第5話 図書館の怪

005 図書館の怪


次の日もその男はやってきた。

本にいたずらしないでほしいものだ。

なんでこんなやつがここに来れるのだ。


その男は今日も本捲り遊びを止めない。

昼食すら取らずに、遊んでいる。

しかも、次々と棚から本を引っ張り出すのだ。


司書は、館長にこの庶民を追い出してほしいとお願いしたが、館長は王命故無理であると答えた。どうやら、巻き込まれ転移者で、もうすぐ放り出されるのでそれまでは我慢するようにといわれる。


最後の日の夜である。

ツクは深夜に起き上がった。

ひたすら本を読み、世界の情報について知識を得ていた。

そして、すでに、放逐の日は明日である。

だが、一つ気がかりなことは、図書館の最奥である。

それは、3日目には気づいた。

その図書館には、奥に隠し部屋が存在することを。

そして、その中に、自分が必要とするものが存在することが、なんとなく『図書館』から伝わってくる。

いままでの怪現象は図書館が俺を助けてくれていたのである。

なぜかはわからなかったが、それは確実であった。


そして、施錠されている図書館の扉はガチャリと勝手に開いた。

おそらく、今夜しか、その場に行きつくことはできないだろう。

明日には、城から追い出される。そうなれば、城内に入ることはもうできない。

そんな好意を受けられるはずがないことは、ここ数日で十分理解した。


貴族はもとより、兵士、メイド、使用人すべてが俺をできそこないという目で見ている。

はずれ転移者。召喚される勇者候補の中にも、そういう人物が出てくるようだが、その時はかなりひどい迫害を受けるらしい。歴史書には、婉曲にそう書かれている。

勿論、一緒にやってきた高校生たちからは同様かそれ以上のいじめを受けることになった。

ツクは、自分がわらわれるように、振舞った。

それが最良の結果を産むことを本で知った。


誰もいない図書館だが、隠し部屋の前にすぐについた。

本棚が少し発光しているで、見えるのだ。


隠し扉が勝手に表れて開く。

巧妙に壁に偽装されていたが、勝手に開いたのである。


隠し部屋には、やはり禁書とされる本達が詰まっていた。

さすがに、朝までには、いかな俺とて読み切れない。

そう、速読といえども万能ではないのだ。

だが、真ん中で輝く本がいた。

それに手を触れる。

『ツクよ、汝は我らが助けるべき恩のある者。我ら付喪神は、汝を助けねばならない。』

この世界で初めて、そのような言葉を聞いて、俺は凄まじい感動を得た。

嬉しかったのだ。涙があふれ出た。どんなに頑張っても、つらいいじめに耐えてもなお、心の中では泣いていたのである。

どれほどその言葉が自分を救ってくれただろうか。

「ありがとう、その言葉を聞けただけでも、ここにきてよかった」

『ツクよ、時間がない、後一年もあれば、ここの知識をすべて授けることができたが、そうはいかぬ。これを汝の心に刻みつけよう』

目の前に炎が立ち昇り、舞った。俺の心の中に刻みつけられる。

熱さと痛みが走る。

『我ができることは、これくらい、だが、この空間があれば、いずれお前を助けてくれるだろう』

「ありがとう、図書館、君が初めての友達だ、次の友達はできそうもないが、本当にありがとう。生きていけそうだ」

『我が名はウィズダム』

「そうかウィズダム、ありがとう」

『行け、付喪神の恩人よ、付喪神の恩人』


この時なぜウィズダムが2回も同じことをいったのかわからなかった。

そして、そのことに注意することもなかった。

もしも、仮にその時その意味が分かっていたら、これから始まる惨劇が起こることもなかったかもしれない。

そういう意味ではウィズダムは本当に知恵があったのではなかろうか。


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