第11話 独房

011 独房


「なあ、あんた」

「・・・・」

「俺に、あんたのピッキングを教えてくれねえか」

「・・・・」

「食料庫で食い物とってきてやるよ、それを分けてやる」

「馬鹿野郎、でかい声を出すな」

「なあ、」

「なんで知ってる」

「鑑定だ」

「なるほど」


俺の独房の前には、やつれた男がいる独房がある。

彼は犯罪奴隷でここへ来た。

彼のスキルは『錠前破り』。

本来窃盗犯程度では、ここには送られない。

しかし、彼は送られてきたのである。

「道具がないとできないんだよ、先のとがった棒のような。こんな感じのものだ」

「あればできるのか」

「あればな」

「わかった」


結跏趺坐して、瞑想する。

自然とそうなったのである。

記憶はないが、体は覚えているのである。

体内の気を集める。

魔力を実態として、感じることができる。

そして、鉄鉱石に手をかざしていく。


鉄分だけ分離するのだ。

鉄鉱石は、アイテムボックスに入れてきたものだ。

ゴブニュからもらった食事も一部くすねて入れている。

ゴブニュを疑っているわけではないが、この待遇がいつまで続くかはわからない。

自分の力で生きねばならない。必ず生き延びねばならない。

そう、復讐するために、この世界にまで、俺はもう決して止まることはない。

俺はそういう男だ。

はじめは、うまくいかない。

勿論スキルがないからである。


魔力を放射して、鉄鉱石を分解できるはずはない。

そして気づく。

鉄鉱石とは、鉄分を含んだ石なのだ。

鉄Feと石(ケイ素Si)なのだ。

おそらく酸化鉄。

おそらく酸化ケイ素。

記憶は混乱させられているだけで、喪失していたわけではない。

分子構造に着目した瞬間から何かが変化し始める。

ボロボロと粉ができ始める。

そして、すべてが粉になる。

だが、そこまでだった。

意識を失ってしまったのである。


鉄鉱石は、粉になってしまった。

すべてがである。

鉄分だけ分離しようと考えていたが、すべてを粉にしてしまったのである。

何回か挑戦したが、同じ結果だった。


だが、収穫もある。

一回目よりも2回目、2回目よりも3回目の方が、石を粉にできる量が増えていったのである。

つまり、魔力が増加していることを示す現象と解釈することができる。


「よお、ツク、なんかずいぶんと変わったな」

「そうか、ゴブニュ?」

「ああ、良い傾向だ」

「食料頼むぜ」

「任せろ、一杯持ってきたぜ」

「助かる」

「こちらこそ、お前が簡単に見つけるから、収入が増えた」

「それはよかったな」


こうして、俺たちまた10日間地下の穴をさまよい、鉄鉱石を掘る。

魔力循環を体に使うと、力が上がることに気づいた。

つまり発掘量もおおくなった。

「お前、コツを覚えたな、すごい速度で掘るようになりやがった」

「そうか」


「なあ、鉄鉱石って掘ってからどうなるんだ」

「ああ?砕いて溶かすだろう、魔鉱炉で」

「魔鉱炉?」

「ああ、魔石を原料にした炉でな、高熱で鉄鉱石を溶かす。砕いた後は磁選して、鉄分のみを炉に入れるんだ」

「磁選!」

「そうだぞ、鍛冶にも興味出てきたのか?お前が奴隷じゃなかったら、教えてやるんだがな」

「ああ、そうなったら頼むよ」

「・・・ああわかった」


間があった。おそらく俺を奴隷から解放するには、ゴブニュでは無理なんだろう。

金額か権威かその両方かが足りないのだろう。


「なあ、ゴブニュ。磁石を持ってないか」

「あるがどうするんだ」

「くれないか」

「ああいいぞ、ばれるなよ」

「わかってる」

「行っちまうのか」

「無理いうなよ、磁石一つで世の中は変わらないよ」

「そうだな、がんばれよ」

ゴブニュは磁石をくれた。

だが、あれは磁鉄鉱でいいのだろうか。

赤鉄鉱は磁石に反応しなかったような。


磁石一つでは変わらない世界。

だが、それでも、自分を変える始まりにはなるかもしれない。




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