第075話 聞き取りと施設調査
アルさんがメインで話を聞きながらアントンさんは気になったことを聞くという流れで聞き取り調査は進んだ。
「実際、彼女は他の個体と違って感情を持っているかのように振舞っています。何がどう変化するか分からないので、逃げ出した時のための安全機能も兼ねています」
シーナちゃんの魔石が自壊するようになっていたのは、彼女のように脱走した時に他者へ迷惑をかけないようにするためだったという。彼女たちは増えないようにしているらしいけど、長く生きていると変化が起こって増えるようになるかもしれない。もし増えることで思いもしない影響を及ぼすかもしれないからだと彼は答えた。
「もしシーナちゃんがあなたの元へ戻るのであれば、彼女をどうするつもりなんですか?」
「様々な状況を想定して話して聞かせ、どう感じるかということを聞くでしょう。町へ連れ出して食事や娯楽などを体験させて感想を聞くというのも興味深そうです」
そもそも何でセオロアさんは感情についての理解を深めたいって思っているんだろう。
「孤児などを引き取るというのでは駄目だったんですか?」
「確かにそれでも研究はできますが、個体差がありすぎると比較実験ができないのです。その点、彼らならデータがあれば量産が可能であり比較実験が可能なのです」
は、量産? 比較実験?
言葉は理解できたけど、しばらくの間理解が追い付かなかった。
何度か頭の中で文章を繰り返して理解する。
つまりセオロアさんは、シーナちゃんのクローンみたいなのを作って実験がしたいってことだよね?
え、そんなの駄目でしょう。人道に外れてない? この世界では普通の発想なの?
そう思ってアルさんとアントンさんの顔を見る。
アルさんは眉を寄せ不快そうにしており、アントンさんは真剣な表情のままだ。
「それは本気で言っているんですか?」
「もちろん」
アルさんの呆れたような、軽蔑するような問いにセオロアさんは即答した。
「なるほど、セオロアさんも感情を持っていないようですね」
そんな彼に対してアントンさんは微笑んだ。
微笑んではいるものの、面と向かって『人の心がない』と言う彼に強い怒りを感じる。
「あぁ、やはり分かるものでしょうか。その通り、私も感情を持っていないのですよ」
どんな反応をするんだろうとセオロアさんを見れば、彼は小さく笑ってアントンさんの言葉を肯定した。
その流れでセオロアさん自身についての話になった。
「感情がないのであれば、なぜあなたは人間の感情について理解を深めようと思ったのでしょうか?」
「『勤勉でいるように』と指示を受けて様々なことを学んだ上でより深く学ぶ必要があると判断したからです」
誰に指示を出されたのかということに関しては答えてくれなかった。
どうすればシーナちゃんを助けられるんだろう。難しくて頭がグルグルしてきた。
彼らの会話を聞きながらいくら考えても良い案は浮かんでこなかった。
そうこうしている間にローレンさんたちが帰ってきた。
お互いに報告が行われる。
研究資料などは置かれておらず、実験設備だけが残っていたらしい。理由を聞けば、この研究はセオロアさんだけで行っているもので紙にまとめたりしなくても全て覚えておけるからということだった。
期待していた資料は手に入らず、交渉材料になりそうなものもなさそうだ。
このままだとシーナちゃんは消滅し、助かるには彼の元へ戻り実験台にされる道しかない。
まだ何とかなるかもしれない。諦めるのは早い。
そう自分に言い聞かせる。
「もう1度聞きましょう。私のところへ戻ってきてくれませんか? あなたが死にたくないのであれば」
微笑み手を差し出すセオロア。
「降ろして」
シーナちゃんはタタさんにそう言って、タタさんは少しの間無言でいたが2度目に言われた時には彼女を地面に降ろした。
「……分かった」
セオロアの差し出した手を見つめ、ポツリと言った。
ローレンさんは目を丸くし、ミラさんは悲しそうに、アルさんは舌打ちが聞こえてきそうなほどに苛立ちや不服そうな表情をしている。
そんな中、アントンさんとタタさんの2人は表情を変えなかった。
「さぁ、こちらへ」
手を差し出したまま急かすようにセオロアが言う。
シーナちゃんは無言で彼に向かって歩き始めた。
誰も何も言わない。
もし、私が言葉を話せたとしてもきっと何も言えないだろう。
このままでは彼女は死んでしまう。それを解決できるのは現状セオロアだけだ。ゾッとするような計画は立てられているけど、生きてさえいればその問題を解決できるかもしれない。
「どうにかできないのか?」
悔しそうにローレンさんがアントンさんへと問いかける。
アントンさんは無言で首を左右に振った。
それを見たローレンさんが歯を食い縛る。
そんな会話に足を止めることなく、シーナちゃんはセオロアの元へと歩みを進めた。手を伸ばせば触れられるのではないかという距離まで近づいた時、彼女はふらつき倒れそうになる。
セオロアがシーナちゃんを抱き締めるように受け止め、直後に彼は血を吐いた。
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