番外編 ウォルダムたちのその後(2/2)

 門番からの報告を受けて慌てたのは彼の同僚である騎士たちだ。


 情報は即座に上へ伝えられ、緊急会議が開かれる。

 その一方で冒険者協会や町の出入口、馬車の停留所と言った人の行き来が関係する場所では注意喚起が行われた。


 緊急会議の中、問題に適した者が選出されて送り出された。

 ドルフはラナに、ジナルドとリオルはリナに乗った。他にも数人の騎士が馬に乗って出発した。

 3頭のウォルダムを相手にするには少ない人数ではあるが、多ければ良いというものでもない。


「どう考える?」

「恐らく、友人を連れてきたんだろう」


 ドルフの問いにジナルドが答える。


「これ以上増える可能性は?」

「ラナの交友関係次第だろうな」

「それは、増えそうだな」


 彼の言葉にジナルドは何も言えなかった。

 そうこうしているうちに湖と3頭のウォルダムが見えてきた。彼らはそろってドルフたちのことを見ていた。


「まずは俺とジナルド、リオルで様子を見る。それ以外は待機だ」


 ドルフがウォルダムへ近づく。

 湖までやってくるとそれぞれ騎獣から下りた。


「よし、休憩だ」


 ドルフのその言葉を聞いたラナがウォルダムたちへ近づき嬉しそうにクルクルと鳴いている。

 ウォルダムたちも嬉しそうにラナに体を摺り寄せた。


『エメさんとラルドさんもお久しぶりです! 元気ですか? 私は元気ですよ!』

『元気そうで良かったわ。健康状態も良さそうね』

『おチビちゃんは走ることが好きなんだろう? この辺りは平で広い。それに気温も高いから寒さが苦手な彼女には環境的にもここが合っているんだろうな』

『幸せそうじゃないなら連れ帰っちゃおうと思ったのに残念だわ』


 そんな会話がされていることを知らないドルフとジナルドは、彼らの和やかな様子に胸を撫で下ろしていた。

 ただ1人、リオルだけはやや顔を引き攣らせていた。


 リオルには悪魔が憑いている。彼の力を借りれば多種多様な生物の言葉を理解することができる。それ自体は非常に便利ではあるが、悪魔の力を借りるには対価も必要だ。

 ドルフからはいざという時には頼むと言われており、すぐにその力を使うようには言われていない。それでも彼は自主的にその力を使った。


 また、悪魔の力は万能ではない。声帯が適していないといった理由で話せない場合もある。

 ウォルダムやディナルトスたちの鳴き声もリオルには出せない。


 3人は彼らのやり取りを見守っていたが、ラナが彼らから離れて3人の元へと戻ってきた。

 そのままドルフに近づくとグイグイとウォルダムの方へと押している。


『おチビちゃん待って! 何かぞわっとするわ! その人近づけないで!』

『うぉ、何だこの感じ!? 近づいたら駄目なやつだ!』


 ウォルダムたちは威嚇するように鳴くとドルフから離れるように後退した。シロですら無言で下がっている。


 ドルフは少しだけ傷ついた。

 いつものことではあるが、だからといって傷つかないわけではない。

 だがそれを表に出すことはない。


 ウォルダムたちの反応を見たラナがドルフへ体を寄せてクークーと鳴いていた。

 申し訳なさそうに鳴くラナを見てそれだけで彼は嬉しくなった。彼女なりの優しさなのだと分かるからだ。


『ご、ごめんね? エメさんたちなら大丈夫かもしれないって思ったけど、駄目だった』

「大丈夫だ。友人に紹介してくれようとしたんだろう? ありがとう」


 結果としては残念なことになってしまったが、それでも彼女の思いやりが嬉しかった。

 だからこそドルフはラナの背中を優しく撫でた。

 ラナはクルクルと嬉しそうに鳴いてその手に体を摺り寄せた。この反応もドルフにとって癒しとなっている。


 彼女を撫でながらあることを思い出して彼は小さく笑った。


「いや、ジナルドも同じことをしてくれたなと思ってな」


 何を笑っているのかと尋ねられた彼は正直に答えた。

 ジナルドも以前、ラナのようにドルフを怖がらない動魔物どうまぶつを探してくれた。動物であれば馬、魔物であればビリューケルを始め騎獣として一般的なものから、どこから連れてきたんだと問いたくなるような珍しいものもいた。そうして紹介された魔物の1匹がラナだった。


「本当に優しい子だ。ラナ、今後もよろしく頼む」

『任せて! こちらこそ、これからもよろしくね!』


 ラナは了承するようにククッと元気良く鳴いた。


『仲良さそうね』

『あぁ、十分に可愛がってもらっているみたいだ』


 その後、ラナはドルフの近くを離れてウォルダムたちのところへ近づいた。

 そして共に水浴びをしたり、寄り添って日向ぼっこをする。 


『満足できましたか?』


 シロの問いかけにエメとラルドは肯定を返した。


『そろそろ帰りましょう。あまり居座ると彼らも落ち着けないと思いますから』

『もっと一緒にいたいけど仕方ないわ。おチビちゃん、元気でね。何かあったら私たちのところへ来るのよ』

『良く食べて遊んで、大きく強くなるんだぞ』


 そう言ってウォルダムたちは飛翔した。

 ラナは彼らを見上げて見送るように鳴いた。


『またね。みんなも元気で』


 ウォルダムたちが引き上げ、ドルフたちも町へ戻った。


「この調子でやってくるウォルダムが増えたりしないだろうな」

「その時はその時だ。対策を立てよう。頼りにしているぞ」


 ジナルドの不安はよそに、彼らと会えたことでラナはご機嫌だった。

 ドルフはそんな彼女の頭を撫で、ジナルドは彼の言葉に小さく息をついてから頷いた。


 それから数日後、再びやって来た白いウォルダムが脱皮後の皮や切った爪をジナルドの目の前に置いた。


 簡単に調べてみたところ、脱皮後の皮でも魔伝導効率が非常に高かった。爪も同様だ。

 魔伝導効率が高いということは流した魔力を良く伝えられるということでもある。

 そして恐らく、限度魔流も高い。

 限度魔流とはどれほど強い魔力を流せるかということだ。

 低ければ焼ききれたり発火するなど問題が起こる。


 つまり、理論上は作れるが素材がなかったために作れなかった魔道具を作れるかもしれない。


 手土産のつもりか、これで装備を整えてラナを守れということなのか。

 ジナルドは様々な意味で頭を抱えることになった。


 再び緊急会議が行われたのは言うまでもない。

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騎獣転生 赤月 朔夜 @tukiyogarasu

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