第035話 連絡と報告

「エリック殿、これは?」


 ドルフは不思議そうに青く発光しているマルメを見て尋ねた。


「連絡が来たようです」


 エリックさんがパチンと指を鳴らす。いい音が響き、マルメは目を閉じた。

 数秒後に目を開いたマルメの目から光が放たれる。その光の中には、見覚えのある人たちの姿があった。

 鎧を着ているレスターさんとマルコスだ。初めて見る男性もいる。その男性は杖を持ちローブを着ており、マルコスと同年代に見える。


 いや、何で!?


 しかも、3人のいる場所はお出かけの時に良く行く湖のように見える。湖の近くには人や馬を鷲掴みにして飛ぶことが出来そうな巨大な鳥と馬の居ない馬車があった。馬車っぽく見えるんだけど、その馬車の屋根部分には取っ手のような物が付いている。

 マルメは高いところから見ているようで、3人は気付いていない様子だ。


「……エリック殿、これは?」


 さっきと同じ言葉。しかし、声には困惑の色が滲んでいた。


「ブロワ村でリステラ症候群について知った時、念のためラテルだけでなくルセルリオにも情報を伝えたんです。きっと手助けに来たのでしょう」


 ありがたいけど、町へ入られるのはまずい。リステラ症候群の対象になってしまうかもしれない。

 ドルフたちは私が結界を張ったことで魔糸を断ち切ることができた。けれど今もそれができるとは限らない。魔糸が強化されているとしたらまずいし、最悪なパターンとして魔糸が繋がった瞬間にリステラ症候群を発症するということも考えられる。


「マルメを通せば彼らと会話することもできますが、それをするつもりはありません。今回は非常事態と判断したのでお見せしましたが、ご存知の通りマルメの能力は非常に優秀です。余計なトラブルを避けるためにも、可能であればラテルの騎士団関係者以外には隠しておきたいのです」


 エリックさんの主張は良く分かる。マルメを手に入れようとする人たちが現れたら大変だよね。そのリスクを負ってまで協力してくれていることに感謝しないといけないくらいだ。

 ドルフとリオルさんは了承した。


 その後はレスターさんたちが町までやってくるとまずいということになり、彼らを止めるためドルフがザックたちに連絡を行うことになった。

 ドルフからもジナルドの状態、書きかけの報告書や資料、調査で分かった情報、レスターさんたちのことを伝えた。彼らへ現状を伝え、町へは近づかないようにすること、マルメを秘密にすることが伝えられた。

 受けた報告では、城の外に居た数人の騎士たちを除いて起きている人には出会っていないという。誰もが眠っており、右腕には印があるそうだ。


 一通りの情報共有が終わった後、繋いでいた映像を切ったドルフはエリックさんを見た。


「リステラの種族や習性、性質など彼女について分かったことはありますか?」


 話はリステラの話へと戻った。

 問われたエリックさんは「資料に書かれていることが本当だとするのであれば」と前置きをして話し始めた。


「物理的な攻撃よりも魔法を主力とし、得意な属性は水と治癒。広範囲魔法も使用するようです。それ以外は使えないのか、使わないのか不明です。討伐に必要な戦力は未知数ですが、国を滅ぼす方がよほど簡単でしょう。あの水塊の能力は本体の50分の1、下手をすれば100分の1にも満たない恐れがあります」


 何それ怖い。

 予想はしていたけどそこまで凄いとは思ってなかったよ。

 戦ってどうにかするというのは無理そうだ。

 そうは言っても言葉は通じ無さそうだった。通じていたとすれば、無視されたということになるため会話する気がないことになる。結果としては同じようなものだ。


「リステラのその後についての説には含まれていませんでしたが、封印など制限を受けていた可能性は考えられませんか?」

「可能性としては十分にあります。本人が同意していたのであればですが、大がかりな封印も必要なかったでしょう」


 その封印が解けてしまったか、緩んでいるのではないかという話になった。


「何かの要因で魔法陣の一部が欠け、封印が緩んでいるのであれば対処できるかもしれません」


 召喚術と魔法陣は関わりが深く、分かる可能性があるということだった。


 でも結局、封印についてもそうだけど本体がどこにいるか分からなければ手の打ちようがない。

 本体は太い魔糸の先にいるんじゃないかと思う。

 依り代の持っていた魔力よりもよっぽど多い魔力が送られてきているからね。


 だから私は、本体の居場所はどこかという話になった時に騒いだ。


 最初は大人しく聞いていた。

 ヤンクイユの伝承になっているからとヤンクイユにあるのではないかという話になった。しかしヤンクイユはここからずっと西にあり、馬で急いだとしても1か月はかかるそうだ。

 太い魔糸はラテルから南東へ向かって延びている。ヤンクイユのある方向とは違っている。

 だから騒いだ。


「心当たりがあるのか?」

「ク~、ククッ」


 たぶんだけどね。という意味で分からないと肯定を返す。

 エリックさんの前では普通のディナルトスとして振る舞いたいけど、結界を張ったこともバレているだろうし今更な気がした。

 ドルフが気を使って私と2人になったとしても、勘付かれそうだからね。

 下手に隠して印象を悪くするよりは、大っぴらにした方がいいのではと思った。

 リオルさんはまぁ、騎士団関係者っぽいからいいかな。言いふらすようなタイプでもない気がするし。


「確定的ではないようですが、ラナには心当たりがあるようです」


 ドルフも同意見だったようで隠そうとはしなかった。

 私の返事を訳しながらドルフはエリックさんを見た。

 エリックさんは私を見ながら顎に手を当てて考えるように沈黙する。


「……先ほど起こったリステラ症候群の大規模発症の直前に結界を張ったことを考えると、ラナには魔力が見えているのかもしれませんね」


 そう言った後、エリックさんが理由を話してくれた。


「依り代の落ちた能力であれほどの魔法を発動させたとは考えにくい。すでにリステラ症候群を発症させるような魔法が準備されていて、依り代の水塊がその魔法を作動させるきっかけだったのではないかと考えています。リステラ症候群を発症させるための魔力を本体が流しているのであれば、その魔力の流れを辿ることで本体の元へたどり着ける可能性があります」


 なるほど、リステラ本体が大量の油を撒いておいて、依り代がそこへ火の点いたマッチを1本放り込んだってイメージかな?


「手がかりが少ない今、そこへ向かってみるのも1つの手かもしれません」

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