第62話 恐るべき館

062 恐るべき館


鍛冶屋のはずだが、住まいは何故か、高級住宅街である。さすがに王都のように貴族街区はないのだが。

その屋敷はいつの間にか購入されていた。

しかし、最近やってきたばかりである。

「ここは去る貴族のお屋敷であったものを買い取りました」こともなげに言う奏さん。

あの子爵家でいただいたお宝を渡したこともないはずなのに。


「ご主人様は貴族ですので、この程度の屋敷は必要かと思いまして」

「しかし、お金は?」

「大丈夫です、彼らが稼いでくれるでしょう」

彼らとは、親衛隊であろうか?

「ですが、御主人様、彼らが我らド・ツク家のもので分かるような紋章は必要かと思います」

歴史が浅い、ド・ツク・ゾーレ家に紋章がなどあるはずがない。

そもそも、その歴史すら捏造ねつぞうだがな。


「こういうのがいいと思う」

「なるほど、これは双頭の鷲ですね」

「いや、これはカラスです」

「ご主人様には鷲が似合うと思うのですが」

「なんだか、カラスでないとまずいような気がするので」

「しかし、足がなぜ3本もあるのでしょうか、異常があるカラスなのでしょうか」

「話せば長くなるのだが、思いだせないので説明を省略します」

「わかりました。さすがはご主人様です、できるだけ鷲に近いデザインで作りましょう」

こうして、我が家の紋章は三本足の双頭の烏に決まった。

しかし、誰がみても双頭の鷲にみえ。


「おかえりなさいませ旦那様」メイドたちが居並んでいる。

「これは?」


「はい、御主人様のご威光に屈服し、臣従を誓った女たちでございます」

「・・・」

「ただし、手を出さぬように」と奏さん

「そのような場合は?」

「消去されます」

「!」

「そのような無慈悲なことをしませんよね」

どうやら、俺でなくメイドが処分されるようだ。

そして、彼女らは脳内革命を起こされていたのである。


・・・・


その館は最近購入された、貴族が買ったようだ。

即金で買ったという噂が流れていた。

相当な金持ちの野郎に違いない。

お宝を盗んでやらなくては!

町に巣くう盗賊達が動きだす。


3本足の双頭の鷲の紋章旗が翻る邸宅。

朝昼は警備が立っているのが、夜はどうか。

門前には、二人いるが、広大な屋敷である。

鉄柵で囲われているが、このような防御などないも同じである。

世闇に紛れて、三人の盗賊が敷地に侵入する。

屋敷の壁まで走る。

裏口の扉の鍵など、簡単に開けることができる!はずだった。


音もなくそれはやってきた。

独特の臭気がする。「うん?」

赤い目がこちらを覗きこんでいた。

青白い顔の男の目が赤く光っていたのである。

「わ!」

盗賊の首筋に青白い男がかぶりついたのである。

「ぐう!」

何かが食いちぎられる音がする。

残りの二人は何も反応できなかった。

「逃げ!」その時にはその盗賊も、首筋にかみつかれていた。

もう一人も別の男に捕まって、同じ運命をたどる。

彼らは、倉庫に連れ込まれる。


よく見れば門に立っている兵士の目も赤く輝いていたのだが、勿論誰もそんなことは知らない。

結局、盗賊が再びやってきたのだが、同じような結末をたどることになる。

彼らは、どこかの領軍の鎧を着ていた。

勿論、誰も知ることがないのだが。

やがて、この街の盗賊は有る事実を知ることになる。

消えていった同胞たちが最後にどこに向かったのかを、そして、それを最後に、彼らを見ることは決してなかったのだということに。



親衛隊は、メルキア大迷宮に冒険者として、挑むことになる。

武器の実験のためである。

ユーゲントの諸君も同様である。彼らは、訓練のためである。

どちらの集団も、近ごろやってきた、自称貴族の紋章のマントを纏っていた。

マントの着用は、騎士や貴族しか許されないのだが、勿論、自称貴族の男に文句を言う人間はいない。貴族とのもめごとは、庶民は避けねばならない。


彼らの鎧には奇妙な絵柄が刻まれていた。

今まで見たことのない文様である。

そして、彼らの恐るべき強さは瞬く間に、冒険者の語り草になっていくのである。


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