第63話 ひたすらに作る鍛冶屋

063 ひたすらに作る鍛冶屋


ルセール・ド・ツク・ゾーレは貴族であり、鍛冶屋である。

魔石炉でねっせられた溶銑が今日も型に流し込まれている。


少し、奥まった場所に工房があるため、客などない。

しかし、鍛冶屋は、飽くことなく剣を作る。

そして、飽きると、筒を作るのだ。

筒の目的は不明だ。


「あなた、少し休みましょう」すっかり、売り子がいたについている奏が飲み物を用意してくれる。魔石冷蔵庫なるものがあり、冷たい飲み物も出せるのだ。

板についているが、客はいない。


用心棒のアルと盗賊のマリウスは、貴族の助手である。

「このままでは、鍛冶屋になってしまう」

「ナ~れ、ナ~れ」

「兄貴なんの呪文ですか」


「しかし、本当にこれが鍛冶屋なのか」

「そうだ、鍛冶屋だ」明らかに嘘である。

鍛造を熱なしに行うことなどできないのだ。

刃の作り方も違う。最も、剣に日本刀のような刃は必要ないだろうが。

剣、特に両手剣は叩いて切るというより、叩き殺す兵器に近い。


「とにかく、作るぞ」

「買いに来ないのに何で作るんだよ」

「きっと、客は来る!・・・ような気がする」

「おい!」


そもそも、冒険者は自分の武器を買った店につくことが多い。

メンテナンスも必要だからである。

そもそも、信用できない店で命を預ける武器を買うことはできない。


だが、奇跡が起こる。

客が来たのだ。

「おい、武器を売ってくれ」

「帰れ!」

しかし、一瞬で帰れという男。

そう、この店は貴族の店なのだ。

言葉遣いに注意が必要なことは書かれている。

「せっかく買ってやろうといっているのに」

「御主人様に無礼な口を利くことは許しません」

「おお、すごい美人だな」

「貴様、死にたいようだな」

一瞬だが男の目が赤く光ったように見えた。

尋常ならざる殺気に、冒険者は逃げていった。


「せっかくの客だったのに」

「じゃあ、エリーズ様が客対応で」

「いかん、あのような馬鹿者に売ってはならん」

「その通り、剣術の何たるかもわからぬ馬鹿者には要らぬ剣よ」


すでに、売ることすら忘れている。鍛冶屋だった。

「しかし、暇だな」

「何がだ」

「剣ばかりだと飽いてくる」

「あの、刀というやつを俺にも作ってくれないか」

「剣法ではなく刀法になるのだがな」

「剣法とかいってなかったか?」

「お前鋭いな、だが、厳密にいうと刀法が正しいのだ」

「お前から、厳密とかいう言葉を聴く日がくるとは、すでに世界が終末を迎えているような気がする」

「お前が知らぬだけで、俺は非常に厳密に作っているのだがな」

「何を?」

「炭素量だ、鋼は炭素の含有量で性質が変化するのだ」

「!!!」

まさか、あの適当な作業の中に、工業規格の如き精確さで炭素含有量を調整していたことなど、知るはずもない。また見ていてもわからない。


特に今は、鋼の剣しか作らないが、その気になれば、様々な合金を混ぜて作るのだ。

「よしでは、日本刀に似た刀を作る、弟子たちに教えてやろう」と男。

「弟子?」

「君らのことね」

「なぜ似たとつくのだ?」

「それは、日本刀を名乗るには、玉鋼から作る必要があるのだよ、しかし、玉鋼作るのめんどくさいので、純鉄に炭素を混ぜて、その他ファンタジー金属を混ぜるので、形状が似た何かになってしまうのだ」


「わかった、妙なこだわりはすてて、似た何かを作ろう」

「よし、作るぞ」


こうして、適当な合金をつかい作り始めるのである。

「折り返すこと99度の九十九つくも刀よ」

芯材には、オリハルコンと聖銀の合金を使う。

外側は、見た目を美しくするために、ヒヒイロカネを使う。


非常に近いところを通過していたが、その時には気づかなかったのである。

焼き刃土をつけて、焼き上げて、一気に油に漬ける。

ジュオ~という音をたてて、刀が急冷される。


研ぎあげると、美しい夕日のような色が出てくる。

波紋がさざ波のように美しいできあがりである。

鑑定眼で見ていくと若干金属の分散ができていない場所に、錬金術で改質する。

九十九里くじゅうくりの夕陽」と名付けよう。


非常に惜しいところまで来ていたのだ。

名前まで一里もないところまで。

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