第52話 尋問
052 尋問
エリックは簡単に拉致された。
彼は、鍛えてはいなかったのだ。彼の仕事は不倫なのだ、あの周辺の筋肉だけ発達していればいいわけである。未亡人は、すでに疲れて深い眠りについていたので、何が起こっていたか、知らないであろう。
その男にとっては、そのようなことは朝飯まえだった。
「御主人様、まさか女の子をさらってきたりしていないでしょうね」奏が目ざとく見つけて出てくる。まさに、この男のすべての動向を見張っているのであるから、当然の反応なのだ。
中身も男であること、ついでに、誰かすら知っていた。彼女にすれば、ジョークなのである。
「奏、尋問に適した部屋はないか」それはこの研究室の奥底になにがあるか見当もつかないという意味の言葉だ。
「ありますよ、何か喋らすんですか」声はとてもかわいいのだが、言っていることは、怖い。
「それで、御主人様は、声で聴きたいですか?それとも映像で見たいですか?」
何を言っているのでしょうか?
「自白剤を使うか、強制的に脳から記憶情報を引き出しますか」
意味は分からんが、何かとても恐ろしいことをしようとしているに違いない。
「映像情報の方が早くて、確実ですね」
但し、脳にかかる負荷は相当なもので、廃人になる可能性もあります。とは、この美少女は言わなかった。
もし、犯人でなかった場合は冤罪の人間に
しかし、だれもがそのようなことを知るはずもない。
「じゃあそれで」
「わかりました、奏、頑張ります」
とても笑顔がかわいい奏さんだった。
エリックは寝台に寝かされ、頭になんらかの椀のようなものをかぶせられている。
手足は拘束されている。
「皆さま、こちらの画面に注意していてください。オペレーティングはわたくしが行います」
小さな画面に集中する奏。
大画面には、まだ何も映っていない。
画面に何かが映る。
それは宗教関係者だった。
「キシン・マダール枢機卿!」
教会の一室で、枢機卿は言い放った。
「よいか、奴の女を始末しろ、離宮にいるはずだ、子供を産む前に消す必要がある」
「産んでいたら、それも始末しろ、わかっているな」
「は!」黒ずくめの男たちが返す。
「行け」
黒づくめ達は続々と出ていく。
だが、この画像の主だけは、すぐには向かわなかった。教会の別棟に向かう。
「アル、大変だ、離宮が襲われる。暗殺者が差し向けられるとの情報を俺は得た。」
「なんだと!エリック、すまない」
「友達じゃないか」
「ありがとう」
「貴様らついてこい、離宮が危ない!」とアル。
アルテュールとその部下の兵士たちが武装もそこそこに飛び出ていく。
「アル、お前も一緒に死んでくれよ」確かに男はその言葉を呟いた。
「エリック、やはり貴様が俺を!」と画面を見るアルが激昂する。
舞台は離宮に移る。
そこここで、使用人達が殺されている。
黒衣の暗殺者は、数も質も上だった。
離宮は、ひそかに運営されており、警備の人間は少なかった。
「エリーズ様~!」アルが到着し暴れ始める。
「取り囲め!」暗殺集団がアルに殺到する。
「日輪!」アーツを放つアル。
「白光連撃」
「飛燕連追」暗殺者もタジタジの猛攻撃だ。
だが多勢に無勢、アルの部下たちは、次々と殺されていく。
そして、アーツは体内の魔力を確実に消費する。
「エリーズ様~!」
「光線貫通」その剣戟が、暗殺者三人を串刺しにする。だが、あまりの攻撃のせいでついに剣が折れた。
そして武技による魔力使用が限界を超えたアルはふらついていた。
「しつこいんだよ」こん棒のような物で殴られたアルは意識を失った。
恐るべきことに、ほぼほかの暗殺者は死んでいた。
エリックは、アルを観察していたために、助かったのだ。
姿を見せていれば、死んでいただろう。
エリックはアルがつかんでいた指輪を見つけた。
それは、公爵家の紋章だった。
づかづかと奥の部屋に入っていく。
隠し扉はすぐに見つかった、商売上そんなものを探すのは得意だったのだ。
女は震えていた。
可哀そうだが、俺の為に死んでもらう。
だが、女は指輪を見た。
「あの人の遣いの方?」
その顔はけがれない純朴な少女そのものだった。
「はい、エリックと申します。ここは危のうございます。こちらへ」
変節した。穢れきった自分が癒されるような少女、なんとかして逃がしてやりたい。
確かにエリックはその瞬間はそう思っていたはずなのだ。
そうその瞬間は。
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