第84話 召喚者の戦死

084 召喚者の戦死


ギルド内に衝撃が走った。

そして、召喚者(高校生たち)にも衝撃が走る。


召喚勇者の仲間が5人も戦死したのである。

「お前達が何かしたのではないか?」すぐに、隊長が男達を疑う。

迷宮内で起こる犯罪は、実際よく起こる。

しかし、証拠がないため不起訴(日本でいうと)になる。


勿論、何かしたとしても、証拠がないと捕まることはない。

「想定外の強敵が現れた」とアル。

「30階層に強敵?そんな与太話が通じるか」と怒鳴るギルド長。

通常オーガジェネラルとその取り巻きが出るだけなのである。

今の5人の召喚者なら苦も無くというほどではないにしても、倒すことができる相手だった。

「オーガキングでも出たというのか?」隊長。

「ああ、出たぞ、簡単に、12匹ほどな」男。

「嘘も大概にしろ、キングが12匹って無茶苦茶だろう」とギルド長。彼の常識でも、文献記録からもそのような異常事態は発生する可能性は皆無である。

「まあ、嘘みたいな話だが、信じる信じないはあんたらの勝手だ」と男。


「ああ、だから、戦死した奴の刀は作ることはないからな、契約書にもきちんと書いていたはずだ。それに、死んでも文句は言わんともなっているから注意しろ」帰ろうとする男。


「ちょっと待て、まだ事情聴取は済んでいない」

「なんでそんなものを受ける必要がある」

「逮捕するぞ」と隊長。

「なんの罪でだ」と男。

「証拠を見せろ」と隊長。

「うるさい男だな、見せてもそうですかといわんだろうが」

「逮捕するぞ」

「では、これでどうだ」

そういって出されたのは、王冠だった。金をベースに宝石がはめ込まれている。

金額的にもそれなりのものである。


鑑定の結果は、オーガの王冠。オーガのオーガん。オーガだけに・・・。


キングのドロップ品だと思われる。

エンペラーだったら、皇帝の何とかみたいなものがドロップするだろう。まあ、確率で。

「この王冠がどうした」

「鑑定してみろ、オーガの王冠と出ている、鑑定くらいできるんだろう」

「減らず口を!儂を侮辱するきか」そう!この世界での鑑定はさげすまれるスキルである。

役に立たないからである。

こうして、迷宮ドロップの鑑定士が呼ばれる。

彼は、この道30年のベテランである。

しかし、その彼をして、わかるのは『オーガの王冠』という名前だけだった。

それはそうだろう、この迷宮でそのような物が落ちることはほぼないからである。

あくまでも、知識を経験として積んでいく必要があるのである。


「わかったかおっさん。結構無駄な時間がかかってしまったな」

「まだ、よくわからん、それはおいていけ、国の鑑定士に鑑定させる」

その時、辺りの温度が三度ほど低下した。

「おい、貴様、大概にしておけ、冒険におけるドロップは冒険者にその権利が存する。これが基本原則だろう。お前の言っていることは、盗人以下の言い分だぞ」

「何を!」隊長が反撃しようとするが、ギルド長もさすがに首を振っている。

そもそも、迷宮は自己責任。死んだとしても、その責は冒険者に帰するのである。


「このことは、国王陛下に報告するからな」


そのころ、俺の目の前には、透明な『トリガー』が現れていた。

そう、この隊長は、契約違反を散々行っていたのである。


「因みに、生きて帰れたらな」

俺はトリガーを引いた。


「グワ~~~~」それは人間噴水のように、四方に血を噴出したのである。

ギルドの室内に濃密な血の匂いがこもる。辺りは一面真っ赤に染まる。


「契約はなされた!」契約書を取り出すと、青い炎がそれを焼き尽くしていく。


ギルドを出た三人。誰もがその凄惨な現場の為に止めることができなかった。

「もったいないの。玉がきれいにしてあげるの」

「やめとけ、汚い人間の血なんか吸うな」

「何かすでに、魔物同志の会話みたいなんだが」

「アル、お前も、迷宮で目が光っていたぞ、仲魔だ。仲魔~」

「なんだそれは」


オーガの王冠、それがあれば、オーガを従わせることができる魔法の道具である。

但し、キング、エンペラ―はこの限りでない。

キングは同等、エンペラーは格上だからである。

もし、この世界でオーガの被害を受ける地域にこれがあれば、ほとんどの被害を軽減できるという夢のような逸品であることは秘密である。

しかも、オーガを嗾けて、別の魔獣を倒すことも可能なのである。


因みにオーガキングが出てきたときは、最終兵器、エンペラーの王笏がキングを従えることができるであろう。巨大なルビーのついた金属の笏であった。

さすがに、エンペラーでは、誰も信用しないと考えて、オーガクラウンにしたのだが、結果前述のようになってしまったのである。


「でも、オークの王冠とかゴブリンの王冠とか、ひょっとして、王冠マニアなの」

「俺が集めてるみたいな言い方はやめろ」


このような七珍万宝がこの男の手元に集まっていたのである。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る