第071話 消えた2人と置手紙
「シーナのことを保護してくれてありがとうございます」
タタさんはシーナちゃんを横抱きにして抱え上げてからローレンさんたちにお礼を言った。
「いえ、俺たちも彼女のことを放っておけませんでしたから。シーナちゃん、良かったな」
彼の問いかけにシーナちゃんは嬉しそうに頷いた。
タタさんが分かってくれて本当に良かった。アルさんとミラさんとも上手くいくかは分からないけど、大きな一歩だよね。
2人とも話し合えるようにシーナちゃんの魔石を直す方法を探さないといけない。
ローレンさんも同じことを考えたようでアントンさんと共に改めて自己紹介を行い、今後について話すことになった。その時に私のことも説明してくれた。
タタさんは偵察として先行して森へ入ったのであって森の外にはアルさんとミラさんもいるという。
「アルさんにシーナちゃんのことを伝えても大丈夫なんですか?」
「確かにアルは魔族を憎悪していますが、説得したので信じてくださいとしか言えません。何かしそうなら俺も止めます」
危なそうなら速攻で結界を張ろう。
不安は残るけどアルさんやミラさんと合流することになった。
「そろそろ合流地点です。先に説明してくるのでここで待っててください」
そう言ってタタさんが離脱した。
15分ほどで彼は戻って来た。
「問題が発生しました。ローレンさんとアントンさんだけで読んでください」
彼は静かに言って折りたたまれた紙をローレンさんへ差し出した。
ローレンさんはその紙を開いてアントンさんと一緒に内容を読んでいる。
私も覗いてみると紙には丁寧な筆跡でそう長くはないものの驚くようなことが書かれていた。
『アルバーノ様とミランダ様は先にお連れ致しました。テルミアの森までお越しください。歓迎致します。タタ様だけでなく、ローレンツィオ様、アントン様もご同行いただければ幸いです。それ以外の方を伴っていた場合、申し訳ありませんが森の外でお待ちいただくこととなります。こちらから何かを強制するつもりはありません。いつお越しいただいても構いませんが、これからシーナの崩壊は顕著になり3日ほどで消滅するでしょう。私ならそれを止めることができます』
どう考えてもシーナちゃんを作った黒幕からの手紙だ。
何かを強制するつもりはないって書いてあるけど、アルさんやミラさんは連れて行かれたらしいこと、このままだとシーナちゃんが死ぬこと、差出人なら助けることができると書かれていれば会いに行かざるを得ない。
でも、何でローレンさんとアントンさんのことが知られているんだろう?
探知魔法には怪しい人の反応はない。
「合流地点に2人はいなくてそれが残されていたんです」
現場には戦闘の跡はなく、アルさんとミラさんの足跡は馬に乗ったようですぐに途切れ、馬の足跡はそのまま森から離れているのだという。
この森へはそれぞれ馬に乗ってきたそうだけど、3頭ともいなくなっているそうだ。
「不思議なのは2人の足跡以外にもう1人の足跡があったんです。その足跡は俺のものと同じに見えました」
何それ怖いんだけど。
タタさんの偽物がいるってこと?
一体何が起こってるんだろう。
「考えていても仕方ありません。まずは2人がいた場所へ向かってみましょう」
アントンさんの言葉に私たちは移動を再開した。
特に何か起こるわけでもなく森を抜ける。
森の出入口には
タタさんの言う通り争ったような形跡は見られない。
彼が見つけた足跡や手紙の置かれていた場所をローレンさんたちにも教え、周辺も少し調べたけど新しい情報は出てこなかった。
「行くしかないだろ」
沈黙が続いた時、はっきりとした口調でローレンさんは言った。
タタさんは頷きアントンさんは仕方ないという感じで肩を竦めた。
乗って来た馬がないのでタタさんはアントンさんと2人で馬に乗ることになった。
移動中にシーナちゃんへいくつかの質問が行われた。
シーナちゃんの能力とか、彼女を作った研究員と会ったことはあるかとか。
能力については肌の表面を変化させて服を着ているように見えるよう変化させたり髪型を変えたりはできるそうだ。今は魔石に問題があって上手くいかないらしい。不調になる前でも他人に化けたりということはできないそうだ。
研究員には会ったことがなく、紙で指示を出されてばかりだったとのこと。
予定の変更はなく、私たちはレストーネへ向かった。というのも、このまま南下するとレストーネ、さらに南下するとテルミアの森あるため遠回りにならないからだ。
報告や準備はしておきたいということだった。
その後、特に何か起こることもなくレストーネへ到着し、タタさんが私やシーナちゃん、アルさんたちのことなどを報告するため町へ行った。
アントンさんや私は町の外で待機となった。
1人になってしまうことを心配されていたけど、町の外と言っても近くにいるので人目はある。人目があるところなら相手も迂闊なことはできないだろうとアントンさんが言うのでそれにローレンさんたちが従った形だ。
1時間もせずにローレンさんたちは戻ってきた。タタさんのおかげもあって領主様にも会えたそうだ。
町から少し離れたところで音消しを使用して結果報告が行われる。
領主様への報告は、アントンさんの提案で騎士団への要請はしないとのことだった。
人質がいることもあるけど、黒幕が大きな力を持った魔族だった場合、心証を損ねるようなことは悪手なのだという。
その通りに話したそうだ。
次に私の件、リーセディアからやって来た貴族や関わりのありそうな人の訪問もないそうだ。
そっちはまぁそうだろうなとしか言いようがない。
しかし、領主様はラテルの騎士団でディナルトスを騎獣として飼っていることを知っていた。
何らかの事情で迷い込んだことが考えられるので城で保護するという話になっているそうだ。
え、嫌なんだけど。
施設へ向かったローレンさんたちに何かあったらと思うと離れたくない。
私は抗議するように鳴いてローレンさんへ訴えかけた。
「どうやら、ラナもシーナちゃんのことが心配なようですね。無理に引き離して暴れられても困ります。このまま連れて行きましょう」
「お2人も来るんですか? 止めておくなら今のうちですよ。どんな危険があるか分かりません」
タタさんの言葉にローレンさんとアントンさんは顔を見合わせた。
「ここで関わるのを止めたら絶対に後悔する。最後まで付き合うつもりだ」
ローレンさんはタタさんに手の甲を上にして手の平を突き出した。
「指名されてしまっている以上、関わるのを止めたところで今更でしょう。僕も同行します。どれくらい力になれるかは分かりませんが」
アントンさんは苦笑いし、ローレンさんの手に自分の手を重ねる。
「手紙の差出人に一泡吹かせてやりましょう」
タタさんも2人の手に自分の手を重ねた。
「わ、私も頑張る」
慌ててシーナちゃんも手を重ねた。
4人ともいいなー!
ということで私もその上に手を重ねてみた。その直後に飛んで来たテバサキが私の手の上に乗る。
こうして、私たちは覚悟を決めるとテルミアの森へ向かった。
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