第44話 大蛇

044 大蛇


「今、閃いた」こういう時の男はだいたい妙なことを思いつくのだ。

だいたいは人に迷惑をかけるようなことを思いついたのである。


しかし、今回はそうではなかった。

「何がじゃ、しかしこの刀という武器はすごいな」

「そうそう、そうなんです」男は自慢げだ。


「私、いま思いつきました」

「だから?何をじゃ」


「長い刀を作ります」

「ほう、しかし使えるのか、どれくらい長いのか」

「物干しざおです」


それは、所謂、某佐々木の獲物だったのだが、ふとしたきっかけで、思い出したのである。

「作ります」

この世界の男は、絵が下手ではなかった。

非常に上手にかけるのだ、きっと適当に選んだ死体の能力なのだろう。

この男の絵は、大概はわからない子供の落書きで終わるのが常だったはず。


男が書いた物干しざおは、巨大刀だった。

「こんなもの抜けるのか」

「大丈夫?」

すでに疑問符がついている。

決して大丈夫ではないはずだ。


「ご主人様が作りたいのですから、作ればいいのですよ」笑顔で後押しするAI。


だが、本来は、武器を作り終えれば、エリーズ様を探しに行くはずだったのだ。

マリウスはすでに、情報収集を終え帰還していた。

そして、防具も作るはずだったのだが、ゴブニュすらそれを忘れていた。

ゴブニュは新しくできた彼女とよろしくやっているようだ。


そして、マリウスも、何とまたも奥から一人の女が出てきたのである。

マリウスは一目ぼれしてしまう。

彼女ができたマリウスはよろしくやっているようだった。

一体ここには、何が眠っているのだろうか、だが、そんないかにも胡散臭いことを気にするような人間はいなかったのである。


そして、エリーズを追うべき男、アルテュールは、これもまた、エリーズ顔の女に篭絡ろうらくされる。


そして、俺は、鮎川奏顔のAIがよろしくやろうと押し寄せてくる。


俺は気づいていなかったが、この研究室は相当ヤバいのだ。

それだけ皆が操られていた。

彼女らからすれば、操っているわけではない。居心地よくして逃げられないようにからめとっているだけなのだ。


ただ、この研究室は研究室ではなかっただけなのだ。

ある目的を持っていたが、エラーが発生していた状況に過ぎないのだ。

エラーを修正するために彼女らは行動するのである。エラーの第一は、主人がいなかったことである。それは今修正されたのである。


「しかし、このルーン真言の書を開かなくてはならんのだが」と男。

「大丈夫です、ご主人様、暗号解析技術でスペルの解除に成功しています、いつでも開くことは可能です」

「そうなのか、だが、亡き師匠の意思に背くのはどうかと思うのだ。俺も解呪と開錠で解放することはできるのだ」

「さすがはご主人様です~」

だが、このAIはすでに、中身の解析まで終了している。

危険な呪文等があれば、その前に消さねばならないからだ。

結果、それほど危険なものではなかった。

前史文明の神々へ祈る、初歩的な加護の呪文であった。

それを武器や防具、体などへ刻みこみ力を得るというような原始的な内容であった。


因みに、師匠はまだ存命中である。これは前にも書いている。

「取りあえず、御主人さまの業前ですごい一品を作りましょう、私とても興味あるんです」

作るものは、刀である。そんなものに興味のある女は、ある意味危険ではなかろうか。


そして、危険な大刀が完成する。

オリハルコンをベースにミスリルとヒヒイロカネで作られた、巨大刀。

一体何を切るのであろうか。

巨人を切るならば、有効に使えそうな刃長(180センチ)である。

「三郎丸と名付けよう」

「なぜ?」とゴブニュ。

「太郎と次郎はすでに存在しているから?」

「ほう」


「ご主人様、それでは、ご主人様の刀が3番煎じではないですか、絶対だめです。大蛇丸おろちまるの方がかっこいいかなと思います」笑顔でそんな物騒なことをいう女は危険なのかもしれない。


「そうですね、血を吸うほど切れ味が上がるとか、なんだかロマンですよね」

それは、吸血鬼なのでは?

多少の疑問もありつつ、女に気にいられるべく男も愛想笑いを浮かべるのだった。

何といっても、国民的美少女の顔、その破壊力はヤバい。


だが、その余計な愛想笑いが世界を氷つかせるかもしれない魔剣を生み出すということを男は理解していなかったのだ。



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