第74話 闇

074 闇


「俺たちが稼げば、もっと救える子供が増えます」

男は子供の言葉の意味がわからなかった。なぜなら、男は多くの孤児を引き取っていたからだ。勿論、打算はある、いずれは自分の兵として使うためである。

「残念ながら、現在の状態は、すべての孤児を引き受ける状態にはなっておりません」と奏さんがいう。

「かなりの数の子供を引き取ったはずだが」

「精々、100人が限界でした」

だが、この街には、その十数倍の孤児がいる。

彼ら、100人は選抜試験を通った優秀な個体であった。


メルキア大迷宮は、チャンスを求める場所。

多くの未熟な冒険者が死んでいく場所でもある。

それらが、子供を作っていれば、孤児になる可能性は高くなる。


100人が限界でしたという言葉は嘘である。

本当は、もっといくらでも、養うことができる。

だが、役に立たない兵士などなんの役に立つのか!パーフェクトソルジャーは当然そう考えるのだ。ゆえに、才能の有りそうな100人を選んでいるのだ。


「彼らは、残された自分の仲間を救いたいのでしょう」と女は言う。

「だが、しかし、そうだ金ならこの前にいただいた分で十分あるのでは」貴族は屋敷などから相当な金額を押収しているはずだった。

「ご主人様、いつまでもそのようなことができるというのですか」珍しく、反対意見を述べる女。

「普通に行けば、特にこの国をお嫌いな旦那様は、子供たちをいつまでも面倒を見ることはできませんよ、きっと別の国に行くことになるでしょう」とたしなめる女。

「そうだな」勢いに飲まれた男。

「彼らに一人で生きていくすべを教えるとしても、向き不向きがございます。我々は、向いている子供たちを選んだのです、ですから彼らがより強くなりたいという思いは聞き入れてやりたいのです」


本当は、より強い兵士が欲しいだけなのだが、本当のことは言わぬが花である。

そして、彼女らの力をもってすれば、100が1000でも余裕で養育することは可能だ。

向かない兵でも、『人間革命』を与えれば、十分普通の兵士以上の力は備わるのだ。


「この国はそんなにも孤児たちを作り出し、放っているのか!許せん!あのくそ野郎」

男は激昂した。久しぶりに、この世界に来た頃を思い出したためである。

「そうなんです、すべてはあの王が悪いのです。彼らのためにも、使ってあげましょう」と何かを推奨する女。

「本当に、良いのか」

「すでに覚悟は決めております」と少年。

彼らは、孤児たちのまとめ役であり決死隊である。もし死んだら残った人間が後の面倒を見る。

そういう意味で、死を賭して名乗りを上げたのである。

失敗しても、彼ら5人の少年は死ぬだけ。

成功すれば、残りの者たちもつかっていく。

彼らなりに生存戦略を立てていた。


女はそれを監視していた。

そして、その内容を把握していた。

「その勇気と計算こそ、兵士にとって必要なものなのです」


女の方も、少年たちに、どの程度の容量を与えればよいかを、いままでの実験でデータを得ていたので、体重に合わせた、用量を計算できていた。

今いる、親衛隊員のうち2名は、実は死亡したものを彼らの仲間とすり替えられていた。

ゆえに、2名はパーフェクトソルジャーなのである。

副作用に耐えきれず死亡してしまった事故であった。


この薬品を使うと、容貌や体格が大きく変化するために、有耶無耶にされてしまう。

しかも、考察力が低下し、洗脳を受けるため、そのような些細なことは忘れ去られてしまうのである。


「より強くたくましくなるために、覚悟を決めなさい」

「すでに、心は決めています」

「よろしい。では奥の部屋に進みなさい」

5人の少年たちは、決死の覚悟で、その奥の部屋へと進む。

そして、ベッドに横になる。

拘束帯がかけられる。

女が透明なマスクを顔に近づける、意識がもっていかれる。

強力な麻酔薬である。それを吸い込ませるための医療用のマスクである。


奏、エリーズ様似、エリス似、玉1号、玉2号が怪しげな注射器を持っている。

「私が血を吸った方が早いかもしれません」と玉1号が不謹慎な発言をする。

「ご主人様の兵士は精鋭でなければなりません、魔獣妖鬼の類では困ります」と奏氏。

「不死の兵というのもいいかもしれませんよ」

「日を浴びれば死ぬような兵はいりません、早く済ませましょう。ご主人様は、この問題にナーバスになっておられます。」


「ギャ~~~」暗い室内には、少年たちの絶叫がほとばしる。薬剤の効果は絶大だ。そして苦痛も絶大だった。

しかし、扉が閉じれば、音は完全に断ち切られる。絶叫は、外には漏れない。


彼女らは、何事もなかったかのように、笑顔をして主人たちのところへと戻っていく。


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