第16話 特別犯罪者監獄

016 特別犯罪者監獄


特別犯罪者とは何を意味するのか?

国家に関する犯罪を行った者たちを収監する監獄である。

収監せずに殺せば問題ないようなものだが、例えば公爵の息子とか、腹違いの王子とか、そういう奴が犯罪を犯しても、死刑にはならないのが、貴族の習慣らしい。

平民なら奴隷になるか死刑になるかだがな。

そういう、殺しにくいのがここに入れられているのだ。

俺たちは、埋められた坑道を掘り返して、監獄の下に到達した。


この坑道の入り口には、俺が錬金術で作り上げた壁で隠してきた。


監獄は石壁でできていた。

俺たちはその下にいたので、一枚づつ石を外して、侵入口を作っていく。

うまく外さないと、出る時にばれるから慎重に仕事をこなしていく。


無事に侵入口ができる。

「じゃあ、ゴブニュはここらへんで、適当に掘っていてくれよ」

「お前がいないとそんなに簡単に見つからんよ」

「そんなこと言ってると、一人になったら困るだろう」

「そうだな」


忍び足と気配遮断で目標物をさがしながら監獄を見て回る。

さすがに、特別だけあって、ほとんど入っていない。

だから、目標物はすぐに発見できた。


だが、姿がヤバかった。

変な被り物をかぶせられている。

マスクマンといったらよいのだろうか。

監獄にいるのに、マスクマン。???


コンコンとノックする。

「誰じゃ、ついに儂を殺しに来たのか?」その声は、老いていた。

「いや、俺は、あんたに魔術を教えてもらいに来た」

「ははは、なんともけったいなことよの」

「結構真面目なつもりなんだが」

「ここまで、どうやってきた」

「穴を掘ってきた」

「何と!この奈落の底までもか」

「いや、結構横の坑道は奥深くまで進んでいるけど、そこから横穴を掘ってきた」

「それで」

「魔術を教えてもらいたい」

「しかし、お前は囚人なのだろう」

「囚人?奴隷?」

「お前、大丈夫か」

「ああ、記憶が曖昧あいまいでずっとこんな調子なんだよ」

「ふん、だがここまで来れるなら、逃げる方がよいのではないか」

「ああ、そうしたいが、魔術というのは、脅威らしいから、学んでおきたい」

「残念だな、魔術は人を選ぶ、才能がないと身につかん。そういうものだ」

「あんたは、才能があったのか」

「ああ、そういう意味ではあったな」

マスクマンは、少しうれしそうに喋っていた。それはそうだろう。

客などくることはない、この監獄ではひたすらに孤独なのだろうから。


「しかし、魔術の才があっても、このような暮らしでな」

「もっとすごい魔術師がいたのか」

「いや、人の業に負けたというべきであろうな」


「意味が分からんが」

「うむ、それでよい。しかし、残念ながら、儂の魔術は、治癒しかないのだよ、脱獄にはあまり向かん」

「いや、それでもいい、教えてほしい」

「人にものを頼むのに、そういう言い方ではいかんのではないかね」

「お願いします。師匠」

「よかろう、だが、魔術の才がなければあきらめろ」

「わかった。わかりました」

「うむ、どうせ儂も死ぬまでここ居る。少しばかり、お前に教えてやっても罰は当たるまい」

「ありがとうございます」


「まずは、魔力を感じ取ることからだ」仮面の男が俺の手を取る。

「魔力を感じ取るのだ」男の手から、温かい波動が伝わってくる。

「感じます。温かい波動です」

「!」仮面の男は驚いている風だ。

「では、これはどうだ」先ほどよりももっと少ないが感じる。

それは、聴覚検査であるような、微妙な感じだ。

右です。???なんだ?聴覚検査とは。


「感じます」

「うむ、お前には、魔術の才能がある」

「そうですか」

「驚いた、何かやっているのか」

「それか、どうかはわかりませんが、鉄鉱石を砂にしていました」

「!!」


仮面は、驚いて黙り込む。

「お前、自分が何をしているのかわかっているのか」

「え?脱獄用の道具を鉄で作るためにしていたのですが」

「よく聞け、その力は、錬金術に近い力だ。そして、それは神をも恐れぬ行いなのだ」

「錬金術は神となにか関係するのですか」

「神に挑戦するが如き行いである」その言葉遣いは、堂に入っていた。


この世界の宗教観では、錬金術は神に挑戦していると考えられてもおかしく無いのである。

そして、神を冒涜ぼうとくしているのだと考えられれば、逮捕処刑の道が開けるのである。


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