第50話 邪龍刀大蛇丸

050 邪龍刀大蛇丸


由緒正しい、辻斬りで刀の切れ味を試していた時に、突発的に事態が発生してしまう。

大刀大蛇丸の暴走。


逃げる兵士を見逃すわけにも行かず、縮地で近づく。

剣先は狙わずとも、兵士を貫く。

すでに振るまでもなく、勝手に虐殺を行う大蛇丸。

だが、本能で襲う動きには、無駄が多い。


「大蛇丸、貴様の動きでは、達人に勝つことはできん」

「え?本当、人間程度なら簡単に吸えると思ったんだけど」

「そうやって、油断したのではないか」

「・・・」


思い出せば、彼女を狩ったのも人間だったのである。

かなり以前に狩りたてられて、封じられたのである。

記憶も曖昧であるが、言われてみればそのとおりかもしれない。

「ごめんなさい」

「わかってくれれば良いのだ」

「これから、御主人の動きに任せるよ」

「これぞ、人刃一体じんばいったいというものだ」

「うん」


すでに、第一小隊の生き残りはいなかった。

皆、ミイラになりはてていたのである。


・・・・・

街では、第一小隊全滅事件が誠しやかに噂されていた。

なんでも、ついに魔王が復活したのではないかということだった。

金色に光る魔眼が辺りを薙ぎ払ったとか、悪魔のような長剣が兵士の精気をすべて吸い尽くしたのだなどといわれのない物語が吹聴されていたのである。


事件の真相を知る者はいなかったが、街の住人の一部は事件の一部始終を見た者もいたのだった。

そして、兵士の死体は血液をすべて失っており、完全にミイラになり果てていたのである。

第3師団長のエリック・マイーマインはその報告を受けて、苦々しい表情になっていた。

一体何が起こったのか?

そして、なぜ我が師団の兵士が襲われたのか?

やはり、魔王復活の予言は本当だったのか?

異世界人召喚の言い訳にでまかせだといわれていたが、本当だったのか?

本来魔王の復活は巫女が神から警告を受けるとされていたが、そのようなことは聞いたことがなかった。

神聖騎士団の師団長である自分が知らぬはずがない。

もし、本当ならば、対悪魔の聖銀の装備が貸与されるはずだ。

聖銀とはミスリル銀のことである、悪魔やアンデッドに効果があるとされている。

だが、その装備はまだ供出されていない。教会はそのような事実をつかんでいないということだ。

そもそも、今回の召喚は、勇者たちを人間兵器として利用するためなのだ。

いよいよ、アーマベルガー神聖王国が世界に覇を唱え、デウスから総神アーマベルガーにとって代わるための戦略の一部なのである。


世界に覇を唱え、『デウスはアーマベルガーの一形態である』こと知らしめるのである。

しかしこの理論は、はじめ、アーマベルガー神ができたときに語られたものの正反対の形である。

『アーマベルガーは、デウスの生まれ変わりの姿』なのである。と建国された当初喧伝されていたのである。

当初、デウス教団は、そのようなことはないと一蹴していたが、長い間に、癒着が起こり、認められてきたのである。

そして今や、その先鋒すら担いでいるのである。

アーマベルガー神聖騎士団として。


「対妖魔装備の供与を教皇庁に依頼せよ」

「は」


・・・・

辻斬りから帰った男はすぐさま、大蛇丸に封印を施した。

さすがの男もこの大刀の危険性を認識していたのである。

もてば、勝手に人を切り殺す刀など持ち歩けるはずもない。

きっと、自分以外の精神力の弱い人間ならば、町中の人間を切り殺して回っていたはずである。

しかも、その力は、刀を振るう人間の能力など関係なく、達人レベルにクラスアップさせ、武技(アーツ)を勝手に発動させるのだ。

しかも、切られた人間は皆ミイラだ。

なんだか嫌な予感しかしない。

そして、その予感は正しかったことがのちに明らかになる。


大蛇丸は、封印され研究室の広間に飾られるのだが、「ちょっとご主人様!だしてよ」

とそこで叫び続けることになる、その声は持ち主?にしか届かないのである。



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