第082話 アントンさんからの報告

 マルマークが出っ張ってから少し経つと石壁に長方形の線が入った。大きさは片開きの扉くらいでローレンさんたちは警戒しながら様子を窺っている。

 長方形部分が一瞬にして砂に変化した。砂が床に落ち、アントンさんと彼の後ろにセオロアさんの姿があった。

 見た感じや探知魔法でおかしな様子はない。


「お待たせしました。すでにマークでお伝えしましたが上手く説得できました」


 アントンさんは微笑み、視線は自然とセオロアさんへ移った。


「彼の指示に従います」


 セオロアさんは無表情で言う。

 あれだけ拒絶的だったのに、何したのアントンさん。


「大丈夫なんですか?」

「信じてください。としか言いようがないですね」


 他の人も思っているであろう質問をアルさんが投げかける。

 アントンさんは苦笑いして答えた。


「何か起こっても止められるよう、シーナの近くに何人か待機させても良いですか?」

「彼女が良いなら構いませんよ」


 アルさんが尋ねると彼女は了承したのでタタさん、ミラさん、ローレンさんが彼女の近くで待機することになった。

 彼はというと、アントンさんやシークくんの近くに立っている。


「シーナちゃんの魔石に組み込まれた自壊機能の停止と除去をお願いします」

「承知しました」


 セオロアさんは即答するとシーナちゃんへと近づいた。

 タタさんは彼女を抱えて私から降りた。


 結果から言うと、シーナちゃんの治療はつつがなく行われた。

 彼女から漏れていた魔力は止まり、少しずつではあるが魔力が増えるようになっていた。

 セオロアさんがシーナちゃんの魔石から手を離す。


「完了です。減った魔力までは戻せないので、栄養を摂って療養してください」

「……ありがとう」


 彼女は気まずそうにお礼を言った。彼は短く返事をすると立ち上がりアントンさんの後ろへ戻る。


「彼をどうやって説得したのか、今どういう状態なのかを説明してください」


 アルさんが固い口調でアントンさんを見ながら言った。有無を言わせない気迫を感じる。


「申し訳ありませんが話すつもりはありません」


 それをアントンさんはにこやかに拒否した。

 その後も質問を続けるがその全てに彼は答えなかった。


「……アントンさんはセオロアさんをどうするつもりですか?」


 諦めたように別の問いかけをされ、アントンさんが思案する様子を見せる。


 セオロアさんの持っている能力は未知数だ。今回のことだけを見ても様々なことができることが分かる。

 彼に私たちを傷つけるつもりがなかったこともあって怪我1つしていない。でも、そうじゃなかったら大変なことになっていたんじゃないかな。


 もし、セオロアさんに言うことを聞かせられるのであれば危険だ。

 だって、セオロアさんがシーナちゃんの魔石を直したくなかったのは「人に危害を加えられるから」ということだったんだから。それよりもアントンさんの指示を優先したということになる。

 人のことを道具に例えたくはないんだけど、アントンさんと話す前のセオロアさんは使い方が分からず安全装置もかかった状態の銃のようなものだった。それが今はアントンさんが扱える強力な銃になってしまったという状況だよね。


「アルバーノさんたちも心配だと思うので、そこは話し合って決めていきましょう」


 悪い人なら危険だけど、アントンさんなら大丈夫だと思いたい。


 その後は地下の大広間に閉じ込めた7人の少年少女たちを石の箱から出した。

 解放された彼らは私たちへ向かって来ようとしたけどセオロアさんが止めると素直に従った。


 テバサキが1度自身を捕まえた少女へ向かって飛んでいく。


「テバサキ、怪我してない大丈夫」

「そう、良かった」


 空中に留まりながら言うテバサキに無表情のまま少女は言った。

 彼らも連れて1階まで向かう。1階の石の箱に閉じ込められた少女も出す。彼らはとても大人しくセオロアさんの指示に従った。


 適当な椅子にそれぞれが座る中、シーナちゃんはタタさんの膝の上に座らされ、シークくんや8人の少年少女は立ったままだったけどアルさんに言われて近くにあった椅子に座った。シーナちゃんは少し恥ずかしそうだったけど、嬉しそうにも見えた。

 そして話し合いが開始した。


 まずは彼らの正体について。


「種族名はシェグルと言います。シェグルは基本的には感情を持たず与えられた指示に従います。なぜ、と問われてもそういう存在であるとしか言いようがありません」


 そして分裂によって増え、栄養があれば何もしなくてもどんどん増えるそうだ。ただ、制限はできるらしくセオロアさんが生んだ……って言っていいのか分からないけどシーナちゃんたちは増えることができない。この制限はセオロアさんが能動的に行っているわけではなく、彼自身に行われた制限の影響らしい。

 それと、制限を受けた彼が生み出せるシェグルの上限は10体だという。吸収すれば再び生み出せるらしいけど、吸収できなければ新たに生み出すことはできないそうだ。


 そんな感じでアルさんたちは彼らやシェグルについて聞きつつ今後どうするかを話し合った。

 少年少女たちは吸収させない。そうすることでセオロアさんの弱体化にも繋がる。

 セオロアさんと少年少女たちはレストーネの領主へ報告して判断を仰ぐことになった。


 次にシーナちゃんとシークくんはどうするかという話になった。

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