第2章 迷宮都市編
第61話 迷宮都市
第2章 迷宮都市編
061 迷宮都市メルキア
その街には、メルキア大迷宮と呼ばれる迷宮が存在する。
迷宮がなぜ生まれるのかは、判然としない。
しかし、なんらかの知的生命体ではないかと推測されている。
それだけ巧妙に人間を誘引するのだ。
そして、命を落とす。迷宮はそれを飲み込む。それが栄養だと唱える学者もいるが本当にそうなのだろうか?正直それを知る者はいない。
俺には、苦しむ人間を見て楽しむ、悪趣味な連中の娯楽の為に設置されているのではないかと思われた。
少なくとも、きっとそのように見て楽しんでいる奴は必ずいるに違いない。
俺を見ている奴がいるようにだ。
ルセール・ド・ツク・ゾーレの武器の店。
それは、迷宮のメイン通りから離れた場所にある。
俺がやってきてからできたのである。
俺の店だからだ。
店長兼鍛冶である。
用心棒アル。
盗賊マリウス。
販売係奏、エリーズ様似、エリス似。
マスコット兼吸血鬼玉1号。
店を使用するうえでの注意点。
ルセール・ド・ツク・ゾーレは貴族のため、言葉遣いに気を付けること。
また、丁寧な言葉遣いを期待しないこと。
これに反する場合はどのような対応を受けても諦めなさい。
と書かれている。
魔石炉が鉄を溶かす。
その溶銑が型に流し込まれていく。
量産品は、通常の鋼である。
だいたい、適当な商売をしているので問題ない。
普通の鍛冶屋は、それを再度熱して、鍛造するのだが、男はそんなことをしない。
少し触れば、調質と刃部分の変態に成功させてしまう。
だが、その面倒な作業を飛ばす割には、ルーン真言を懸命に鏨で刻み込む。
なぜそのようなことをするのか。
そう、これは効果実験である。
次の剣には、
これで、模様のない剣、鏨彫り剣、エッチング(酸蝕)の剣が出来上がる。
今度は、別の真言を刻む。
次は別の真言。
男は飽くことなく続ける。
一体だれがこの剣を使うのだろうか?
だが、心配はない。
彼には、それを使う兵士がいたのである。
兵士たちは、奥の部屋から出てきたのである。
だが、なんだかどう見ても思い出せないのだ。知り合いに兵士などいない。
「この方たちは、どなた様ですか」と俺。見たこともない奴だが、こいつら知らんが、とか言えない。
「ご主人様の兵士ですよ、一緒に戦ったことを忘れたんですか」と奏。
「そもそも、『俺の兵士』などいなかったような。それに一緒に戦ったわりに、見覚えがないのだが」
「そうですか、ご主人様は忘れっぽいですからね、彼らは負傷を治したご主人様の親衛隊ですよ」皆、強靭な肉体を持つ兵士たち。
「親衛隊?」
「そうですよ、御主人様と世界を作り上げるために、命を捨てた最初の仲間で親衛隊です」
世界を作り上げる?命を捨てた?最初の仲間?の親衛隊?
意味がわからない。
「閣下の御為に、粉骨砕身、命を捨てて戦います」先頭の兵士がどこかで見たような敬礼をしながら宣誓した。
かつて、一緒に脱獄したもの達はいた。
彼らは、皆バラバラの体格で、一部欠損した者もいた。
それに、痩せていた。食い物が限界まで少なくなっていたからだ。
ここにいるものは、彼ら(脱獄囚)とはまったく違っていたのである。
まさに、何とか人の選別で選ばれた勇士のように見えた。全員が。
彼らは、地獄の苦しみを味わい、体内革命を起こしたのである。
DNA変異物質を注入されていたのである。
そして、体内革命中には、洗脳情報を植え込まれていた。
誰よりも、男のために働くことを誓う兵士たちが生まれたのである。
そして、彼らの後に、少年たちが颯爽と登場する。
例の敬礼をする。
「我々ユーゲントも閣下の理想を実現するために尽力をお誓い申し上げます」
青年将校であった。
彼らは、孤児院から売られてきた子供であった。
メルキアの孤児院では、子供売買が行われているのである。
「ユーゲントの皆さんの父様はこの方、ルセール・ド・ツク・ゾーレ様です。貴族の名に恥じぬように精進しなさい」
「は!母上様」
「よろしい」
彼らもまた、濃度の薄い物質を注入され脳内革命をもたらされていたのである。
その脳内、実は人体すらも改造する物質は今後『人間革命』と称される危険な化学物質である。
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