第039話 昼食中の雑談
私は探知魔法で可視化した太い魔糸を辿って走っている。でも、単純に太い魔糸を辿れば良いというわけじゃない。
太い魔糸は目的地まで一直線に伸びている。その途中には山もあれば森もある。
真っすぐに辿りたくても無理だった。
前にドルフから地図を見せてもらって助かった。
山を避けるように南へと下り、平原を進む。
途中で魔物と遭遇することもあった。ドルフとマルコスが前衛として戦い、ハウロさんが後方から魔法で攻撃することで安定した戦闘が行われた。
エリックさんはというと、サポートに回って剣と弓矢と魔法を使い分けて戦っていた。
前衛が必要そうなら前衛に回り、飛んでいる魔物は矢で落とし、魔法が有効な敵には魔法をぶつける。動きにそつが無く、痒い所に手が届く立ち回りだ。
1人での戦闘とチームを組んでの戦闘は勝手が違う。庭で訓練している騎士たちを見ていることもあって、連携することの難しさはいくらか理解している。
だからこそエリックさんの立ち回りは上手だと感じた。
今は曇で太陽が見えない。お腹の減り具合から考えればそろそろお昼だ。
険しい山々を左手に進んでいれば平原の先に森が見えてきた。
この森を次は東へ進むことになる。
レスターさんたちと合流するために一度は太い魔糸から離れることになったけど、今はきちんと見える位置にある。
見失ったままだとどうしようと思っていたから良かった。
森へ入る前に昼休憩を挟むことになった。
探知魔法も切っておくことにした。魔力の回復に努めよう。
「あの、ドルフさん」
「どうした?」
指示を出し終わった後のドルフにリオルさんが近づいてくる。
「……これ、早めに目を通してください。あ、それから誰にも見せないでください。読み終わった後は返していただくか、焼くなどして読めないように処分してください」
真面目な顔をした彼は折られた小さな紙をドルフに渡した。
他の人の注目を引きたくないようで小さな声だった。
ドルフが了承するとリオルさんは頭を下げて昼食の準備へと戻った。
早めに見て欲しいと言われたこともあって、ドルフはすぐにその紙を開いた。
覗こうと思ったら覗けるけど、リオルさんはドルフだからこそ紙を渡したんだろう。それを勝手に覗いていいとは思えなかった。
正直に言えば内容はとても気になる。見ておいた方がいいような気はするけど、うーん……。
どうしようかと考えている間に紙の内容を見終わったドルフがその紙をたたんだ。
「リオル、少しいいか?」
「は、はい!」
ドルフに呼ばれたリオルさんがやってくる。
彼はとても緊張した様子だった。
その後、2人は少し離れてから音消しを使用して何やら会話をしていた。
そう長い会話ではなく時間にすれば15分もかかっていないだろう。
音消しを止め、戻って来た時のリオルさんの表情はとても軽やかなものに変わっていた。
その表情を見た私は少し安心した。
私は戻って来たドルフの近くに腰を下ろして昼食の準備を見守った。
走ってる時はいいけど、こうやって止まってる時だと色々と考えて不安になってくる。あまりネガティブなことは考えないようにしたいけど、考えないようにするってことは簡単じゃない。
「……にしても、華がないよなぁ」
昼食の準備をしつつ辺りを見回したかと思えば、ため息をついたマルコスが残念そうにこぼした。
レスターさんが居たら注意してくれていたかもしれないけど、残念ながら彼はここに居ない。
ハウロさんは困ったように笑っている。
ドルフとリオルさんは聞いていない振りをして作業を進めている。
「そうでしょうか? 素敵な華があるではないですか」
意外にも話に乗ったのはエリックさんだった。
「エリックさんの容姿は整っていると思いますが、まさかご自分のことじゃないですよね?」
「そのようなこと言いませんよ」
メンバーに女性は居ない。じゃあ男性のこと? 男性に対しても華があるって言うもんね。
華があるってことは魅力的に思っているってことだよね。誰のことを言っているんだろうと私は2人の会話に意識を集中した。
「じゃあ誰のことを言ってるんですか?」
「ラナです」
私!?
