第51話 侵入

051 侵入


第三師団長のエリック・マイーマインの仕事は、不倫である。

彼には、婦人がおり子供もいるのだが、浮気の相手がいる、貴族の未亡人である。

そして、昨日もそちらにいたのだが、緊急事態により呼び出されたのである。

渋々、教皇庁は対悪魔用武器の貸与を認めた。

聖銀の武器は高いのである。出荷は国により制限されている。

しかし、悪魔を倒すためには要る装備である。

日ごろ、そのような物は滅多に現れることはない。

精々がアンデッドである。宗教上の理由で、土葬にされるため、その死体になんらかの悪霊がとりつくことがあるのだ。

そういう手合いには、聖銀は良く効く。聖水も効く。

所謂治癒魔術が良く効く。聖水も結局、清水しみずに治癒魔術をかけるのである。


だが、悪魔となればそんなもので効くのかということである。

悪魔の目は赤いといわれているが、昨晩の目撃情報では、目は金色に光っていたという。

これは、単なる悪魔ではなく、魔王の特徴である。

兵士の死に方も尋常ではなかった。

エリックは強く、火葬を進言した。

まず、気持ち悪い、それに、アンデッドになる可能性が高そうだ。すでにミイラ状態なのだ。

しかし、教皇庁の答えは、聖騎士たるものが、アンデッドになることなどない。だった。

兵士は民間人上がりだ。戦闘スキルを持つものを使っている。

聖騎士ではない。教皇庁は馬鹿ばかりだ。今も昔も。


しかし、それゆえ自分のようなものにも出世が可能なのだ。

うまく取り入れば、それが可能だ。女、金を与えてやればよいのだ。

暗部で活動していた、エリックはそのことをよく知っている。


「馬鹿者めらが、まあいい、儂は帰るぞ」従卒にそういって、師団本部を出る。

こんな日は、女を抱くのがいい。

鬱憤うっぷんを吐き出すのだ。


「エリック様」未亡人がしなだれかかってくる。

「ああ、今日は面白くないことがあった。」

「まあ、それでは私が激しく責められそうです」

「その通りだ」

未亡人を抱き上げて、寝室へと向かう。

それから、数時間、未亡人が悲鳴のような喘ぎ声を発していた。


そしてことが終わり、喉が渇いたエリックは階下へと向かう。

こんな日は、仕えている人間はみな帰ることになっているのだ。

使用人もそのような声を聴きたくはないだろう。


ワインを一杯飲み干すと。

「エリック、話がある」それは、聞いたことがある声だった。

「アルテュール!」

「まさか、脱獄したのか?」


エリックはすでに、アルテュールの存在を忘れていた。

あそこは、入獄者の100%が死ぬ場所、生きているはずもない。

殺し屋を差し向ける必要すらない場所なのだ。


「エリック。俺のことを密告したりしないよな」

「勿論だ、さあ、姿を見せてくれ」

影に潜んでいるのだ。


だが、影から出てきたのは、アルテュール以外にもいた。

「その手に握られている、ナイフをおいてほしいものだな」

氷のように冷たい声が聞こえる。


「お前は誰だ」

「俺は、アルの連れだ、一緒に脱獄したんだよ、俺のことも密告しないでくれよ。まあ、囚人名簿に名があるかすら怪しいものだがな」

たとえ、召喚されたばかりのツクを見ていたところで、それがツクであるとはわからなかっただろう。

それは、そうだ。彼はもはやツクとは別の何かに変貌していたのだから。

それはかつて、タイプ99と呼ばれた、戦闘ユニットである。


記憶は定かではない、しかし、それすら必要とせず、貪欲に性能を高めていく。

自己完結型の戦闘ユニットなのである。

そして、周囲に死と破壊をまき散らす。まさに、人呼んで死神。


「ところで、さっそくで悪いのだが、話を聞きたいのだ、あの晩に貴様はどこにいたのだ」それは、俺の言葉だった。

「私は貴族で騎士団長なのだぞ、言葉遣いに気を使い給え」

「なるほど、だが私は、貴様らの呼ぶ魔王だ、つまり私は王族である、貴族如きに口調を変える必要もあるまい」

「!!」

「!!」

アルとエリックは見事にシンクロして固まった。


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