第40話 襲撃

040 襲撃


アルテュールは語り始める。

「俺は、教皇庁の神聖騎士団の騎士だった。教皇は、非常にお優しい方だった、公爵家の出、故、妻帯されていた。仲は悪かったと思われる。私は、腕を買われ、教皇様の側近兼護衛へと取り立てられたのだ。」


「教皇様は各地を回られる、この大陸にデウスの御心をもたらすために」


「教皇様は、自分の心が満たされていないにも関わらず、民を救うために、祈りを各地に届けられた。そんなとき、一人の娘と出会ってしまったのだ。エリーズ様は、地方の商人の娘だった。教皇様が講話をされたとき、部屋にお茶を届けたのだ」


「素晴らしいお話でした。神様が私たちを守ってくれているのを実感いたしました」

控室にお茶を持ってきた娘がいう。

「そうか、それはよかった、あなたにも、神の御恵があらんことを」教皇は印を結ぶ。


「教皇様は、とてもお辛そうですね。何かお困りのことがおありなのですか?」

とても、敬虔けいけんな信者の娘ということもあり、護衛はいなかったのである。

そして、教皇はそこで、心が疲れた自分をさらけ出した姿でいたのである。


心が癒される、娘の優しい声が教皇を救ったのかもしれない。

しかし、それは悲劇の始まりにしかならなかったのである。

この時、そばに、護衛がいれば、教皇はそんな姿を見せはしなかったであろう。


疑うことを知らない娘は、教皇を受け入れてしまったのである。

だが、それは許されることではない。

本来貴族社会では、許されることである。

貴族のしかも公爵の次男であれば、愛人など腐るほどいても何ら、非難されることではない。

当たり前の、どこにでもある、話なのである。


だが、教皇の妻は王女だったのだ、そして、妻は自分よりも、庶民の娘を選んだということが許せなかったのである。

これでは、自分の面子が丸つぶれではないかと。


悲劇はさらに続く。何と彼女は、すぐに妊娠してしまう。

何ということだ!

そう思ったのは、妻である王女であった。

そもそも、不仲ゆえに、行為自体もしていないのだから、子を成すことなどあるはずもない。

だが、このままでは、私の面子がさらに丸つぶれではないかと。


暗雲が急速に、漂い始める。

嵐のお膳立てはすぐに整い始める。


教皇の妻(元王女)には、間男がいた。

浮気の相手である。この男は、教皇庁の枢機卿だった。


「私が、不愉快な存在をもみ消して差し上げましょう」

不穏な会話がどこでされたのかは不明であるが、暗殺者はすぐに動き始める。

教皇庁には、神聖騎士団という武力を保持していたが、暗殺者集団をも抱えていた。組織であるゆえに、組織を守るためには、そのような存在も当然必要だったのである。

枢機卿はその暗闇のような部隊の指揮を執っていたのである。


「私のもとに、暗殺者が動き出したという情報が入ってきました。騎士団の友人がこっそりと教えてくれたのです」俺は、教皇にすぐに急報した。


「教皇様、暗殺者が動いています。エリーズ様が危険です」

「何!なぜそのようなことが」

「枢機卿の暗殺部隊の様です」

「馬鹿な!」

「私は、離宮に参ります、御許可を」

「頼む、アルテュール、私が至らぬばかりに」荒事とは無縁な教皇ではどうしようもなかったのだ。



「教皇様は私に、指輪を授け、エリーズ様を逃がすようにとお命じになった、私は、小隊を率いて、離宮に向かった。しかし、離宮はすでに暗殺者たち襲撃されていたのだ」


離宮。

「これは、これは、騎士団隊長のアルテュール様ではないですか」

「貴様は?」暗殺者集団は仮面をかぶり姿を見せぬよう黒衣に身を包んでいた。

「枢機卿の命ですぞ、邪魔をされるな」集団の頭目らしき男が言う。

「私は、教皇様の近衛だぞ」

「邪魔されるなら死んでいたただくだけだ」

「どけ!」

「かかれ」

黒装束の暗殺者たちが、思い思いの武器を手に、襲いくる。

「白光連斬!」アルのアーツである。

「グアッ!」

「何をしている、取り囲め、毒を使え」

「連尖突陣!」さらにアーツ。

「ギャア!」

黒い刃が投げられる。

アルはそれを跳ね飛ばす。

反対方向にいた黒ずくめが、口から毒の霧を吐き出す。

「クッツ」その毒霧が、目を襲い、鼻から吸入されてしまう。

「日輪!」

全周囲をスキルの力により、攻撃する。


ギャア~~。

周囲では、小隊の騎士が次々と倒されていく。


「エリーズ様、エリーズ様~~」

しびれ毒に侵されながらも、奥へと進むアルテュール。


「さすがにしつこい男だな」

その時、アルテュールは何者かに、後頭部を殴打され意識を失ってしまったのである。


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