第18話 仮面の男

018 仮面の男


治癒魔術の師匠は、特別監獄の収監者である。

その男に、いろいろと治癒魔術を教えて貰う。

本当は、才能のある者でも相当な時間を要するはずであったらしい。

つまり、男の暇つぶしになるはずの時間が急速に終わりを告げることになった。

権威をもっていた男であるため、人々に何かをさとすのが好きなのであろう。

「どうやら、治癒魔術のあらかたと教えてしまった。もっと、時間がかかるかと思っていたが。」

「ありがとうございます師匠。」

「うむ。よく仮面をかぶり弟子役を引き受けてくれた」

どうやら猫をかぶっているのはばれていたようだ。


「治癒魔術を覚えたお前は、外に出れば非常に優秀な治癒師として、生きていけるだろう」

「本当にありがとうございます」

「うむ、良い弟子をもった、それに頭もいい、わかったか、治癒魔術の本当の中身は」

「はい、恐れながら、神デウスの加護を得ることではなかったように思います」

「そうだ、儂もそれは薄々感じておった」仮面はとても残念そうだった。

「師匠」

「よいのだ、デウス教は一神教、他の神に治癒の加護を得ているのだからな」

それは、初めのころに、言ったことである。

その時の回答は、デウスは父であり母であり、精霊であるから、女神形態のデウスなのであるとの回答だったはずだ。


「お前は幸いというか不幸というか、錬金術の基礎を使える。言っておくが、お前は、治癒術のほとんどを収めた。これだけでも大層なことなのだ。決して言いふらして回るようなことはつつしむがよい」

「はい、師匠」

「そして、錬金術、これはまさに、宗教上の観点では、人間の知恵の限界を超えて、神に挑まんとする企てであると解釈される、おそらく異端審問で死刑、まあ火炙りになるだろう」

「そんな恐ろしいことに」

「そうだ、恐ろしいことだな」

きっと、いままでに、そういう事例が発生したのであろう。


「だが、治癒術では、治せぬ者もいる。高齢や病気の類には、効きにくいのは間違いない。ひょっとすると、失伝しているだけかもしれないがな」

「そういう場合は、薬に頼らねばならない、そこで問題になるのが薬の効力だが、これは治癒魔術に及ばない。」

「そうなのですね」

「そうだ、そうとなればどうするか」

「・・・」

「そう、もっと効く薬を作る必要があるのだ」

「ポーションですね」

「お前は本当に賢い、そうだ、錬金術による秘薬ともいうべきポーションだ」

「効果の低いポーションなら、腕のある程度もあれば作ることは可能だし、それは神に対する挑戦にはならぬ。だが、死にかけている人間に使おうとするようなものは、まさに、挑戦ということになる」


「効果の低いものを作れば問題ないということですか」

しかり!されど、そんなものは必要ない、効果があってこそのポーションよ」

師匠は、何か熱に浮かされているように語る。

「私には、それが必要だった、そう必要だったのだ」


「私は密かにそれを作るべく研究したのだ。幸いに、そして不幸にも才能があったのだ」

「できたのですか」

「いや、結局できはしなかった。さすがにそれは無理だったのだ」

「そうなのですか」

「ああ、死んだ人間を生き返らせるような薬は存在しない、死にかけている人間だったらまだよかったのだがな」

「それって!」

「いや、実際はそれほども効かなかった」

「でもすごい効能がありそうですが、目的を達することができない薬などを研究する馬鹿はいない、私はそれを止めたのだ」


どうも、とんでもないものを作っていたようだ。

仮面はやはりぶっ飛んでいた。


「ああ、興奮してしまったな、昔の事を思い出すと、どうしてもな。それで、暇つぶしに、錬金術のいろはを教えてやろう」

「ありがとうございます」


仮面はやはり、一人でいるのが嫌なのだろう。

それはそうだろう。おそらくほとんどの人間はそう思うに違いない。

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