第60話 旅立ち

060 旅立ち


勇者召喚儀式後に、次々と不穏な事件が発生したアーマベルガー神聖王国。

アーマベルガー13世は、真相究明を厳命したが、捜索は杳として進展しなかった。


ロックの大反乱(師匠のいる場所はデスロックと呼ばれる)。

神聖騎士団第3師団襲撃事件。

神聖騎士団第3師団長の失踪事件。

ソドーム男爵家の失踪事件。(その他にも妙な事件はあった)


師団襲撃事件では、死者が異常な死にざまをさらしていた。

そして、その事件の現場では、悪魔あるいは、魔王が復活したのではないかという噂が流れていた。

ロックの大反乱の時、悪魔らしき者が視認されている。

師団長の死体あるいは行方は杳としてしれない。

ソドーム家事件では、家人も併せて、兵士もろとも、全員が消息不明という異常事態であった。


だが、魔王復活の第一声を上げるべき神聖教団では、いまだ魔王の存在を検知できていなかった。

巫女あるいは聖女が魔王復活を認知することができるのである。(主に、神の声を聴くらしい)


ツクは、この殺伐とした世界に嫌気がさしていた。

この男にはこの現象がたまに起こるのである。


どうも、殺し過ぎると発症するらしい。

勢いよく殺しまくる反動なのだろう。


「せっかくの異世界をこのような殺伐として、生きていてはよろしくない」

そんな情念にとらわれた男は、この街を出ることを決意する。


「それがよろしいでしょう」奏が賛同する。

精神の疲労が見られるため、休養させた方が得策と考えたのである。

それに、いまは事件の捜索が厳しい。

証拠は残してはいないはずだが、警戒するに越したことはない。

「さて、どこへ行ったものか」

「迷宮都市などはどうでしょうか」すでに、逃亡先を考えていた奏が押してくる。

「迷宮都市。なんかいい感じだ」

簡単にのる男。

「では早速ですので、参りましょうか」


「すまん、俺は国に帰りたい」ゴブニュだった。

念願のミスリル銀を得たのである。それも当然である。

「ああ、俺もゴブニュの国にもいってみたいが、仕方ないな」

「いつでも来いよ、歓迎する」しかし、顔色がさえない。

心配ことがあるのだろうか。

「どうした、おっさん」

「その本を写本させてくれるか」

「ルーン真言か?」

「ああ、いいぜ、俺とおっさんの仲じゃないか」

「それと・・・」

「なんだ?」

「大丈夫ですよ、ゴブニュ様の妻として、連れて行って結構です」

「お!気づかなかった。おめでとう、おっさん」

それは、奥から出てきたゴブニュの女と俺が呼んでいるドワーフ族らしき見た目の女だった。だが、直感的に違うことはわかっていた。

「恩にきる」


こうして、おっさんとゴブニュの女は一足先に去っていった。

「お前らは、どうする」アルとマリウスである。

「お前と一緒に行くよ」

「兄貴頼んます」

「俺も、一人じゃ寂しいからよかったよ」

「一人じゃないの」そこには、身長の伸びた玉1号がいた。

「そうですよ、奏が慰めてあげますよ」


こうして、俺たちは研究室をたたんで、旅に出たのである。


「そういえば、戦闘で負傷したみんなはどうした」

「大丈夫です、いまは別の場所で治療を継続中です」

「別の場所?」

「内緒です」クスリと笑う奏。

「そういえば、彼らには、孤児院の子供を雇えと命じていたが、結局報告を聞かなかったな」

「さすが、ご主人様です。身寄りのない子供たちを救われるのですね、大丈夫です。メルキアにも孤児たちがたくさんいます。彼らを導いてあげればよいのです」

「導く?」

「助けてあげるということですよ」


本当は兵士として、教育しようと思っていたのだが・・・。

しかし、この時、俺は知らなかった。

俺の考えが、多くの子供を巻き込むことを。

それが、良いことであったのか、悪いことであったのか。


それは、本人たちが判断するしかないであろう。

本当に、幸せになったのかということを。



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