第64話 刀法不敗流

064 刀法不敗流


「この美しい刀はあなた様が使われるのですか」と奏さんが聞いてくる。

「嫌、これはアルが」

「エリーズ様、だそうです」

「わかりました、拵えはこちらで製作します」


嫌、鞘師が作るものなのです、本当なのです。

だが、エリーズ様似の女が刀を捧げ持って、奥へと消えていく。

だから、奥に何があるんだよ。


しかし、鶴の恩返しが怖い!


彼女らは決して鶴ではなかった。

男は恐れていたのだが、彼女らは、パーフェクトソルジャーだっただけなのである。


だが、見ると非常に微妙なものが複数存在したことは確実だった。

ゆえに、男の考えはそういう意味では正鵠せいこくを射ていたのである。


こうして、刀より強い鞘に入れられて、ほとんど折れることがない処理をされて、刀は帰ってきた。

この世界に鮫がいるのかは不明だったが、ちゃんと鮫革のようなものを使い柄が編まれている。


「では、師匠、俺に剣法を教えてくれ」

「う~ん」


「まず言っておこう。日本という国には、刀の文化が発達したので、剣法といえば、刀法である。だが、中華に渡れば、剣も刀もあったので、中華では刀法ということになる」


「ゆえに、刀法を学ぶのだが、俺の記憶は実は定かではないのだ」

「知っている」

「確かに、学んだはずなのだがな」

「覚えている奴だけでいい」

「そうか、では」


「見よ!一撃必殺の一の太刀」

目にも止まらぬ速さの一撃が抜き打ちで繰り出される。

その剣圧が風を興す。

「これは、最初で最後の奥義よ。必ず仕留めねばならぬ」二の太刀いらずということである。


「む、良く見えん」とアル。


「金翅鳥王剣!」

魔刃が一直線に飛んでいく。

壁を切りつける。

「金翅鳥王剣!」

今度は、複数の魔刃が飛んでいき壁を切りつける。

「金翅鳥王剣!」

今度は、魔刃は急激に角度を変える。


「すまん、これは習うものなのか」

「わからん」


「浮舟」

素早く、地を滑るように進む男。

「縮地」

あっという間に戻ってきていた。

「何か、おかしくないか」とアル。

「おかしいか?」


「ではこれはどうだ、まろばしからの日輪」

低い姿勢で飛び、一回転して、抜刀、全周囲攻撃の日輪を放つ。

「おう、これなら何とかなりそうだ」

「そうか、良かったな」


「俺には、できそうもないよ兄貴」

「おおそうだな、マリウスでは難しいかも」

「いや、俺でも無理」


「そんなことは有るまい」

「魔刃がでんだろう」

「身体強化の延長みたいなものだろう」

「嘘をいうな」


「きっと、アルテュール様は魔法が苦手なのでしょう」その時、エリーズ様似が語り始める。

「でも心配はいりません。きっとツク様が、真言を刀に刻んでくれましょうから」


「そうか、そのための真言か」男は女の言葉に初めて気づいた。

「しかし、魔力はいるような気がするが」


「そうですわね、でも、これもツク様が錬金術で魔法石を精製し、鍔にでもつければ問題ないと思われます」


「なるほど」

「さすが旦那様です」奏が合いの手を入れる。

「見事に解決法を考えられましたね」とエリーズ様似。

全く男は何も考えていないのだがな・・・。


「そうだな、見事に解決だな」

「さすがです」

「さすがでございます」

「さすがなの」


明らかにエリーズ様似が考えたのだが、彼女らは決してそのような反応はしない。

ほめてほめてほめまくる。

決してけなしたりしない。

それが操縦法なのだ。この男の!いやすべての男があやつれるのではないか。


たとえ剣法に欠陥があったとしても、それを言ったりはしない。

さすがに、男の剣技はすでに人間のレベルでは反撃不能の域に達しつつある。


「そうと決まれば、刀法に名をつけねばなりません」と奏さん。

「おおそうだな、では、刀法不敗流と名付けよう」と調子に乗る男。

「見事な名前なの」

「無敵ですね、あなた」

「アルテュール様も早く刀法不敗流の奥義を身に着けられますようにお祈り申し上げます」


「それでは、魔石の精製から始めないといけません。迷宮で魔石を大量にゲットしてきてくださいまし。」


こうして、男たちは、鍛冶の合間に、刀法の練習を兼ねて、迷宮に潜ることになるのだった。



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