番外編 ウォルダムたちのその後(1/2)
『ただいま戻りました』
『おかえり』
ラナがラテルへ帰ってからシロたちを含む数匹のウォルダムには新しい習慣ができた。
『おチビちゃんは元気にしてた?』
『えぇ、楽しそうに草原を走り回ったり群れの仲間と遊んでしていましたよ。その後は人間に撫でられたり食べ物をもらったりと可愛がられていました』
『幸せそうなら良かった』
その習慣とは、ラナの近況を知ることであった。
シロであれば直接ラテルへ行ってラナの様子を見る。エメやラルドであればシロが見聞きしたラナのことを聞く。
エメもラナに会いたがっていたが、ラナがいるのは町だ。人間を怖がらせるかもしれないし、自分たちも攻撃されるかもしれない。
シロが大丈夫なのはいくつか理由がある。ラナを迎えに来たドルフたちについていきラナをラテルまで見送ったこと、珍しい体色であり遠目からでもシロだと分かること、ラナと仲が良いといった理由だ。
エメやラルドまでラナの住む町へ押しかけたら騒ぎになってしまう。
『私もおチビちゃんに会いたいわ』
『下手に人間を刺激するとシロも警戒されるかもしれない。そうなると今よりおチビちゃんのことが分からなくなるぞ』
それはエメも分かっている。分かっているものの、ラナに会いたくて仕方ない。
『散歩なのか、彼女はたまに人間と町の外へ出ます。その時に会えるかもしれません』
シロの言葉にエメは目を輝かせた。
1度見せておいた方が安心するかもしれない。仕方なくシロは道案内をすることにした。
シロとエメだけでは心配なのでラルドを決めた。
こうして、ウォルダム3匹はラテルへと向かった。
空も飛べる上に体力もある彼らはあっという間にラテルへ到着した。
『思ったよりも近かったな』
『あそこがおチビちゃんの住んでる町ね。あんなに低いところにあって大丈夫なのかしら?』
『翼を持っていないと高いところは不便なんだろう』
ラテルを眺めてそんな会話をする2匹。
『近くに湖があります。そこで休憩しましょう』
シロの案内で2匹は湖へとやってきた。
水を飲んだり水浴びをしたりと各々が休憩を取る。
その間に近くまで人間がやってきた。
近いと言っても人間側からすれば十分に距離があった。
「お、あれが噂のウォルダムか。でかいな」
「大きいだけじゃなくてとても賢いんですよ。人の顔も覚えるとか。だから恨まれると怖いんです。まぁ、基本的には大人しいらしいですが」
下手に刺激しないよう冒険者である2人の男性はウォルダムたちを迂回することに決めた。
『おチビちゃんの匂いがするわ!』
『エメ待て!』
『2人とも待ってください!』
しかし、ウォルダムの方から近づかれてしまえば彼らにはどうしようもなかった。
「……ガロイドさん。僕の気のせいかもしれないんですが、あのウォルダムたち、こっちに来てませんか?」
「バッチリ向かって来てるな。3匹とも」
気のせいだといいなぁ。そんなリジールの期待は見事に裏切られた。
「どうする?」
「まずは様子を見ましょう」
2人は武器に手をかけ警戒しながらウォルダムたちを観察した。
『あら、おチビちゃんじゃないわ』
ウォルダムの鼻は非常に良いが、目は人間ほどではない。
ラナがいないことにエメが気づいたのは、ガロイドたちまであと15mといった距離まで近づいた時だった。
『おチビちゃんの知り合いかもな。怖がらせるといけないから離れよう』
ラルドに促されエメたちは湖へと引き返した。
「ふぅ、引き返してくれて良かったですね」
「なかなかの迫力だったな」
安心したように息を吐くリジールに対してガロイドはニッと笑って答えた。
「草食で温厚とは言っても怒らせると怖いんですよ」
彼らの鱗は鎧のように固く、生半可な攻撃では傷つけることすらできない。
では魔法なら効果があるかと言えばそうでもない。彼らの鱗は魔法にも耐性を持っており、効果を軽減してしまう。
さらに彼らは魔法を使える上、人間よりも魔力量が多い。
ウォルダムは下手に刺激していい相手ではないのだ。
しかし、鱗だけでなく魔石も上質だ。血肉も含めて非常に高い価値がある。
だからこそ、無謀にもウォルダムに手を出した者がいた。
名の知れた盗賊団ではあったが、結果は全滅だ。
「それはもう悲惨だったらしいです」
リジールは近くに落ちていた石を拾うと、それを胸辺りまで持ち上げてから落とした。
それだけで想像がついたガロイドは不味いものでも食べてしまったかのように顔をしかめた。
「どうにか飛べるようにできないのか?」
「無茶なオーダーっすよ。どんだけ魔力を使うと思ってるんですか」
「岩の上に板を置いてシーソーの原理で」
「それは飛ぶんじゃなくてぶっ飛ぶって言うんですよ。どうやって着地するんです」
「こう、風とかで」
「そんな魔力ないですよ。出力も足りないし」
そんなことを言い合いながら2人は町まで戻った。
手間ではあるが、この手の情報はすぐに伝達しなければより面倒なことになると分かっていたからだ。
可能な限り情報を門番へ伝え、依頼完遂のために彼らは町を出ようとした。
「待ってください。そんな状況で町を出るのは危険です」
だが、当然ながら引き留められる。
しかし、彼らも素直に言うことを聞くつもりはなかった。
「リジール!」
「はい!」
2人は脱兎のごとく町の外へ向かって駆け出した。
「ちょ、駄目ですって!」
「悪いな、急用だ!」
「ごめんなさい!」
門番が声をかけた時にはすでに彼らは遠くにいた。追いかけても捕まえられない。
彼らは2人と少数ではあったが結果を出しているチームだ。評判も良い。
門番は深いため息をついて彼らのことを諦めた。
「ちゃんと帰って来てくださいね! いってらっしゃい!」
本気で止めればきっと彼らは止まってくれただろう。しかし、門番は彼らを信じることにした。門番も彼らの人となりを知っていたからだ。
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