第089話 強制的な空の旅
ラディオさんが風の魔法を発動させて砂煙を吹き飛ばす。
その時には私は3mほどの高さにいた。
ロープで馬車に繋がれた馬は抵抗しているけど引っ張られている。
「ラナ!」
ローレンさんが跳んで馬車の車輪を掴んだ。
身体強化魔法を使っているからこそできる芸当だ。それにしても凄い。
助けようとしてくれること自体はとても嬉しい。でも、あまり危険なことはしないで欲しい。
私の心配した通り、ウォルダムがローレンさんのことに気がついて檻を揺さぶり始めた。
待って、それは私に効く。
「ローレンさん! 無茶しないでください!」
地上にいるアントンさんの言葉には答えず、ローレンさんは持っていた革の袋を檻の中へ押し込んだ。
檻は振り回され、遠心力に従って上下左右に体が動く。逆らうこともできるけど、次の瞬間には力がかかる向きが変わって勢いづいてしまうこともある。
爪がローレンさんに当たってしまうかもしれない。
檻の隙間に爪を差し入れたりしながら私は踏ん張った。
ローレンさんは取り出したナイフで馬車に繋がれた馬の手綱を切った。
おかしな体勢のまま落ちる馬。
慌てて柔らかい結界を張って馬たちを受け止める。
馬がいなくなったことで上昇速度が上がる。
このままだとどこかへ連れて行かれる。
結界を張って馬車ごとウォルダムを閉じ込めたりすればそれは止められる。
でも、このまま連れていかれたら彼らが戦わなくて済む。
離れている間に平和的な解決ができるよう話し合ってくれるかもしれない。
もっと大きな問題になる恐れはあるけど、そうならないように祈ろう。
そう考えていた時、それまで以上の遠心力がかかった。
探知魔法へ意識を向けると檻を固定している縄が緩み始めていた。
「ラナ、迎えに行くから待ってろ!」
ローレンさんも気がついたようで馬車の車輪から手を離した。
「テバサキ、ラナについてやってくれ」
落ちながら肩に留まっていたテバサキへ指示を出す。
返事をしたテバサキが距離を開けながらついてきている。
ローレンさんは空中で体勢を整えると無事に着地する。そしてすぐにその場から離れた。
緩んだ縄の勢いは止まることなく、やがて馬車は落下した。
ローレンさんも含めて他の人も退避していて被害はない。
彼がいなくなったことで檻が振り回されることもなくなった。すでに私の気分は最低だけどね。
テバサキも無事で少ししてから檻の中へ入って来た。そのままローレンさんが入れてくれた革の袋を足で掴む。
ウォルダムはそのまま高度を上げて20mほどの高さへ来ると横へ移動を始めた。
向かっているのは私たちの進行方向と同じ、ゾニアーノがある方向だ。
それはそうと高すぎて怖い!
高所恐怖症じゃなくてもこの高さは怖いでしょ!
ウォルダムがうっかり足を離してしまうかもしれない。
落ちたとしても結界でどうにかなるかもしれないけど、万が一結界が使えなかったら?
そういう悪い想像が恐怖心を煽る。
ドキドキしながら耐える。
山の標高が高くなってくるのに比例して地面が近付いてくる。
そのまま進んでいると開けた岩場が見えてきた。
そこが目的地だったようで高度が下がる。
上からでも分かったけど、その岩場には何匹ものウォルダムがいた。ざっと数えても10匹以上いる。
着地の衝撃は思っていたよりも小さかった。近くのウォルダムが物珍しそうに集まってくる。
『どうしたんだこれ。人間の道具じゃないか。しかも中に何かいる』
『何人かの人間が運んでたの。最近、他の生き物を捕まえて運んでる人間がいたでしょう? きっとそいつらの仲間よ』
近寄ってきたうちの1匹のウォルダムと私を運んできたウォルダムが会話している。
嫌だな、何か事件の気配がする。
『ん? 途中までくっついてきた人間と一緒にいた鳥がいるわね。悪い奴らを呼ばれちゃ困るけど、呼ぶとは限らないものね。しばらく様子を見ましょうか』
そんなことを考えているとウォルダム
テバサキのことが心配だったけど今のところは大丈夫そうで良かった。
『こんな小さな子どもを親から引き離して檻に閉じ込めてるのよ? 悪い奴らに決まってるわ。ご飯だって食べられていなかったんだから』
私をここへ連れて来たウォルダムはおそらくだけど私たちの昼食の様子を見ていたようだ。
気遣ってくれるのは嬉しいけど、乗り物酔いになることを考えて自主的に食べなかったんだよ。
ウォルダム基準で言えば私は小さいだろうけど、もう成長は止まってそうだし成獣になってると思う。
『私はあの人たちに守ってもらいながら運ばれてたんです。誘拐されてません。彼らの元へ帰してください』
飛んでいる時は単純に聞こえていなかったのかもしれない。
言葉が通じればいいなと思いながら話しかけてみる。
『窮屈よね、すぐに出してあげるわ』
しかし、残念なことに言葉が通じないことが確定してしまった。
ウォルダムが鋭い爪を南京錠へ振り下ろす。
1度では壊れなかったものの、何度か叩かれたことで南京錠が壊れ弾け飛んだ。
『痛っ!』
『あら、ごめんなさい。大丈夫?』
勢いよく飛んだ南京錠が近くにいたウォルダムの顔にぶつかる。たまらず声を上げるウォルダムに元凶が謝罪する。
コントかな?
さっきまで緊張していたこともあってそのやり取りに凄く和んだ。
その後、少し考えてから檻の外へ出ることにした。その方が自由に動けるからね。
私は兎のぬいぐるみを持って檻の外へ出ると体を伸ばした。
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