第093話 ビックさんとシロさん

 翌朝、特に何事もなく目を覚ます。ウォルダムたちはほぼ全員が起きていた。シロさんはまだ眠っていた。


 夕食もそうだったけど、朝食もエメさんたちが取って来てくれた木の実をメインに食べた。他のウォルダムたちは定期的にどこかへ行くけど何か持って帰ってきたりはしていない。きっと木の実や植物を直接食べているんだろう。それ以外だと水を飲んだり浴びたりとか?

 私たちがいる山はごつごつとした岩ばかりの場所で木や植物はあまり生えていない。麓は緑が豊富だったからそこまで行っているのかもしれない。


 眠っているシロさんをじっと見る。


 彼らの様子を見ているとそれとなくシロさんが遠巻きにされているように感じる。

 いつも広場の端の方にいるし、ビックさんやラルド夫妻くらいとしか話さない。他のウォルダムたちは結構会話をするんだよね。それに単独行動も多い。

 彼女自身、他のウォルダムへ話しかけるようなこともしていないから無視されているかどうかまでは分からない。シロさんがいないところで彼女を悪く言ったりということもない。いじめられているっていうわけではなさそうだ。


 何だろう、よそよそしい感じ?。

 かなりの魔力を持っていてそれは少し怖いけど、持っている魔力量なんて見た目じゃ分からない。

 シロさんは大人しくて優しいと思うのにな。

 やっぱり色が違うから?


 そんな風に彼女のことをあれこれと考えてみたけど何か新しい情報の手がかりにはならなかった。


 だったらもっとシロさんたちのことを知ろう!

 今は眠っているから起きてから嫌がられない範囲で彼女の近くにいることにした。


 1時間ほど経ってからシロさんが目を覚ました。ぼんやりしながら大きく口を開けて欠伸をする。

 私に気がついて驚いたようでビクッと小さく体が震えて尻尾が立つ。

 びっくりさせちゃったのは申し訳ないけどチャンス到来。


『友達になりましょう!』


 私はシロさんへ近づきクルクルと明るい声で鳴いた。

 言葉が通じないことは分かっているけど、何事も意思を伝えようという努力は大切だ。ちゃんと伝えていなかったことから起こる誤解っていうのもあるんだから。

 そうならないために、私は鳴きつつシロさんに体を擦りつけた。


 エメさんたちを見ていると、自分の匂いを相手につけるのって仲良しアピールっぽいからね。

 種族は違うかもしれないけど、ガルにもたまにやられるし犬とか猫もそんな習性があったような気がするからそう悪いことではないはず。


『なぜ私に懐いているのです? あなたを連れてきたのも、世話をしているのもエメさんたちでしょう?』


 彼女は私を見て不思議そうに言う。


 私の考えは間違っていなかった。シロさんに対して好意的に感じていることが伝わっている。

 言葉は通じなくても意外とどうにかなるもんだね。


 私には「相手の言葉が分かる」というアドバンテージがある。これはかなり重要だ。そりゃあ、こっちの言葉も通じればもっと潤滑なコミュニケーションが取れるとは思うけど、ないものねだりはしない。

 それに、言葉が通じても話が通じない輩がいたりするからね。おっと、思い出しても疲れるだけのことを思い出しちゃった。こういうことはさっさと忘れるに限る。


『シロは小柄だから親しみやすいのかもしれないわね。それに仲間がいなくて寂しいのかも』


 エメさんの言葉を聞いたシロさんは、私を追い払うようなこともどこかへ行くこともしなかった。

 体を起こすと少し躊躇ためらって私の体に軽く頭を擦りつけた。

 それが終わるとシロさんは再び地面へ横になった。

 数秒のことだったけどシロさんも私と仲良くしてくれるつもりがあるように感じて嬉しかった。


 特に何かすることでもなくのんびりとした時間が過ぎる。


 何も問題が起こっていない時ならこれもいい。

 でも、トラブルの真っただ中でドルフたちやローレンさんたちが頑張ってくれている。なのに、私は何もしないっていうのは申し訳なさと罪悪感が半端ない。

 何かできることがあればいいんだけど悲しいことに案がない。


 話し相手がいれば相談したりできるのになぁ。誰かと話し別の考え方に触れることでよりよい発想が生まれたりする。

 1人で考えることももちろん大切だけど、考えすぎるとドツボにはまるんだよね。


 1度忘れて気分転換しよう。ずっと同じことを考えるよりも案外いいひらめきがあったりする。そのひらめきに期待したい。

 だからゆっくりするんじゃなくて何か気を紛らわせられるようなことをしたい。


 ラテルにいる時は運動場を走り回ったり、ガルたちと話したり彼らのやり取りを見たり、ルナをもふもふできた。

 ここは広いけどウォルダムがあちこちにいるから危なくて走り回るなんてできない。ウォルダムたちに私の言葉は通じない。ぬいぐるみは抱えているけど、何か反応があるわけじゃない。

 テバサキを触ってみたいと、手を伸ばすと逃げられてしまう。怖いのかもしれないから仕方ないと諦めた。無理に触ろうとして嫌われたくない。


 じゃあ何をしようかと考えて1つの案が浮かんだ。早速やってみよう。

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