第70話 なんのために?

070 なんのために?


魔石を錬金術により、魔晶石へと収斂しゅうれんする。

さすがに、ハイグレード品の魔石である。

魔晶石に簡単にすることができた。

「さすが、ご主人様」すかさず、奏が褒めちぎる。

かなりわざとらしいのだが、このレベルの美少女に言われると、ほとんどの男が喜ぶに違いない。


男も満足げだ。


魔晶石を収斂して、魔法石へと至る。

もう少し、魔石が必要だが、ほぼ魔晶石は完璧に近い状態で完成した。

「ところで、なんで魔法石を作っているのだったかな」

「勿論、アルテュール様が魔刃を使うためですよ」

「そうだったな」と肝心の目的を忘れてしまった男。


魔刃は、魔術に近い技だが、アルテュールの魔法属性は低い。ゆえに魔刃を使えない。

そこで、ルーン真言で回路を形成し、魔法石でエネルギーを供給しようという、計画になったのである。


「そうすると、もう少し、魔石が必要になるのだが、今度は30階層のボス戦?」

さすがに、エクストラハードしか登場しない迷宮。さすがに今度は、冗談では済まないのではないだろうか。

情報では、オーガジェネラルがボスのはずだが、いままでの例を踏襲するとオーガキングと大軍が出てくるに違いない。


「マリウスは絶対死ぬの」

「いや、俺は遠慮しとくよ、兄貴のお蔭でレベルは十分上がったし、それに兄貴の攻撃で死ぬのは嫌だ」まさかの告白だった。もはや制御不能に見える、ハイマジックは一歩間違えば、皆死ぬほどの威力である。この男であれば、「ヤバかった」といって平気で生き返るだろうが、普通の人間には無理な芸当であった。


「御主人さま、迷宮で何をなさっているのですか、仲間を攻撃するなんて、外道も外道です。それでも奏は、御主人様の味方です」

「ツクはきっと魔王なの、ヤバいなの、ヤバすぎるなの」今度は玉1号だ。

「まあ!」コテンと首をかしげる女。

「きっと、あの薬が効きすぎたの!」

「!」

「?」


「あの薬?」

「何てこと言っているの、玉1号、もう廃棄しようかしら、それは秘密の話のはずでしょう」

女の顔は笑顔だが、目だけは凍てついていた。

「違うの、違うなの、口が少し滑っただけなの」うろたえる玉1号。


それは、DNA強化薬である。DNAを強化といってはいるが、かなり無理やり変異させるため、性格が狂暴になったりするのである。

もともとは、一般人を精鋭の兵士に強化するために開発された薬であるため、そのような副作用は許容されてきたのである。

反対に、精神的に埋没する場合もあったりする。


「なんの薬なんだ」

「もう。恥ずかしいから言いたくなかったんですが、どうしても聞きたいですか」

「是非聞きたいものだ」と男。

「実は、御主人様のアレが元気がなさそうでしたので、ソレを強化する薬を使いました」真っ赤になる女。真っ赤な嘘である。俗称『人間革命』という恐るべき化学物資というよりは、兵器である。


「え!?俺元気なかった?」

「少し元気がないのかなと思って」

「すまん、至らぬ息子が迷惑をかけたようだ」

「そんなことは有りませんよ、あなた」


女は、すかさず切り抜ける。平気で嘘をついて。

男は、鈍感で何も感じなかったのである。


その後、玉1号は処分されかかったのだが、何とか不死の体を使い復活を遂げる。

だが、玉2号がロールアウトしていた。

処分された1号を隠ぺいするために準備したものだった。


「何と玉の姉妹なのか、まさに生き写しだな」

同じ製造方法なので、ほぼ同じである。片一方は何かおかしな現地生物に汚染されているだけである。

男は素直に受け入れたという。男にとって、都合の良い嘘はすべて真実なのである。

あと、例の薬は多少とも思考力を低下させる副作用も存在する。死をも恐れぬ兵士になるために、そのように作られているのである。


ただし、近ごろ狂暴すぎるというわけで少し沈静剤を処方され寝ているうちに打ち込まれていたのは秘密である。

これは、現在の体を酷使しすぎて早死にすることを防ぐことを目的でなされた処置であった。

彼女らの目的は、この男いかに長生きさせるかということである。

そして、仮に死んだ場合は、記憶をコピーした、新しい体でさらに長生きを強要するのである。

彼女らにとっては、指揮官が必要なのだ。

やっと、数百年ぶりに得たのである。決して失ってはいけない存在なのである。


だが、そのようなことはこの際関係なかった。

話の中では、魔石がまだ不足しているのである。

魔法石に至るには、まだ魔石が必要である。

それを達成するのには、30階層のボスに挑む必要がある。


危険性は、数十倍の強度で上がることが予想されるのである。

今回ばかりは、パーフェクトソルジャーの部隊が出動すべきなのだ。

この男の異常な強さをもってしても、エクストラハードの30階層ボスの危険度は未知数である。男を守るために、彼女らが出撃するのだ。


「すまん、そのことだが、どうやら、感染うつったみたいだ」その時、アルテュールが告白した。

何が感染したのか、勿論、魔刃というスキルである。

「せっかくもう少しだったのに、こんなことになるなんてな、いままでの苦労を返せと言われそうだ」アルは、頭を掻いた。


男の病、スキル伝染病、なぜかどんどん、配下に感染していくのである。



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