第59話 事件

059 事件


オークの腕力が勝り、マリウスは抑え込まれる。

「死ね!」オークの剣がマリウスの首につきこまれようとしている。

マリウスは必死に手を抑えて防いでいる。


ドス!

オークが蹴り飛ばされる。

そもそも、一騎討する必要などないのだ。

「卑怯だぞ」

大蛇丸の切っ先がその右手を切り飛ばす。

「散歩の途中に襲われたのだ。卑怯とはなんだね、強盗が」


「さあ、マリウス、オークの中心部はそのだ、切り落として、二度と被害者を作ってはならん」

「死ね~、豚野郎!」

下腹部に剣が付きこまれる。

「ぎゃ~」


「助けて~」

「ここで質問だ。お前はそういう人間を助けたことがあるのか?」

「有る、あるとも」


大蛇丸が床ごとこ顔を真っ二つに両断した。

「嘘つきは許されん大罪だ」


「助ける気があったのか」とアル。

「勿論ない、聞いてみただけだ」

「そうか」

「豚になど興味はないからな、マリウス、修行が足りんな。もう足を洗え」


男は、書斎の本棚を怪力で破壊する。

その奥に金庫が隠されていた。

「俺が開ける」

「嫌、穴をあける」


金庫の扉が粉になって散っていく。

「それより、アル、兵たちは無事か見てきてくれ」

「ああ、しかしお前は無茶苦茶だな」

「そうか?」

「金庫の扉を粉にするんだぞ」

「粉といっても、金属の粉になっているだけだぞ、性質が変わる訳じゃない」

「???」


「マリウス、しっかりいただくぞ、しゃんとしろ」

「おう!」


すでに玄関には、人影がいた。

「御主人様」

「奏、こんなところまで出てきたのか!」

「はい、御主人様のことが心配で」

「なのなの」そこには、玉1号の姿もあった。

「ツク、奏さんらが、負傷した兵を基地に運んでくれたぞ」

「え?そんなことできんの」

「勿論でございます。ご主人様の兵士ですから」

「俺の兵士?」

なんだか釈然としないが、負傷兵の救護が必要なくなったのは朗報である。

恐らく何人かは死んだに違いない。


「では、発見される前に撤退する」

「はい、御主人様はお先に。私共は、攪乱かくらん工作してから帰ります」

「兵どもは?」

「基地で療養しています。しばらくは私共にお任せを」


奏、玉1号、エリーズ様に似た女、エリスに似た女、ゴブニュの女が工作を開始する。

といっても、血液や死体は玉1号がきれいにしていく。

彼女はその手のプロなのである。


奏と他の女たちは、部屋をきれいに整えていく。

そうすると、剣のあとなどは残るが、こぎれいな部屋になっていった。

ただし、部屋の主たちは、いなくなってしまったが。

この屋敷には、女も大勢いたが、彼らは、それは逃がすようにしていた。

子供はいなかった。

女たちは、見逃されたのである。

だが、それをよしとしない者たちもいた。

それが彼女らである。


証拠の隠滅は徹底するのが鉄則。

パーフェクトソルジャーは当然そう考えるのである。

逃がされた女はことごとく捕捉され拉致された。

こうして、生き証人がすべていなくなるのであった。


この領主館の近くの住人は夜何が聞こえても、絶対に外に出ないし見ない。

かつて、悲鳴を聞いて家を出たものは死体をさらし、聞いたといった者は耳をそがれ、見たといったものは目をえぐられたのである。

ゆえに、館で剣戟の音が聞こえたとしても決して知ることはない。


後にソドーム子爵家失踪事件と呼ばれる奇怪な事件が発生したのである。

誰一人例外なく、館の人間は一夜にして消えさっていた。

戦いの後は有るが、死体や血痕などはない。

部屋はきれいに整えられていた。

食堂には、いまからそれを食べようとするかのように、料理が並んでいたという。


事件を捜査した軍の者は皆、狐に包まれたような表情を浮かべるしかなかった。

現代のテクノロジーで調べれば、遺留物は発見できたかもしれないが。


だが、血液のプロが処理した血痕はおそらく発見することはできないであろう。


このようにして、王国で謎の事件が発生したわけだが、基地内でも事件が発生していたのである。

「玉、身長が伸びたのではないか」

「そうなの?」

「ああ、きっと伸びているぞ」

「きっと勘違いなの、玉は、まだ子供なの」


玉1号の身長が急に伸びたという奇妙な事件が発生していたのである。


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