第007話 来訪者
ドルフから護送の仕事について聞かされてから2日が経った。
庭で横になってルナを眺めたりお腹に顔を埋めてモフっていると何人かの足音が聞こえてきた。
家に戻されるには早く、お出掛けをするには遅い。
何だろうと顔を上げて音のする方を見る。先頭を歩くジナルドと彼の後ろに何人か見えるまとまった集団がこちらへやって来ていた。
ガルたちもその人たちには気付いているようでじゃれ合いを止めて私と同じように彼らを見ている。
特に呼ばれたりしなかったので横になったままでいると彼らは私のところへとやって来た。
ジナルド以外に5人居た。
うち3人が見慣れない鎧を着ていて1人が執事服、残りの1人は緑色のローブだ。
見慣れない鎧の3人の顔は他の騎士や町の人の顔と比較して平均的という印象を受ける。緑髪の人は中年、茶髪、金髪の人は青年に見える年齢だ。
執事服の人の容姿はとても整っていてセミロングの青色の髪に銀色の目ととても涼やかで目鼻立ちもくっきりしている。
日本だったらモデルとか俳優とか、テレビで見そうなイケメンだけどこの世界の美的感覚ってどうなんだろう。
緑色のローブの人は金色の髪に緑色の瞳、整った顔は中性的で耳の先が尖っていてほっそりとした体をしていた。
エルフだ。
町でもたまに見かけることはある。でも人間や獣人、ドワーフほどは多くない。
「彼女がうちで飼育しているディナルトスのリーダーでラナと言います」
ジナルドは屈むと私の体を撫でながら言った。
もしかして、とは思っていたけどやっぱり私がリーダーだったのか。
この前の襲撃事件でもガルたちがやたら言うことを聞いてくれるなと思っていたから納得。
見慣れない鎧の3人は撫でられている私を見て物珍しそうな、驚いたような顔をしている。
執事さんとエルフさんはその3人とは違って落ち着いた様子で私たちを見ている。
「ディナルトスと言えば狡猾で獰猛な魔物ですが、安全面に問題はないのでしょうか?」
緑色の髪の男性が言う。
世間ではそんな認識なんだ。いやまぁガルたちを見て攻撃的だとは感じていたけども。
さらに言えば魔物分類なんだね。
それも薄々は気づいていた。
探知魔法で色々試していた時、人やルナとは違った反応が私を含めたディナルトスから返って来た。探知魔法で詳しく調べてみたところ、ディナルトスの体の中に強い魔力を発する部分があった。ファンタジー好きな私は、その魔力を発する部分に魔石があるのではと思った。
最初はごちゃまぜで全て赤色で表示されていたけど、体内に強い魔力を発する部分があれば魔物として赤の表示、それ以外の人型は青の表示、人型でなくある程度の大きさがある場合は黄色で表示されるようにしている。
ある程度の大きさを指定する理由は、脳内マップが真っ赤に染まったからだ。
おそらくは微生物かミリ単位の生物にも反応してしまったのだろう。
魔石が体にあるから魔物と考えているんだけどその解釈でいいのかな。
でも確認する術がない。
こういう時、ディナルトスって不便だなと感じる。
「ラナは非常に大人しく穏やかな性格です。しかし臆病ということもない。ドルフとの絆も強固であり彼の言うことを良く聞きます」
探知魔法について考えているとジナルドは私の紹介を続けていた。評価してくれていることを嬉しく思っていると信じ切れないという様子で唸っている緑髪の鎧の人が目に入った。
「その証拠にラナはレミエラビットと友人関係を築いています」
全員の視線が私に寄り添っているルナへと注がれる。
ルナは不思議そうに彼らを見て首を傾げると私の後ろへと隠れた。そして私の後ろから顔を出して彼らを窺っている。
「そのようですね。まさかこのような関係を築けるなんて」
緑髪の男性がルナを眺める。
「ラナが苦手としているものはありますか? 大きな音や強い光、ヘビやハチなど、驚いて暴走したことがあるような物は?」
「そうですね。以前、雷に酷く驚いたため雷の音と光を苦手としているかもしれません。それからラナがまだ小さかった時、ハチに刺されたことがあってそれからはハチに近づこうとしません」
緑髪が続けて質問をしてジナルドが答えた。
あぁうんなるほど。苦手な物があってそれを見たりとかで急に私が走り出したら大変だもんね。
分かっていれば注意も出来るし暴走してもすぐに対応できるかもしれない。立ち止まっていた時にその原因を調べるためにも役立つかもしれない。
ところでジナルドさん。その苦手事項、本人が初耳なんだけどどういうこと?
雷は地球とそう違いがなくて人間だった時も特に苦手ではなかった。ディナルトスになって耳が良くなったからか、うるさいとは感じるけどそれだけだ。
近距離に雷が落ちたら驚くだろうけど一般的な反応だろう。
そしてハチについても間違っている。
私はハチを知っていたからハチのような虫には近づかない。けれどそれはハチに刺されたからではないし、怖いとは思うけど結界で囲っちゃえばいいわけで必要以上に怖がった記憶はない。
理由もなくジナルドが嘘を吐くはずはないから、何か目的があるんだろう。
この人たちのこと、信用しちゃいけないのかな。
「ただ、ラナが暴走したことは俺が知る限りはありません」
「彼女の前で取ってはいけない行動はありますか?」
ジナルドは考え込むように黙った。
「彼女を馬鹿にするような言動はしない方がいいでしょうね。とても賢いですから」
あまり賢いって言われるとハードルが高くなりそうで、嬉しい反面プレッシャーを感じる。
「それから彼女は、生き物の姿が残っている肉は食べません。切り分けた肉であれば食べます」
「人を襲わないようそう躾けたんですか?」
「いえ、そういうわけではありません」
感心したような納得したような様子で緑髪の質問にジナルドは苦笑いして否定した。
ご飯関係では迷惑をかけた自覚がある。だからこそ、苦笑いするジナルドを見て少し申し訳なかった。
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