貴様らの神アーマベルガーは偽神である」と黒衣の男が告げる。

「無礼者め!」


二人の騎士が抜剣する。

「帝国式剣法か」そもそも両手剣の剣法はあまりないのだ。

だから皆すべからく帝国式剣法である。

秘技あるいは武技が、流派(帝国式剣法にもある)により編み出され、秘匿されていたりするのが現状である。




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