第083話 今後についての話し合い
「本来、シェグルは魔石を必要としません。シーナとシークたちは例外として魔石を組み込んで生み出しました」
他の魔物の魔石を食らった魔物が変異種となる事例があるようで、シェグルに魔石を与えれば何か変化があるのでは? と考えたからだそうだ。
魔石が関係しているかは不明であるものの、シーナちゃんは感情を持った。魔石が理由であればシークくんもいずれシーナちゃんのように感情を得るかもしれない。
というか、セオロアに従わず私たちの味方をしてくれた時点でシークくんに感情が芽生えているんじゃないかと思っている。
「シーナとシークはこれからどうしたい? できるかどうかはともかく、まずは希望を聞いておきたい」
アルさんに言われてやや沈黙した後、シーナちゃんは口を開いた。
「……私はこれからもタタたちと関わっていきたい。町に住むのは無理かもしれないけど、町の近くまで行くから交流を続けさせてもらえると嬉しいな」
恐る恐るといった様子でシーナちゃんはアルさんを窺っている。
「シークは? 何か希望はあるか?」
「いえ、特にはありません」
特に表情を変えることなくシークくんは即答した。
「俺がシーナを引き取ってもいいか?」
「だったら私はシークくんを連れ帰りたい」
タタさんが申し出た後、ミラさんが手を挙げてそれに続いた。
「タタはともかくミラは駄目だ」
「えー、何でー?」
「自分の世話すらサボるだろ」
しかし、ミラさんの申し出はすぐに却下される。
その後も食い下がるミラさんにアルさんが言い返すということを数度繰り返した。
「許可していただけるならミランダ様のところへ行きたいです」
そんなやり取りを聞いていたシークくんは2人の会話が途切れたところで発言した。
「今の話を聞いてたか? こいつには収集癖がある上に面倒臭がりで、人様には見せられないような物とゴミに溢れた環境で生活しているんだぞ?」
「ゴミじゃない。いつか使うかもしれない。それに客室は綺麗にしてるし、1階については廊下に物を溢れさせてないから。定期的にお掃除を頼んでるし、その頻度を上げればいいでしょう?」
私も話を聞いててびっくりしたよ。
ミラさん、ミステリアスで綺麗な女性なのに汚部屋の住人らしい。
部屋が綺麗そうとか勝手なイメージだったけど。
「駄目だ。一緒に生活をするならシークの見本になれるように心掛けてくれないと」
アルさんの言うことももっともだ。変なことを覚えたら大変だからね。
「反面教師にはなれる」
「駄目じゃねーか」
眠そうな声でなぜか自身満々そうにガッツポーズをしながら言うミラさんにアルさんは即答した。
「でも、シークくんはそれでもいいって」
「シークはどうしてミラのところへ行きたいと思ったんだ?」
難しそうな顔をした後、アルさんは彼に尋ねた。
「理由は分かりませんが、私のことを必要としてくれているからです」
シークくんはもちろん、シーナちゃんや地下でテバサキを捕まえてくれた子もみんな純粋に感じる。
悪い人にすぐ騙されそうで心配だ。
「ミラは?」
「私たちを助けてくれたこともあるけど、良い子そうだから行く場所がないなら力になりたいと思ったから」
う~んと小さく呻き、アルさんはシークくんを見た。
「本当にいいのか? 1度現状を見てからでもいいんだぞ?」
「そこまで仰るなら1度家を見せていただきその後で返答します。もしミランダ様の申し出を断ったら私はどうなるんでしょうか?」
「そこは安心してくれ。俺の家に来てもいいし、1人で暮らしたいならそれも実行できるように考えてみる。監視がつくか定期的な報告は必要になってくると思うが、可能な限り希望は叶えたいと思ってる」
魔族に恨みがあると言っていたアルさんだけど、意外にも希望が出たら同居を許可するつもりだったらしい。
「アルだって潔癖で神経質だし面倒臭い」
「使ったものは戻す。使わないものは捨てる。当たり前のことだ」
「お皿の順番やクッションの位置、向きまで決まってるじゃない。袋とか容器だって洗ったらまた使えるのにすぐ捨てちゃう。食器だって1回の食事で片付けるより、もう1回くらい使って片付けた方が楽だもの」
確かに細かいと思った部分もある。
でも使った食器をそのままにして次の食事でも使うのはちょっとどうかと思う。
1人暮らしならそれくらいずぼらでもいいかもしれないけど、そういうのを見ると嫌な気分になる人と同居をしているなら片付けるべきじゃないかな。
「タタさんはどんなところに住んでるの?」
2人の話を聞いて興味を持ったのか、シーナちゃんがタタさんに尋ねた。
「まぁ普通じゃないか。2人ほど極端じゃない」
どんな部屋かワクワクしたからちょっとがっかりした。でも、シーナちゃんにとったらいいことか。
結局、折れたのはアルさんの方だった。
そんな感じである程度の話はまとまり、夜も更けてきたため今夜は食事を終えたら施設内で休むことになった。
「アントンさん、忘れないうちに地下室で購入した塩の料金を払います。おいくらですか?」
アルさんの言葉にアントンさんは微笑み金額を告げた。彼はその金額にかなりの色を付けて払った。
「これは多いです」
「感謝の気持ちですから受け取ってください。とても助かりました。こういうことはきちんとしておかないと気持ち悪い質でして。それに、協力していただいたのですから良かったと思っていただきたいんです」
ミラさんは神経質だって言っていたけど、その神経質さがこういう気遣いに繋がっているのかもしれない。こういうのって人間関係において大切なんだよね。
アントンさんは固辞したりはせず多めの代金を受け取った。
その後、料理の準備のため各々が動き始めた。
「魔法が使えなくなったのはどういうカラクリがあったんです?」
アルさんがセオロアに尋ねる。
セオロアはアントンさんを見て、彼が頷くのを見ると答えた。
「この施設内で一定以上の魔力が放出された場合、魔力を吸収する魔法陣が発動するようにしていました。魔法陣が吸収した魔力は、施設の外が黒い粘液で覆われていく幻を見せる魔法に変換しています」
魔力を吸収する魔法陣か。魔法使いにとって天敵だよね。もっと危険な状況で魔法が使えなくなったらと思うととても怖い。
というか外の黒い粘液って幻だったんだ。探知魔法が使えていたら幻だって見抜けたのかな。これも見抜く方法があればいいのに。
今回は大丈夫だったけど次もそうだとは限らない。後悔をしないためにも対策を考えておかないとね。
幸い、私には色々と考える時間が結構あるんだから。
食事を終えると照明の魔道具の光量を落として就寝の準備を始める。
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