第45話 健康診断
045 健康診断
本来は、エリーズ様捜索を開始するはずだった男は、今日も今日とて、牙を抜かれていた。
しかし、その甘々の生活の中でも、恐るべき事態は進行していた。
それはエリーズ様似と国民的美少女似の会話だった。
「分析の結果は、悪いと言わざるを得ないでしょう」
「そんなに?」
「はい、これでは、長期に生きることは不可能です」
「余命はどれくらいなの」
「あと50年持てばいいところかと」
「・・・・」国民的美少女は青ざめた。
「たった50年」
「はい、旦那様の記憶には、欠落もございます。なんらかの原因で、記憶を断線されています。しかし、その記憶総量自体は我々の旦那様としては申し分ないものでございましょう」
「そう、さすがは御主人様ね」
「それにしても、短すぎるわね」と国民。
「激しく同意します」とエリーズ様。
「とするとやはり、あれを打ちましょうか」と国民。
「わかりました」とエ様。
何を打つのか?
それは、彼女らも体内に注入されている、薬剤である。
ある種のアミノ酸である。
遺伝子を構成する物質を変化させる物質である。
パーフェクトソルジャーたる彼女らは、そのような物質により、パーフェクトソルジャーとなっているのである。
その効果として、頑健で強いからだを得ることができるのである。
ただし、そもそもがパーフェクトソルジャーとして作り出されている彼女らと、堕天使に適当に連れてこられた死体では元が違うためどのような反応が起こるかは不明だった。
適当な死体に関することを彼女らは知らなかったのだ。
だが、彼女らは非常に賢いので、その男の遺伝子から、その男の人体を作り出している。
いざというときは、その人体に、脳を移植すれば、元のままで行けると踏んでいるのである。
それが、元のままといえるのかどうかは別にして。
奥の間は、非常に深い闇に閉ざされているのだが、ここにいる男たちは、そんなことは知らなかった。そもそも、只の研究室から女が現れるわけがないだろう。
そういう意味では、皆幸せな奴といえるだろう。
「御主人様、今日は、ご主人様の健康診断を行いますよ」と国民的美少女は何と看護師のコスプレで登場する。そのような記憶がないにも関わらず、男は妙に興奮してしまう。
「奏ちゃん、なんてかわいいんだ」
「もう、御主人さまのエッチ」国民は笑顔で男をその気にさせる。
何とも、幸せな男である。
恐らくそれは、激烈な効果を発揮するに違いない。奥の部屋で注射針が怪しく光っていた。
「さあ、こちらへ寝てくださいね、少し、奏が診察しますよ」看護師が診察することはないのだがな。
「少し眠くなるかもしれませんよ」
強力な麻酔がマスクにより放出される。
一瞬で眠りこんでしまう男。
「危険な場合は、緊急オペに移行します」と国民。
「了解。」そこには、部屋で、男の事を旦那様と呼んでいたあどけない少女がいた。
彼女もまた素晴らしい可愛さを備えている。
だが、二人の目は笑っていない。
「メディックは準備を完了した?」
「緊急即応展開の配置についています」画面から声が聞こえる。
それは、開頭手術の事を指している。
予備の肉体を用意しているのだ。
いざとなれば、その体に、いまの体から脳みそを取り出して、移植し、その体で生きることができるように。
男の寝顔はだらしない。
きっと、看護師姿の奏といやらしいことをしている夢を見ているに違いない。
それを見下ろす奏という女の目には、なんの感情も浮かんではいない。
彼女はパーフェクトソルジャーであるため、感情を完全に制御し、目的を遂行するのである。
「
見事に、静脈に注射針を刺す奏、戦場ではメディックすらも行うのだから当然できるのである。
「ぐお~~~」
結束バンドで、ベッドに縛りつけられている男が吠えた。
目が見開かれ、超強化状態に入っているのか赤い目で光を放射している。
「素晴らしい、さすがはご主人さま、強化状態に突入できるなんて」
「さすがは、私たちの旦那様です」と少女がいう。
「ですが、強化のバランスはうまくいっていないようです」
「しかし、これでうまくいくのではないでしょうか」
「やはり、肉体が脆すぎるのです。今回の治療は適切といえるでしょう」
「はい」
こうして、3日間にわたる健康診断がひそかに行われた。
他の男たちは、皆そのことに気づくことはなかった。
そう、皆がよろしくやっていたのだ。
その男だけが、現在の肉体で生死をさまよっていただけなのだ。
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