第54話 指輪の行方

054 指輪の行方


「だが、これでは、指輪がどこに行ったのかわからぬな」男は空気を読むことはしない。

「それにしても、子供が唐突に死んだが、本当にエリックがやったのか?」

「それから、なぜ女は自殺する」


「エリーズ様!」

「アル、すまんが今は貴様の横に似た人間がいる。それで我慢しておいてくれ」


「さすがご主人様です」

「うん?」

「映像解析では、子供の死体が別の子供にすり替えられています」

「何とか解析?」


「はい、生きているころの顔と死亡した子供の顔が一致しません」

「入れ替えられたのか?」

「どういうことだ!」

「はい、子供の命をゆすりの種に使っていたのです。危険を回避するために死んだことにしたのではないでしょうか」

「それを悟られないため、自殺するのか?」

「悲しいけれども、そうしたかったのではありませんか」と奏。


声もない。

さすがの男も声も出ない。涙が流れていた。この男にも多少の感傷は有ったのだろう。

何ゆえに?そんなことに。



「あの映像の女を追うしかないか」

「ご主人様」奏が男を抱きしめた。

「俺は、この腐った国を滅ぼしてやる」鳴き声だった。

「つらい道ですよ」それは、罪もない人間を数多手に掛けることになる、羅刹の道。


奏にとっては、そのようなことはどうでもよいことだったが、主人が正気を失うことだけは避けねばならない唯一の重大事なのである。

そのためには、優しく強く導いてやらねばならないのだ。

国民的美少女AIはすでに1200年の時を、人間達からの情報収集をしている。

どういうときに人間の心が破壊されるかということも十分推測可能であった。

彼女らにとっては、長く長く仕えるべき存在なのだ。壊れられては、たまったものではない。


<玉、玉あなたが、行くべき時です>

近ごろ、玉との通信にノイズが混じる。

このような時は、小さな子供が甘えてやると効果が高いと計算されている。

<承知なの>

計算では、そのようなしゃべり方を学習していないはずなのだが。

彼女らにしても、計算外のことが起こるということである。


「ご主人様なの」それは、奥の部屋から出てきた幼女である。

しかし、言葉が少し違う。

「玉、どうしたのだ、その口調は」

「そうなの、玉は少し悪い風に当たってしまったようなの」

「気を付けるんだよ」

「そうするの、抱っこなの」さすがに小さすぎて悪いことはできない。

しかし、説明によると、可能との回答である。

怖ろしく、公序良俗から逸脱しそうだ。

抱っこしてやる、彼女は心のオアシスのようなものだ。

傷ついた心を癒してくれる。


「ちょっとちくっとするの」

「うん?」

グサリと何かが、首筋に突き刺さる。

「ウガ!」

急速に血を吸われている。

「玉!」

払いのける手と、奏の高速の抜き手が交錯する。


くるりと一回転して、幼女はたった。

説明は受けていないが、彼女もパーフェクトソルジャーなのである。

「玉!」

奏の攻撃は人間の閾値いきちを突破している。

「待つなの」数メートルも後方に飛ぶ幼女。


「何かに汚染されている!」

奏が言ったが、驚きの感情がない。

すでに戦闘モードなのだ。

そして、汚染物質は抹消するしかないのである。

「少しおなかがすいたの」

「奥に入りなさい、警告します」

奥に何があるのか?きっと見てはいけないものしかないのだ。

そして、見れば彼女(奏)は鶴になって飛んでいくに違いない。

「俺は見ないぞ、決して見ないと決めた」

しかし、そういえばそういうほど、中身が気になるのも事実であった。それが人間の本質なのだ。


「お前、大蛇丸なのか」血を欲しがる化け物はそれしかない。

「そうなの、ご主人様が意地悪したからおなかがすいたの」

封印して、飾られている。


「チッ、原始生物を使い過ぎたか」奏から恐ろしい声が聞こえた気がするが、きっと空耳に違いない。

「御主人様、申し訳ありません。少し甘く見ていたようです。あの刀は少し手直しさせていただきます」


「助けてなの!」


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