第73話 免許皆伝

073 免許皆伝


魔刃!明るく輝く刃紋。

それは、刀により、違う。

刃紋が違うからである。

男の魔刃は刃紋すべてが美しく光る。

それは、魔力量の差によるものと考えられえる。


多くの者が、次々とこの魔刃スキル(あるいは武技(アーツ)を取得していく。

だが、彼らは精々が刃の部分のみが光る程度である。

男の場合はだんだんと目が赤くなっていく。

瞳部分が金色に光り始めれば、完全形態に近い状態である。

魔王のである。


彼らは、『人間革命』により、親衛隊になった者ばかりである。

ゆえに、やすやすと男のスキルが伝染していく。

所謂、波長が合いやすいのであろうか?


そして、一定のアーツを会得すれば、男は、手づから刀を打ち、弟子たちに与えるのである。

鞘と柄は、師母の仕事である。

そして、刀(異常に切れる)でも切れない鞘を作り出すのである。


これを貰えば、一応の剣豪(刀法不敗流)である。

辺りの冒険者では、すでに倒すことはできないが完成するのである。


アルが一番最後までかかった。(彼の場合は、魔刃以外の技である)

彼こそが、一番強かった男だったが、されていなかったからである。

その代わり、まだ普通の人間だった。


「よく頑張ったな、アルテュールよ」しっかりと師父役がいたについていた。

「はい、師父」

「では、これを持て」

アルの刀は、ヒヒイロカネによる刀である。

「ありがとうございます。」捧げ持つアル。


ぱちぱちと先に剣豪になった弟子たちも今日はいた。

いわば最後の弟子の卒業式的な儀式かと思われた。


「皆、よくぞ、がんばった」しかし、がんばったというよりはしたのである。

そして、その期間は一か月である。


「本日最後の弟子、アルテュールが魔刃を習得した。大変めでたい日である」

パチパチと拍手が行われる。


「ところで、集まってもらったのはほかでもない」

「儂は、お前たちに刀法を教えた、これは不敗の剣法である、心して各々が研鑽を積むように!不敗流は不敗でなければならない」と男。


「はい!」全員が答える。


「さて、本日は、お前達に言っておくことを思い出したからである」

「お前たちは、私から、刀法を教わった、だが、儂は、鎗術も使えることを思い出したのである、残念ながら、刀法不敗流は、完全ではなかったのである。本日から、槍の稽古をしてもらう」


「ははあ」全員が平伏する。

アルは、一人立っていた。

「アルは、槍はできるだろうから、免除してもよい」

「いや、師父そうゆうわけにいかぬ」とこの男は真面目だ。


「では、儂の演武から行くぞ」

男は、十文字槍を持ち出す。


槍をきらめかせる男の姿は、美しかった。

それは、鎗術というより、体操のように見えた。

クルクルと体にまとわりつく様に槍が回る。

しかし、繰り出される突きは、確実に相手の急所を狙っている。

さらに、最後には、槍先から、砲撃が発生した。

恐らく魔刃の亜種であろう。


男は、鎗術に関しては有る流派の免許皆伝だったはずだが、いまのそれは、完全に違うものだった。

そもそも、付き合いが長いから、仕方ないから、「やる」といってもらった免状だった。からのだろうか?


こうして、やっと一端の剣豪になった男たちは突然、槍の師匠が現れるという不幸で元の木阿弥にもどったのである。

元の木阿弥という言葉は、男のいた戦国時代には、存在しない言葉である。

なぜなら、木阿弥は代理でたてられなかったからである。


「師父、私たちも稽古をお願いします」

その時、スラム上がりの子供たち数人が出てきた。

彼らは、いま、迷宮の低層階で、レベル上げをいそしんでいる。

その中の、数名である。


「いや、お前達には、まだ早い」男は拒否した。なんとなくこれから先の展開を恐れたのである。

「覚悟したのですね」と女。

「はい、師母さま」


「まだ、早い、もう少し体を強くしなければならないのでは」と心配する男。

「いえ、旦那様、そのようなことはございません」と女。


恐らく『人間革命』を投与されるに違いない。

男は、それを原初的に恐れていた。確かに眠っていたが、体はその痛み、恐怖を覚えていたのであろう。あれは、ヤバいと。


「今回は大丈夫です。濃度と量の問題は解決しましたので」と軽くいう女、つまり今までは実験投与であり、失敗したかもしれないということだ。


今言っていることは、ヤバいことの裏付けのようなものである。

今回は、前回の失敗をもとに、調整が行われるという意味だ。

前回は明らかになんらかの失敗があったに違いない。


「旦那様、この世界では、力が何よりも必要でございます。彼らもそのことを理解しているのでございましょう」


「俺たちが稼げば、もっと救える子供が増えます」

男には子供の言葉の意味がわからなかった。


少年らは、自分の身を捨てて、別の孤児たちを救おうとしていたのである。

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