第015話 ルセルリオ到着

 休憩を終えてからはひたすら平野を走った。

 太陽が傾いて日が暮れてしまったけど、あと少しだからということで町を目指す。


 そしてようやく、遠くの方に明るく光っているものが見えた。


 あれが目的地かと思いながら走っているとそれは町の明かりだけではないことが分かった。

 町の中央にある大きな屋敷が燃えていたのだ。


「まさか、どうして……」


 そんな呟きが左横から聞こえたと思うと馬のスピードが上がった。全速力にも近い速度でジェフリーさんを乗せた馬が駆ける。

 ドルフがジェフリーさんに呼びかけながらこちらもスピードを上げる。


 お屋敷の方を見ると真っ赤な炎に重なるように黒点が見えた。それは空中に留まっていていて人の形をしている。

 しかし人では持ち得ない一対の翼が背中から生えていた。しかしその翼は鳥のような羽毛ではなく蝙蝠のような飛膜で、頭の左右からは角が生えている。

 その人型の何かに対峙する形で騎士や冒険者らしき人たちがいて戦っている。騎士たちの方が人数は多いものの旗色は悪いようですでに倒れている人たちの姿も見える。


「あれは、魔族か」


 かなり距離はあるが、目が良いドルフにも見えているらしい。

 その言葉は硬く緊張感がある。


 ドルフの反応から察するに面倒な相手そうだ。魔族というのがどういう存在なのか分からないけど、状況的に屋敷を燃やしているのはその魔族だろう。違ったら申し訳ないけどね。

 探知魔法で魔族を調べてみたいけど残念ながら探知魔法の範囲外だ。

 もしジェフリーさんと似たような反応でジェフリーさんが魔族だったとしてもあの魔族の仲間ではないことを信じたい。


「レクシス様、構いませんか?」

「もちろん。私もそのつもりです」


 ドルフの指示に従ってジェフリーさんを追って走っていると短い会話が聞こえた。

 退避せずに魔族のいる屋敷に向かうことについてレクシス様から許可をもらったってことでいいのかな。危険な場所にレクシス様を連れていくことになっちゃうからね。


「レントナム様の救助を最優先に動きます。しかし、状況によっては撤退します」

「ご助力、感謝いたします」


 ドルフの言葉にジェフリーさんが少し声を詰まらせてお礼を言った。


「ジェフリー殿、どうやって屋敷まで向かうつもりだ。避難しようとしている人々で町はごった返している状態だぞ」

「どうにかします。道は作るので私を信じてついて来てください」


 さらに言えば町を囲うように石造りの壁が立っているんだけどどうするつもりなんだろう。

 このまま町へ向かって走っていても門ではなく壁へと到着する。


 ジェフリーさんを追って走っていると前を走っていた彼の背中から大きな羽が生えた。その羽は鳥の持つような羽ではなく、蝙蝠が持つ飛膜に良く似た大きな羽だった。

 空中へと飛び上がったジェフリーさんは馬よりも速い速度で町へ向かう。


「貴殿は……」


 驚いた様子のドルフの言葉は途中で消える。

 ジェフリーさんも魔族だと考えて良さそうな反応だ。


「ラナ、ジェフリー殿を追うぞ」


 私は速度を上げながら了解した。


 壁に到着するまで1分を切ったタイミングで氷の板が出現した。氷の板は階段のように地上から壁の上まで続いている。


 なるほど、これを足場に上がって行けと。

 氷の板はそこまで大きくないしパッと見た感じとても薄い。

 そんなところを駆け上がれって本気!?


 残念なことに悩んでいる時間はなく、氷の階段は目前まで迫ってきている。

 ドルフからも止まれという指示はない。


 結界を足場にすれば安全に上がることができる。でも魔族と戦闘になる、もしくは見つかって逃げる可能性を考えれば魔力を無駄遣いしたくない。


 ドルフの判断とジェフリーさんを信じよう。

 私は氷の板で作られた階段を駆け上がる覚悟を決めた。


 氷の階段は少し冷たかった。しかし気になることはそれくらいだった。割れたり沈んだりもせず安定している。

 壁の高さまで駆け上がって近くの家の屋根に飛び乗る。ジェフリーさんを追いかけながら家の屋根をつたって屋敷へと向かう。下は見ないようにしよう。


 建物同士の隙間が空いているとジェフリーさんの氷の板が現れて道になってくれた。氷の板の間隔はちょうど私の歩幅になっていて走りやすかった。

 その反面、踏み外したらどうしようという恐怖もあった。

 その場合でも結界を足場にしてリカバーすることができるからと自分に言い聞かせた。


 レントナム様の屋敷が燃えていること、魔族がいることなどから町は大きな騒ぎになっていた

 レントナム様を助けようとしている人もいて屋敷へ向かっている騎士や冒険者らしき人がいる。一方で逃げようとしている人や避難誘導をしている人もいる。そんな状態だからか、屋根を伝っている私たちには誰も気づいていないようだった。夜ということもあって私たちの姿が見えにくいこともあるかもしれない。


 ともかく、そんな騒ぎに乗じて私たちは屋敷の近くまでやってくることができた。

 屋敷の屋根と1階部分は赤く燃え上がっていて窓の奥も炎で真っ赤になっている。


 屋敷の出入口の扉や窓を開けようとしたり壊そうとしている人たちがいる。

 木製に見える扉へ勢いよく振り下ろされた斧。しかし不思議なことに扉はびくともしていないように見える。窓も同様で開けられないし壊せないようだった。

 きっとあの魔族のせいなのだろう。

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