第94話 イエス、ユアハイネス

094 イエス、ユアハイネス


500人以上の大部隊が進撃したにも関わらず、その後、報告は全くない。

「何をしているのだ!」城壁守備隊の隊長は、苦虫をかみつぶす。

仕事では、ホウレンソウが何より大事だ。ホウレンソウとは、緑野菜の一種である。


「偵察隊は出したのか?」

業を煮やした隊長が、偵察隊数名を各地に出した。

だが、その偵察隊すらもホウレンソウを忘れてしまったかのように、音沙汰なしの状態へと陥る。


「捜索隊を出せ、何をやっているのだ!」隊長はついに切れた。


だが、現場では、もっと恐るべきやり取りが行われていた。

偵察隊の一つは夜に何物かの奇襲を受けて全滅した。

彼らはナイトウォーカーと呼ばれる危険な化け物だったが、殺した相手は、皆が同族になるという特性を有していた。



「玉1号、一体何をしているのかしら」その女は国民的美少女の顔をした物体である。

「偵察隊を全滅させたの」すでに幼女形態から少女形態へと成長してしまった異物。

「勝手なことをして、なぜ私に相談しないのかしら」ここでもホウレンソウ問題が勃発していたのである。


「きちんと処理しているなの」

「そうではないの、あなたの眷属を増やしていることが問題なのよ」女の顔からは表情が全く読み取れない。そもそも、それほど感情などないのだ。なぜならパーフェクトソルジャーだからだ。

男に気に入られるように、笑顔を作っているに過ぎない。無表情は、美しい顔だけに余計に不気味に見えた。


「不味かったなの?」そもそも、抹消されかかったことがあるだけに、玉1号は緊張している。(本当は抹消されたが、灰の中から蘇ったのである)

「ええ、あなたの眷属は太陽が苦手でしょ。ご主人様の部隊には、太陽の元でも戦える駒が必要なの」

「???」

「貴方、本当に、PSなの?生きてとらえよということよ。改造して洗脳して、ご主人様の駒にしたいのよ、わかって?」

水も凍りそうな冷たい声にコクコクと頷くしかない玉1号。

「ちゅ、注意するなの、問題ないの、玉に任せるの、生きたままとらえるの」少しキョドりながら回答する玉1号。

「頼むわね、とらえたら、座標(XXX、YYY)に集めて頂戴ね」

「わかったの、姉さんの言う通りなの」

さすがに、今度抹殺されると、灰も残らず殲滅される恐れがある、慎重に動く必要を再認識する玉1号。


こうして、偵察隊の残り以降は、すべて、手足をもがれた状態でとらえられた。

逃げられないようにする対策であった。

これは、カナデ姫からの命令であった。案外、猿芝居の役どころを彼女は気にいったようなのである。


手足をもがれた兵士たちは、生き残りたければ、あの男の為に働くことを誓わされる。手足が欠損し、激痛に苛まれながら脅迫されると、さすがに抵抗できはしない。


勿論、洗脳により、それは可能だが、より強い形で洗脳するためにそうしているのである。心の底から生き残りたいと思わせることが重要であった、ようなのである。詳しくはわからないが・・・。


忠誠を無理やり誓わされた兵士たちは、某所にて、緊急手術を受けて、手足を接合される。

その後、『人間革命』を注入される。

そして、その激しい副作用の期間中に、脳内は、洗脳情報によって封鎖されるという。一見すると拷問を受けているような状態が数日続くのである。


彼らは、目が醒めた時、かつての自分のほとんど失っている。

『人間革命』は脳内にも激しい副作用を発生させる。記憶がどんどん失われる。

その代わり、偽情報、彼らの王たるツクのための戦士としての記憶が刷り込まれているのであった。


この日も、某所(決してその場所をお教えすることはできないが)では、50名もの、王国の戦士が生まれた。彼らはツク王の下僕であり、盾であり、剣である。

巨大スクリーンには、女王たる、カナデ姫の美しい顔があった。

「カナデ姫様!」全員が平伏する。

女王なのに、姫なのは何かが間違っているような気がするが、熱狂的信徒である彼らには、その誤謬ごびゅうは全く気にならなかった。

「皆、御苦労、これから、我が夫の為に、粉骨砕身し励みなさい」

「イエス、ユアハイネス」50名が一斉に返事をする。彼らは、元捜索隊のなれの果ての姿であった。

彼らは、もはやくるっているといっても過言ではない。

だが、もっと何かがくるっている物体が存在することは確かであった。


『第2章 完結』



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悪夢のABIS(アビス)~奈落の底~九十九伝完結編 九十九@月光の提督・連載中 @tsukumotakano

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