第069話 トラブル? チャンス?

「分かった。無理に頼むつもりはない。それにその言い方だと研究施設には同行できなくてもリスクの少ないことなら協力してくれるってことだよな?」

「えぇ、そのつもりです」


 アントンさんの言い分も良く分かるし彼が冷たい人だとは思わない。

 良くも悪くも冷静で理知的な人なんじゃないかと感じる。


「だったらどうすればシーナちゃんを助けられるか相談に乗ってくれないか?」

「もちろんです。僕としても彼女に助かって欲しいのは本心ですから」


 そして、今後どう動くか彼らは話し合った。

 レストーネへ到着したらローレンさんは研究施設と私のことを報告する。騎士団、場合よっては冒険者にも依頼が出されるらしい。

 アントンさんの見立てでは、彼らがいつ動くか分からないもののおそらくは迅速に動くはずだという。理由はシーナちゃんはすでに領主様の三男であるコルネリオ様と彼の護衛と会っていると思われるからだ。魔族らしき者を見つけた護衛たちが報告しているはずであり、ローレンさんたちの報告が受け入れてもらいやすいという。


 報告することでシーナちゃんが退治されてしまうかもしれないという不安があるため、彼女は姿を保てなくなり亡くなってしまったことにしようという話になった。

 しかし、それを聞いたシーナちゃんは嘘を報告したことがバレたらローレンさんが罪に問われるから正直に話して欲しいと言った。

 ローレンさんは危険だからと反対していたけど、最終的には折れてシーナちゃんのことをきちんと報告すると承諾した。


 アントンさんは領主様からの指示が出るまで町の外でシーナちゃんと待機するということだった。魔族を町へ引き入れたと言われてはたまったものではないからという理由だった。

 ローレンさんはアントンさんの案3で行くつもりらしい。調査隊が動き始めたらこっそりついていくそうだ。


 私についてはというと、領主様へ預けることになるか、ローレンさんの友人で馬房を持っている人に預かってもらうか、それらが無理ならアントンさんがシーナちゃんと一緒に見ると言った。


 シーナちゃんの傍にいたいっていうのもあるけど、研究施設へ潜入するならローレンさんについていきたい気持ちもある。でも、潜入という隠密行動には向かないんだよね私。結構大きいし、どこかへ隠れるというのも難しい。

 そうなると私は待機組になりそうだ。

 どうにかローレンさんのことを手伝う方法はないかと考えるも、良い案が出ることもないまま彼らの話は進んだ。


 そのまま森を進んでいると探知魔法に人の反応があった。距離は20mくらい先で5ほどの木の上にある。

 反応は1つで大きさ的に成人男性かな。魔石の反応はなくて人間だろう。

 気になるのは、望遠鏡のような物を使ってバッチリこっちを見ていることだ。


 近づいたら逃げる? 1人だから襲ってくるってことは無さそうだけど。


「1人、こっち見てる」


 そのまま少し進んだ時、ローレンさんの肩に留まっていたテバサキが言った。


「どこだ?」

「正面、17m先にある木の上5mのところ」


 テバサキの偵察能力は凄いね。


「どうします? 逃げるなら捕まえて、逃げないなら話を聞いてみますか?」

「どこかの冒険者パーティーの斥候なら逃げないだろうし、逃げるなら怪しいから捕まえよう」


 もし逃げた場合、2人で動いてシーナちゃんを疎かにするわけにはいかないからとローレンさんがメインで、アントンさんはその補助として魔法を使って遠距離で捕獲することになった。


 目視できたかと言えば、木々が重なり合っていて良く見えなかった。

 テバサキは飛べるわけだし、偶然見えたのかもしれないね。


 気が付いていない振りをしながら警戒はして進む。

 10mを切っても相手に逃げる様子はない。


 7mを切った辺りでその人は木から飛び降りて私たちの目の前に着地した。

 その人の恰好が凄く忍者っぽい。

 濃い紺一色の布の服に頭には同色の頭巾をかぶっているため目以外は隠れている。髪は頭巾で覆われていて色が分からず、目の色は水色だ。

 身長はローレンさんと同じくらいで体格は彼よりもずっと細身だね。

 武器は腰に短剣が2本。身軽さ重視という装いだ。


 彼は武器を抜いているわけではないものの、ローレンさんからストップの命令が出た。

 私たちはその場で立ち止まった。


「すみません。少しお聞きたいことがあるのですが良いでしょうか?」


 彼はそう言って被っていた頭巾を取って顔を晒した。

 頭巾の下から出てきたのは短くて明るい緑色の髪だった。年齢は20代前半くらいに見える。顔には刃物が原因と思われる細長い傷跡が複数あった。目の下には薄い隈があり、気怠そうな声音と雰囲気があるせいか何となく怪しい感じがする。アニメとかだと目にハイライトがなくてあまり生気を感じられない人って言えばいいかな。


「はい、何でしょう?」


 アントンさんは動じた様子もなく微笑むと1歩前へ出て聞き返した。

 ポーカーフェイスなのか本当に動じてないのか分からないけど、どっちにしても凄すぎない?


「俺の名前はタタと言います。藍色の長い髪に黒色の目をした10歳くらいの女の子を見ていませんか?」


 どうやら、シーナちゃんの知り合いとして名前が出ていたタタさんのようだ。

 彼はローレンさんの前に乗っているシーナちゃんへ視線を向けた。


「ちょうどその子くらいの背格好なんですよ。よければ顔を見せてもらえませんかね?」


 敵意はなくむしろ好意的な声音でタタさんは言った。

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