第014話 昼食時、ジェフリーさんとレントナム様の話
「ジェフリー殿はリーセディアに住んで長いのか?」
食事の準備が整ってからドルフがジェフリーさんに尋ねた。
「もう10年になります。ありふれた話かもしれませんが、祖国では上手く行かず命からがらリーセディアへとやって来ました。家族にすら不要とされ、行き倒れていた私を拾って育ててくれた上に雇ってくれたのがレントナム様です」
お、おおぅ。突然に激重な話が始まった。
私からすると激重なんだけど本人曰くありふれているらしい。
ドルフやレクシス様が驚いていないこともあって珍しくはないことなのかもしれない。
これまでのジェフリーさんを見ているとそんな風に扱われていたということが想像できない。
そして祖国という言葉が出てきたことでリーセディアが国であることが確定した。
「ジェフリー殿ほどの者がか」
「祖国では落ちこぼれでした。あの頃の私は精神的にも追い詰められていて、緊張や不安から簡単なはずのことですらできませんでしたから」
そう言って苦笑いするジェフリーさんはとても穏やかで、そんな過去はもう振り切っているように感じた。
ジェフリーさんはいつも冷静に見えるから装っているだけなのかもしれないけど、そうだったらいいな。
「だからジェフリー殿はレントナム様に忠義を尽くしているのだな」
「えぇ、助けていただいた上に居場所を与えてくださったレントナム様には感謝してもしきれません」
微笑むジェフリーさんはとても幸せそうに見えた。
ジェフリーさんが居たという国について聞きたいところではある。でも詳しく話さないということは恐らく話したくないのだろう。
「レントナム様はご病気だと聞いているが、裏切り者が毒を盛った可能性はあるのか?」
だからこそドルフも深くは聞かないようだった。
ドルフの問いにジェフリーさんは沈黙する。
「毒味は数名で行っていますが、同じような症状どころか体調を崩した者もおりません」
少ししてジェフリーさんは静かに答えた。
「症状や状況については彼から伺いましたが、あまり食事中にする話ではないとは言っておきます」
これまで黙って話を聞いていたレクシア様からの忠告があった。
レントナム様はそれだけ酷い状況なのだろう。
「聞かせてもらえるのなら聞いておきたい」
早く聞いておきたいと思ったのか、ドルフは話を促した。
そうしてジェフリーさんから語られたのは、私が人間だったら思わず眉をひそめてしまいそうな話だった。
レントナム様の症状は発熱と腹痛から始まり、水のような便や粘液に血液が混ざったような便になってしまったという。さらには貧血を起こすようになりやがてお腹が膨れてきたのだという。
レクシス様が怪我を治せるのを見てレントナム様が大怪我をしたものだと思っていたから驚いた。
聞いていれば確かに病気の類のように感じた。
魔法で怪我を治す原理も良くは分からないけど、病気となればさらに理解できない。
怪我なら対象の自己治癒力を強めて細胞分裂か何かで傷を塞ぐ、と考えれば分からなくもない。
でも病気は? 病原体だけを魔法で殺してしまうんだろうか。でもそれができるなら健康な細胞だって破壊できない?
そう思うとレクシス様が少し恐ろしく思えた。
いやまぁ、全部私の推測でしかないんだけどね。だけど薬も量や扱いを間違えると毒になるように、お医者さんを敵に回すと怖いんじゃないのかな。
それに魔法っていう謎技術がある時点で今更かもしれない。
「レクシス様は原因が分かりますか?」
ドルフは表情を変えずに少し思案してからレクシス様に尋ねた。
レクシス様がジェフリーさんを見る。
「ドルフ様のことは信用しているので話していただいて大丈夫です」
ジェフリーさんは微笑んだ。
だったらとレクシス様が話し始める。
「実際に調べてみないと分かりませんが心当たりはあります」
さすがレクシス様、心強い。
「レントナム様が体調を崩される前、近隣の村で田畑を視察した時に田畑に入られて作業を手伝ったとのことでしたよね。そしてその後に肌がかぶれていた、と。その後、村の宿で入浴したところかぶれが少し酷くなったとのことです。私はそこでレントナム様が今の状態になる原因に接触してしまったのではないかと考えています」
「泥や水に触れてかぶれることはそう珍しいことではないのでは? 私もかぶれた経験はありますが、数日もすれば治り体調を崩すことは1度もありません」
レントナム様って偉い人なはずなのにそういうこともするんだ。と思いながら話を聞いていれば何だか不思議な話になってきた。
泥とか水に触れたからってそんなにかぶれたりする?
小学生の時に課外授業だかで田んぼで田植えをさせてもらったことはあるけどかぶれたりはしなかったと思うんだけどな。水でかぶれたことだって1度もない。
でもドルフやジェフリーさんはそれが普通という反応だし、この世界では普通のことなのだろうか。
そもそもかぶれる原因は何だろう。インターネットに繋がっているパソコンやスマホがあればすぐに調べられそうなのに。
「確かに珍しいことではありません。……そうですね、水と塩水を思い浮かべてください。見た目は同じですが、溶け込んだ成分によって味が全く違います。同じように、かぶれたからと言ってかぶれる原因が同じとは言い切れません」
なるほど、とドルフは納得したようだった。
しかし結局は調べてみないと分からないという結論になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます