第033話 机の上の書類
エリックさんと一緒にやってきたリオルさんがカイルとルナを調べてくれた。彼の見解としてもリステラ症候群だろうということだった。
「ウィルとザックは、倒れていない者と合流し、他にも意識の残っている者がいないか調査をしてくれ。まずは城内、次に騎士寮、町もだ。それから最低でも1人ずつ、町の出入り口と城門に警備を配置するように。状況次第でこの指示には従わなくてもいい。臨機応変に動いてくれ」
ドルフは淀みなく指示を出した。了承を返す2人にエリックさんが新しく召喚したマルメを1匹ずつ渡す。マルメ同士でやり取りも可能という。
その便利さに2人が驚いていたから珍しい生物なんだろう。珍しくなかったらあちこちで見かけそうなくらいに素敵能力だよね。見た目はちょっと、いやかなりホラーだけど。
優先することなど方針を教えられた2人が騎士寮から出て行く。
残った人たちでジナルドの部屋の調査についての話になった。
まず、部屋の大きさの都合で調査班と待機班に分かれる必要がある。入って調べるのはドルフとリオルさんで、エリックさんはマルメを通して部屋を見つつ、気になることがあれば発言するということになった。
扉も開けっ放しにされる。
ドルフはカイルとルナを近くの空き部屋のベッドの上へ寝かせから部屋へと入った。リオルさんもそれに続く。
2人が部屋に入った直後に部屋を覗いてみた。マルメで見た通りの光景が見えた。
うつ伏せで床に倒れているジナルド、倒れた椅子、銀色のホイッスル、机の上にあるめくられた状態の束になった紙、空の水差しとお皿。
ジナルドは水に濡れており、カイルやルナが眠らされたように水塊から水を浴びせかけられたんだろう。
考えなければならないことは多い。
あの水塊はどこからやって来たのか。なぜこんな行動を取ったか。どうして人々をリステラ症候群にしているのか。
そして正体。
ドルフはリオルさんにジナルドの容態を調べるように言う。返事をしてジナルドを調べ始めたリオルさんの動きには迷いがなかった。
そんな彼の姿を見た後、ドルフは机の上の書類へと目を向けた。
机の中央には報告書らしき1枚の紙、左上には資料と思われる開きっぱなしの分厚い紙の束、そして右には考えを纏めるために使われたらしいメモ帳があった。
報告書の文字は丁寧だけど、メモ帳の方は速さ重視の悪筆極まりないものだった。これ、本人以外には読めないんじゃないかな。
報告書のタイトルには『リステラ症候群患者の右腕に現れる印と類似した印に関係する伝承から推察される首謀者について』と書かれていた。
……あれ、これってリステラ症候群を起こしている犯人を報告しようとしたから、口封じ的な感じで眠らされたのでは?
そんなことを思いながら映像に映っている報告書の内容を見る。
要約すると、ヤンクイユという場所に伝わる伝承やおとぎ話に出てくる神様が今回の件に関わっているのではないか、というものだった。
正確には神様として扱われていた存在で、名前はロレットラリッサという。
その姿は透き通った液体で言葉を発することはできるが、彼女の言葉を理解できたのはククルクという神官だけだったらしい。
彼女は水を操ることを得意とし、とても友好的なのだという。しかし人間の考え方や価値観とは大きな差があり、加減を間違えて止まない雨を降らせてしまって大変なことになったこともあるそうだ。
それは一例で様々なことをやらかしていたらしい。
神官ククルクの手記には『彼女に悪気はなく助けになりたいと思ってやってくれたことだ。だから悪神と呼ばれるようなことになって欲しくない』と書かれていたという。実際、そうならないように様々なことを彼女に教えたらしい。
教えたことの1つとして、彼女が関わって起こしたことには印を付けるように言い含めたそうだ。その印というのが、横に伸びる4本の線が縦に並ぶというもの。
羽をイメージした印らしい。
報告書に記載されていた資料のページをドルフが確認すると、リステラ症候群患者の右腕に現れる印と同じように見えた。
『ロレットラリッサのその後について』と書かれた項目には、彼女がどうなったのかという説が記載されていた。行頭に記号があり箇条書きにされている。
人々を災いから守って消滅してしまった。
大きな力を使ってしまったため水底で眠りについている。
遠くから人々を見守り、必要な時に助けてくれる。
他にも色々とあるらしいけど、この3つの説が多いらしい。
上記の点から、ジナルドはロレットラリッサが今回の件に関わっているのではないかと考えた。
最後に『考察』という項目があった。しかし、残念ながら項目名しか書かれていない。
「ドルフさん、ジナルドさんの容態についての報告をよろしいでしょうか?」
「あぁ、頼む」
リオルさんの報告では、やはりジナルドもリステラ症候群を発症しているとのことだった。それ以外の外傷は見当たらず、濡れていることくらいしかおかしな点はないという。ジナルドに付着した水滴も現状の調査段階ではただの水だそうだ。私の探知魔法でもその水からはおかしなものや魔力も感じない。
リオルさんが何か魔法を発動させると、ジナルドの濡れていた髪や服から水滴が分離して空中に浮いているのを見た時は驚いた。
念のため、とリオルさんはその水滴を小瓶に入れてドルフに渡した。
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