番外編 シェグルについての報告会(1/3)
時刻は昼過ぎ、場所はアルバーノ宅の一室にて、アルバーノ、タタ、ミランダが集まり定例となっているシェグルに関しての報告会が行われていた。
「シーナの様子は?」
「おかしな様子はなし。何を勉強したとか、読んだ本で何が面白かったとか話してくれる。一緒に買い出しもするけど、楽しそうにしてる。凄く可愛い」
タタからの報告を聞きつつ彼から提出された報告書を眺めた後、アルバーノは満足そうに頷いた。
「シークの方は?」
「聞いて聞いて! シークくんが笑ったの! 本人は無自覚だったみたいなんだけど、それってつまり感情が芽生えてるってことよね!?」
「落ち着け」
食い気味に話すミランダにアルバーノは呆れたように言った。
ミランダはタタと違い報告書を用意しないため、詳しく話を聞くことにした。
「あ、はいこれ」
そう言って思い出したようにミランダは報告書を差し出した。
アルバーノが軽く内容に目を通すと、彼が聞こうと思っていたことが詳細にまとめられていた。
面倒臭がりではあっても、シークが笑うという大きな変化に関してはきちんとまとめてくれたのか、とアルバーノは感動すら覚えた。
「……なぁミラ、どうして今回は報告書を書いてくれたんだ?」
が、普段のミランダを知っているアルバーノには、彼女が自主的にこの報告書を書いたとはとても思えなかった。
「シークくんにしっかり報告書を作った方が良いって言われたの。シークくんも手伝ってくれたし、ちゃんと書けたら夕食に私の好きな料理を作ってくれるって言ったから頑張った」
得意げに胸を張ってグッドサインを出すミランダにアルバーノは軽い頭痛を覚えた。
シークに関しての報告書作成を本人に促された上で手伝ってもらっていることもそうだが、食欲に釣られていることにも呆れる。
「まぁ、彼に感情が芽生えているなら困惑や動揺もあるだろうから特に注意して様子を見ておいてくれ」
下手に隠して報告書を書いていることがバレるよりはシークの心証も悪くない。まだマシだとアルバーノは自分に言い聞かせた。
「笑った後のシークの様子はどうだ? 報告書を見る限りつい最近のことらしいが、何か気になることはないのか?」
問われたミランダはうーんと考え込んだ。
「今のところ特に気になることはないかな。働きすぎるシークくんが心配だったけど、趣味が見つかってからはずっと働くってことがなくなった」
それはいい変化なのかもしれない。別のことを聞こうとしたアルバーノだったが、それより先にミランダが再び口を開いた。
「シークくんが有能すぎて、自立したりして彼がいなくなった後の生活がとても不安」
「今のうちにしっかり対策を考えとけ。シークに依存するな」
シークと生活するようになってミランダの遅刻は減った。それだけでなく生活習慣も改善されているようで顔や髪、肌の艶も良くなっている気がする。
それ自体は良い変化ではあるが、ミランダのシークへの依存が感じられてアルバーノは危機感を覚えた。
「どんな生活をしているのか気になるから数日間様子を見させてくれ」
「うちに泊まりに来るの? アルが耐えられるならいいけど」
几帳面なアルバーノにとってミランダの大雑把な振る舞いはストレスが多い。
「……実際にどんな感じか見たいんだよ」
迷った末に予定を確認し、アルバーノはミランダ宅へ2日ほど泊まることに決めた。
「俺たちの方は?」
「気にはなるが、タタなら大丈夫だろう」
「私は!?」
「私生活においては全く信用できない」
むー、とミランダは納得いかない様子で頬を膨らませる。
「ともかく、シーナとシークについては分かった」
そう言って話を1度区切った後、アルバーノは懐から開封済みの封筒を取り出して机の上に置いた。
「これはネロマ村の医師をしているルチアーネさんからの報告書だ」
すでに内容を確認したアルバーノが報告書の概要を話す。
「まず、ローレンさんに引き取られたシェグル。女性型で付けられた名前はリーノ。地下室でテバサキを捕まえたシェグルだ」
彼女は足を骨折して思うように動けないバートの介護や彼らが飼っている家畜の世話をしている。特に羊など毛がふかふかな家畜が好きで休憩時間にはくっついて昼寝をしているそうだ。
「次に、ルチアーネさんが引き取ったシェグル。男性型で付けられた名前はフィオ。地下室で俺が足を引っかけて転ばした少年の1人だ」
彼はルチアーネの補助として痛みに暴れる患者を押さえたり、手当や薬草の採取などを行っている。
「最初のうちは無感情的で心配されていたシェグルたちだが、今ではどの子も感情が見えるようになったそうだ」
リーノは動物全般が好きで家畜の世話を楽しそうにしている。またバートのことも心配していて無理に動こうとすると説得して大人しくさせる。孫であるローレンには強く出られるバートだが、リーノにはできないようで渋々ながらも従うという。
フィオはルチアーネの手伝いをしているうちに植物に興味を持ったそうだ。薬になるが、珍しく入手しにくい植物を育てられるようになりたいと語ったという。
リーノやフィオ以外のネロマ村にいるシェグルにも今のところ特に問題は見られない。むしろ、真面目で聡明かつ他者への思いやりもあるため、引き取り先以外の村人からも可愛がられているらしい。
セオロアは感情について学ぶためシェグルたちに実験をしていた。その実験の中で感情を持ったのはシーナだけだった。にもかかわらず、この約1ヶ月でシークを含めて他のシェグルも感情を得ている。
シェグルが感情を得た「きっかけ」も気になるところではあるが、それ以上に「シェグルが感情を得た」という事象にアルバーノは注視した。
「今はまだ人間に友好的かもしれない。だが、そうでなくなったらどうする?」
アルバーノが特に危惧していることは2つ。
1つ目は、人間に危害を加えるのではないかということ。セオロアはシェグルを作った際に人間へ危害を加られないようにした。実際には人間ではなかったが、それをまだ知らない時にシーナはセオロアを刺した。このことから、感情を持ったことで人間を害することができる危険な存在になってしまうのではないか。とアルバーノは考えた。
2つ目は、増殖するのではないかということ。セオロア自身もシェグルであるが、制限を受けており10体までしかシェグルを生み出せず、子に当たるシェグルは増えることができないという話だった。しかし、感情を得ることで人間へ攻撃できたようにその制限が外れてしまうのではないか。
以上の問題提起をアルバーノが行った直後、来訪者を告げるベルが鳴った。
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