第091話 大柄なウォルダムと白いウォルダム

 まずはウォルダムのことを知ろう。

 そう考えて彼らのことを観察していた時、バサバサという重い羽音が聞こえてズシンという地響きがした。遅れて先ほどよりは軽い音が響く。

 音がした方向を見てみると、待っていたエメさんではなく別のウォルダムがいた。探知魔法がなくても一目で分かった。2体のうち1体は他のウォルダムと比べて二回りは大きく、もう1体は緑色の鱗ではなく真っ白な鱗だったからだ。


 先に大きな音を立てて着地した方が大柄な方、その後で静かに下りたのが白い方だ。白色の方は小柄で目は青色。とても綺麗だ。


 探知魔法を切ったところだけど再度発動する。

 ウォルダムたちは多少のバラつきはあるものの豊富な魔力を持っている。具体的には一般的な魔法使いが持つ魔力量の5倍から7倍。大柄なウォルダムは10倍。それに対して白いウォルダムは20倍の魔力を持っていた。


 魔力を持っているからと言って魔法を使うとは限らない。

 でも、もし魔法を使って戦闘することができるならかなりの脅威になるだろう。

 威力にもよるけど私の結界でも防げない。


『知らない臭いがするな。このチビは何だ?』


 そして、大柄なウォルダムは他のウォルダムと違って威圧的に言葉を放った。


 大柄なウォルダムがやってきてから他のウォルダムたちの空気が変わった気がする。

 緊張感が混ざるピリピリとした雰囲気だ。


『人間に捕まって運ばれていたようだから助けた。迷惑をかけないようにしっかり見ておくからここに置いてやってくれないか?』


 ラルドさんは庇うように私の前に立った。

 他のウォルダムたちへは「気にかけてくれるとありがたい」と言っていたのに、大柄なウォルダムに対しては許可を取ろうとしている。

 それだけでこのウォルダムが群れのリーダーであることが察せられた。


『群れに迷惑をかけないのであればそれでいい。だが、迷惑になるのであれば追い出すからな』


 フンと鼻を鳴らし尊大な態度で言ってから大柄なウォルダムは地面へ寝そべって目を閉じた。

 白い竜の方は特に何も言わず、広場の端の方へ行って横になった。


 2匹はそれぞれ「ビック」と「シロ」という名前にした。


『ただいま。食べてくれるかしら?』


 30分ほどでエメさんは戻って来た。その腕にいっぱいの木の実や草を抱えている。

 歯の感じを見て思ったけど、どうやらウォルダムは草食のようだ。私の尖った歯と違って彼らは小さくてたいらな歯がいっぱい並んでたからね。植物をすりつぶすために草食動物の歯はそんな感じだと習った気がする。


 植物は食べないけど木の実なら食べられる。見たことがない木の実はちょっと怖いから見たことのあるものだけもらおう。

 私が手でいくつかの木の実を引き寄せた時、テバサキが背中から降りて私の前へ着地した。テバサキは足を器用に使って革袋の口を開けると顔を中へ突っ込んだ。少しして顔を上げたテバサキのくちばしには干し肉がくわえられていた。


「ラナ、食べていい。ご飯」


 テバサキは私の目の前にくわえていた干し肉を置いて言った。

 1度に全てを食べてしまわないようにするためか、嘴で紐をくわえてから引っ張って革袋の口を閉じる。

 器用だなぁと思っていると、エメさんたちが干し肉の匂いを嗅いだ。

 他は何もせず少しして干し肉から離れたので、私はテバサキの置いてくれた干し肉を食べた。

 ローレンさんは私がお腹を空かさないように気を遣って干し肉の入った革袋を入れてくれたようだ。


 もちろん、エメさんが取ってきてくれた木の実も美味しくいただく。

 何個も木の実を食べてお腹は満たされた。何が起こるか分からないから腹八分目に抑えた。

 私が木の実を食べている間、2匹にじっと見られて物凄く食べにくかったけどね!


『もういいの? もっと食べてもいいのよ?』


 エメさんが手で木の実を押して私の前に移動させる。

 もう大丈夫だという意味でクーと鳴く。ドルフたちに対して否定する時はグルグル唸っていたけど、彼女たちにすると誤解されそうだからね。怒ってると思われたら罪悪感で凹む。


 私が地面へ横になるともういらないのだと判断してくれた2匹は植物と私が食べない種類の木の実を食べ始めた。


『おチビちゃんは落ち着いていて大丈夫そうだな。親のことや誘拐犯のことが気になるから見回ってくる』


 ラルドさんはエメさんに送り出されて飛び立った。


 彼がいる時は止められてしまったので広場から下りることはできなかった。エメさんならどうだろう?

 そう思い広場を下りられる坂へと向かうとして、兎のぬいぐるみを持っていることに気がついた。


 いざという時のために手は空けておきたい。けれど何もせず置いていくのも不安だ。

 よし、檻の中へ置いてから結界を張ろう。

 私は兎のぬいぐるみを檻の中へ戻して誰にも触れないように結界を張った。


 そして広場の外へ向かう。

 広場から下りることは止められなかった。


 しかし、見守るように私の後ろをエメさんがついてきていた。

 どこまで行けるか分からないけど、ひとまずは川を目指そう。

 私はエメさんに運ばれている時に見つけた川へ向かって移動を始めた。


 途中で飛んでいるシロさんに追い越された。

 障害物とか遠回りとかしなくていいからね。結界を足場にすれば私も空中を移動できるけど、慣れているわけじゃないし人に見られたらまずい。途中で足を滑らせて落ちたりした時、慌てて結界を張れないかもしれないし下手なことはしない方がいい。 


 地道に歩いて30分ほどで川へ到着した。

 10mもない幅の川でそこまで大きいわけじゃないけど水は透き通っていて綺麗だ。大きくはないけど魚もいる。

 上流にはシロさんがいた。川に潜ったり浸かっているので水浴びをしているか、水を飲みに来たのかもしれない。


 食後で軽く運動したということもあって喉が渇いた。水を飲もうと川へ近づく。

 ……シロさん、排泄してたりしないよね?

 そう考えるととてもじゃないけど飲めない。


 仕方がないのでシロさんよりも上流へ行くことにした。

 川沿いに進み、シロさんとの距離が3mを切ったところでシロさんが私を見た。

 思わず足を止めて見つめ返す。


 真っ白で本当に綺麗。

 でも、あまり見つめ合っていても時間が経つだけだ。

 エメさんも何も言わないし、進んでいいかな?


 私はシロさんから視線を外して歩みを進めた。

 シロさんも視線を外して水浴びを続ける。


 上流へやってくると川へ頭を突っ込んで水を飲んだ。

 テバサキも私の背中から降りて水を飲んでいる。


 本当は川へ入りたいところだけど下流にはシロさんがいるからね。

 いつまで川へ入っているんだろうと思っていると、シロさんが川から陸へ上がった音が聞こえた。

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