第83話 ヤバい状況
083 ヤバい状況
永久氷壁は、分厚いが、オーガ達は必死にそれを切り裂こうとたたいていた。
形勢は、明らかにオーガ側が優勢に見えた。
彼らは、仲間が惨殺され、三人になり隅に逃げこんだのだ。
引きずりだして、とどめを刺すのだ。
それにしても、堅い氷である。
「なあ、玉よ」
「なの」
「あそこに新鮮な血があるけど」それは、ハリネズミのようになった召喚者たちの死体。男は玉の本当の正体を感づいている。
「人前では、しちゃいけないって、約束させられたの」と玉。
「見なかったことにしておく」
「む~んなの」幼女は唇を尖らせる。抗議しているのだろう。しかし、事態は急を要するのだ。
「アルと俺はこれしかないな」
それは、強壮薬である。
「それって、あのヤバい薬を薄めたものなの、私は、飲まないの」
それは、『人間革命』であった。
薄めて飲めば、一時に精神力が回復する。という優れものである。
但し、人間革命を起こすため、本来の自分から遠ざかっていくという代物であった。
「他に手段はない、生き残るためには、これしかあるまいて」とアル。
「是非もなし」男二人は覚悟を決める。
「玉は、血で体力を回復してくれ、行くぞ」
一気に、薬の瓶を
危険な薬品が胃へ流し込まれる。
「うおおおおお」
「うわああああ」大の男が額の血管をはちきらんばかりに苦痛に顔をゆがめる。
やがて、絶叫がやむと、そこには、再び魔王のように瞳を金色に光らせた男達が立っていた。
「ぶち殺すぞ!」
「おおよ」アルまでがおかしなテンションへと移行している。彼は今、男のミスリル刀を握っている。彼自身の刀は激戦で折れていたのである。
「玉、行けよ!解除」
永久氷壁は消え去った。
「トルネードキャノン!」
突風の渦が、周囲のオーガ達を捲き上げる。
「邪魔だ!」八岐大蛇で突き刺し、切り払う。
アルは、ミスリル刀で辺りの敵を切り払う。
そして、別の場所では、一瞬で居場所変えた幼女が口開く。
それは、パカリと開いた。顔全体が一つの口ようになっている。ガブリ、何と召喚者の上半身が食いちぎられる。
バリバリと刀剣ごと砕いている。
次々と、召喚者を平らげる、魔物がそこにいた。
その間に、オーガ兵の剣が玉の腕を切り落とし、首に致命の一撃が入るのだが、玉はそんなことすら気にしていないようだった。
怪しく、金色に光る眼の幼女が復活した。そもそも不死の一族である、疲れようが、切られようが死ぬことはないのだ。
そして、5体の高レベル冒険者を飲み込んだことにより、また身長が伸びる。
少女は跳躍した。
人間のジャンプではなく、何かカエルのような跳び方だった。
落下した先のオーガの頭が一飲みにされ食いちぎられる。
幼女の爪が伸びて、辺りにいるオーガの目に突き刺さる。
10体のオーガが悶死する。すでに人間であること隠すことさえをあきらめたかのような攻撃であった。
アルは、魔刃を載せた剣戟を放つ、それは、不敗流の套路であったが、今までのそれとは違い格段に速く激しい。すでに、レベルが20以上も上がっているのであるから当然である。
レベルが上がれば、基礎的な能力が上がるのだ。
それは、死の舞となっていた。剣も鎧も紙切れのように切り裂いていく。
そして、あの男は、「日輪連続回転」ですでに、駒のように回りながら、すべてを切り裂きながら進んでいた。
残念ながら、ここは30階層、キング、ジェネラルといえども、やはりレベル30前後であった。すでに、レベルが倍にもなった男が相手では、分が悪かった。
たとえ、圧倒的な数といえども。
そして、倒されては次の召喚を行うエンペラーの魔力は限界に近づいていた。彼は、エンペラーであり、戦闘タイプではなかった。
「魔刃燕返し日輪切り!」男の剣筋はいつしか、今までに見せていたものではなくなっていく。
敵をいかにして多く真っ二つにするかという命題を処理するのため機械のごとく切り裂いていく。
エンペラーの神輿を守ろうと、オーガキングが立ちはだかるが、すでに敵ではなかった。
マッハを超える剣先が衝撃波を産む。
キングが頭の先から股間まで真っ二つに切り裂かれる。
別のキングの首がすっ飛ばされる。
神輿を担ぐ、ジェネラルは抵抗できず真っ二つに胴切りされる。
ついに神輿が傾く。
全身が真っ赤に染められた男が、神輿の上に立つ。
エンペラーが立ち上がる。残念ながらエンペラーは召喚のため力を使い過ぎていたし、そもそもエンペラーなので、戦闘訓練もあまり受けてはいなかったのだ。
「もう、邪魔でしかないんだよ!」男の抜き手がエンペラーの胸につきこまれる。
「グハ」エンペラーが血を吐く。
男の手は、エンペラーの心臓をえぐり出していた。
それをぐしゃりとつかみつぶす。
こうして、男とその仲間は、30階層のボスを突破した。
オーガの総撃破数は6500に上った。
オーガの死体の山がキラキラと飛び散って消えていく。
「もう絶対にボス部屋は嫌なの」少し身長の伸びた玉1号がしみじみとつぶやいた。
「30階層突破でやっと一人前なんだぞ」
「絶対!あれはない」
膨大な経験値が流れ込んでいく。
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