驚きながら2人の方を見る。
やや沈黙があった後にブハッとマルコスが噴き出した。そのままゲラゲラと笑っている。
「いや、まぁ確かにラナは女性? フフッ、ですが」
笑いすぎでしょ。
自分が可愛いとか綺麗だとかは思ってないけど、こうも笑われると腹が立つ。
私の苛立ちを察してくれたのか、ドルフが宥めるように私を撫でてくれた。
「参考に、ラナのどういったところに華を感じたんですか?」
ひとしきり笑って落ち着いたマルコスは興味津々といった様子で尋ねた。
「落ち着いた深緑の鱗、光を反射して玉虫色に輝く腕の羽、理知的で金色に光る目。どれも魅力的です」
エリックさんは気を悪くした様子もなく、真面目な表情で言っていて冗談とかではなさそうだ。
マルコスはその言葉を聞いて目を丸くしてから私をじっと見た。
「え……本気ですか?」
「もちろんです。俺から見れば、ラナはとても魅力的ですよ」
視線を戻し、困惑しながら問うマルコスにエリックさんは微笑み当然な顔をして頷いた。
癪だけどマルコスの言葉に私も同感だ。
エリックさん、プラチナ級の冒険者ってことで多分だけど高ランク冒険者だよね。冒険者のランクは詳しく知らないけど、【悪夢の召喚者】とかっていう通り名もあったんだから。
女性にモテるんじゃないの? 逆にモテすぎて嫌になったとか?
あと、前にも考えたことだけど私が引き抜き対象として狙われているとか?
「それはまぁ、何というか独特な感性をお持ちですね」
「そうかもしれませんね」
もしもエリックさんが本気で言ってるならジナルドと気が合うかもしれない。ジナルドにも似たようなことをうっとりしながら言われたことがある。その時は少し引いてしまったけど。
「ラナは優しくて穏やかでとても可愛いと思いますよ」
リオルさんまでフォローに回ってくれている。
「えー……なぁ、ハウロはどう思う?」
「えっ、自分ですか?」
納得がいかなかったらしいマルコスがハウロさんを巻き込む。
ハウロさんが私を見た。
なので、私は頭を下げるとクルクル鳴いて甘えるようにハウロさんの体に頭を摺り寄せた。
「あ、ずっる!」
「……自分も可愛いと思います」
そう言ってハウロさんは微笑み私の頭を撫でてくれた。
よし!
伊達にラテルで愛嬌を振りまいてきたわけじゃない。受けがいい言動は知ってる。歯を見せないようにするとか、体を縮こまらせて威圧しないとか。高めに鳴くのもポイント高いのよね。
してやったりと満足感にひたっていたら、マルコスが急に真面目な顔で私を見つめてきた。
「……やっぱりラナって俺たちの言葉をかなーり理解してますよね?」
急に核心を衝くようなことを言われてドキッとした。
「ディナルトスは頭が良いですからね。仲間同士でも会話をしますし、我々の言葉を理解していても何らおかしくありません」
ドルフが言ってもマルコスは黙って私を見ている。
「何か気になることがありますか?」
「いや、ラナが【恩恵持ち】である可能性はあるのかなぁと思いまして」
それは気になってたから話題にしてもらえてありがたい。
「無いとは言い切れませんが、もしそうであったとしてもラナが私たちと話すことはできないでしょうね」
「声帯的な問題ですか?」
「その通りです。ディナルトスの声帯では私たちのような発語ができないでしょうから」
あー、だから試しにと思って話しかけても通じなかったのか。
構造的に発語できないなら仕方ないよね。
人間が鳥のように鳴けないのと同じだろう。
昼食の準備も終わり、何事もなく食事を終える。
休憩は終わり出発の準備がされた。
それぞれ騎乗していく。
『ラナのことを笑ったな?』
グルルルと唸り声と共に声が聞こえたと思ったら、ガルに乗ったマルコスがその直後に振り落とされていた。
「わっ、大丈夫ですか?」
「受け身は取ったんで大丈夫です。これは、ラナのことを笑ったことがガルにバレたみたいですね」
落とされたマルコスに心配そうな顔をしたリオルさんが駆け寄る。マルコスは差し出されたリオルさんの手を掴んで立ち上がると土埃を払った。見た感じどこかを痛めていたりはしていない。
「ディナルトス、賢いなー」
感心したようにそう言うとマルコスは私に近づいてきた。
「ラナ、さっきは笑ってごめんな」
「……ククッ」
謝ってくれたので許すことにした。
その様子を見ていたガルはフンと鼻を鳴らした。マルコスがガルに騎乗すると今度は落とされなかった。
『ガル、ありがとね』
『これくらい当然だ』
そんな感じで少しトラブルはあったものの、私たちは森へと向かって出発した。
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