第090話 ウォルダムの群れ
檻から出た私についてくる形でテバサキが私の背中へ乗った。ローレンさんが入れてくれた革袋も足で掴んだままだ。
『なぁ、連れてきたのはいいがこの子はどうするんだ?』
『もちろん、育てるわ。だからあなたも協力してね』
『ん、分かった。どうなるか分からんができる限り協力する』
顔に南京錠がぶつかったウォルダムはすんなりと彼女の言葉を受け入れた。
『ありがとう。あなたのそういう愛情深いところ大好きよ』
『俺もお前のそういう子どもが好きで困ってる奴を放っておけない優しいところが大好きだ。行動する前に俺に相談するとか、もうちっと落ち着いてから行動してくれるとさらに嬉しいけどな』
2人は仲睦まじい様子でお互いに体を摺り寄せた。
おぉ、凄くラブラブな夫婦だ。
奥さんと戦闘にならなくて本当に良かったよ。
とても素敵な夫婦だと思うけど、彼らの子どもになるつもりはない。私はラテルへ帰りたいんだから。
でも、ローレンさんには待ってろって言われたし入れ違いになっても困るから何日かはここにいて様子を見よう。
ローレンさんたちが私を探してくれることは分かっている。訳も分からず知らない森へ放り出された時と違って、今はテバサキやローレンさんたちもいるから1人じゃない。それにウォルダムも好意的っぽいからね。
だから、不安はあるけど大丈夫。
そう自分に言い聞かせた。
『あら、この子何か持っているわね』
ウォルダムが私の持っている兎のぬいぐるみに気がついた。ぬいぐるみに顔を近づけてスンスンと匂いを嗅いでいる。首へ巻いているスカーフも嗅がれた。
『きっとこの匂いの持ち主が親ね。やっぱり誘拐されたんだわ』
『そうかもしれない。この匂いの主を探してみよう』
もう一方のウォルダムにも匂いを嗅がれ、2匹があれこれと話している。
誤解を解きたいのに悪化した。完全な誤解でもないけど、この誤解を解かないとローレンさんたちが来たとしても戦闘になりそうな気がする。それも群れを巻き込むかもしれない。
私がローレンさんたちを庇うように動けば分かってくれるかもしれないけど、他に誤解を解く方法がないか考えておこう。
『さ、まずはご飯にしましょう。この子、全然食べられてなかったから』
彼女が翼を羽ばたかせて地面から浮かび上がる。
奥さんの方のウォルダム――探知魔法で分かりやすいように名前を付けておこう。緑色だからエメラルドの「エメ」で旦那さんの方を「ラルド」にしよう。安直もいいところだけど、分かりやすいし変な名前でもない。他のウォルダムたちには申し訳ないけど体の大きい順に「ウォルダム+数字」で名前をつけて見分けがつくようにしておいた。
『おチビちゃんのこと、頼んだわよラルド』
『あぁ、エメの方こそそそっかしいんだから気をつけてな』
おぉ、翻訳機能さんの仕事が早い。相変わらず原理は分からないけどね。
こうして、エメさんは飛んで行った。
私を運んでいた時には加減をしてくれていたようで、エメさんの姿はあっという間に遠くなってしまった。
その後、ラルドさんは群れと思われるウォルダムたちに私のことを改めて話してくれた。
『そういうわけだからおチビちゃんのことを気にかけてもらえるとありがたい。もちろん、可能な限り俺たちで世話をするから』
『それはいいが、お前も大変だな。たまにはエメの奴にビシッと言った方がいいんじゃないのか?』
『いいんだよ。確かに困る時もあるが、彼女らしく生き生きとしてくれる方が俺も嬉しいんだ。それに、あんまり暴走するようなら俺だって止める』
『まぁ、お前がそれでいいならいいけどな』
話し終わった後、ラルドさんは私の近くに戻ってきた。
探知魔法で分かることもあるけど、実際に見ないと分からないこともあるので周辺の状況を確認しよう。
『こら待ちなさい。ここから離れるんじゃない』
広い岩場から急な坂を下りようとしたところでラルドさんのストップがかかった。
具体的には、何も言わずに私の後ろをついて回っていたラルドさんが翼で私の進行方向を塞いだ。
『駄目ですか?』
クー? と私は高い声で鳴いた。
会話を聞いての予想だけど、ウォルダムはかなり賢い。彼らは鳴き声で会話しているようなので私の鳴き声もいくらか判別は付くはず。
「はい」、「いいえ」、「分からない」くらいは意思疎通できるのではないかと思った。
『駄目だ』
ラルドさんが低く唸る。彼に反抗してまで広場から出て行く理由もないので大人しく戻った。
探知魔法は魔力節約のために切っておく。発動したままの方がいいとは思うけど発動しっぱなしだといざという時に魔力が切れて魔法が使えなくなる。それは怖い。
ローレンさんがくれた革袋の中身も気になるけどテバサキが持っているから様子を見ている状態だ。
テバサキは私よりもよっぽど小さいのに落ち着いていて凄いと思う。テバサキより大きい私でもウォルダムに囲まれた時は緊張したからね。その時もテバサキは私の背中の上でしれっとしていた。大物すぎない?
考えたいことはあるけど答えが出るようなものでもないし、あとはエメさんを待つしかないかな。
他のウォルダムと交流することも考えたけど、彼らのことをあまり知らないうちから下手に動いて嫌われたくない。まずは彼らの習慣や生活なんかを観察することにしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます