第027話 ブロワ村の話

「俺たちがブロワ村に到着したのは、村で初めてリステラ症候群患者が出てから8日後の昼頃でした。村人の半数以上が眠っている異常な状態です」


 護衛の依頼を完了したためエリックさんと共に依頼人を護衛していた冒険者は、巻き込まれないようにとさっさと村を出てしまったそうだ。

 村人を見捨てるような行為に感じるけど、実際に同じような状況になったらと考えるとその冒険者たちが非情だとは思えない。

 まぁ、怖いよね。


「エリック殿は村に残ったのですか?」

「えぇ、魔族が行っていることであれば上質な魔石が手に入るかもしれないので調べようと思いました」


 むしろエリックさんは肝が据わりすぎているのではなかろうか。

 魔石を集めて何がしたいんだろう。


「村長の息子さんから8日間の間に起こったことなどを聞いて、俺なりに調査を行いました。結果から言うとただの魔族が起こせるような事象ではなく、採算も取れません」


 私もそうだけどドルフもいまいち呑み込めなかったのか反応が乏しくない。それを見たエリックさんが補足してくれた。


「3日目に眠ってしまったという村長を調べさせてもらったのですが、穏やかに眠っているだけで飲まず食わずでも衰弱していませんでした。髪を1本抜いてみようとしましたが抜けず、火をつけてみましたが燃えませんでした。また、呼吸が出来ない状況にしましたが穏やかな呼吸をしていました。試しに傷をと思ったのですが、ナイフの刃が1ミリも入りませんでした。まるで何かに守られているようです」


 さらっと何言ってるの!?

 エリックさん、眠ってる村長さんに対して実験しまくりじゃない?

 解明するためには必要なことは分かる。分かるけど、エリックさんちょっと怖いよ!


「もちろん、勝手に調べたわけではありませんよ? 村長さんがもし自分も同じような状態になったら調べてくれていいと言っていたことや息子さんにも許可を得て彼の前で調べましたから」


 エリックさんは咳払いをしてから話を続けた。


「それから髪や毛、爪などが伸びていないように感じます。また汗をかくような状況にしましたが、発汗作用は見られませんでした。唾液の分泌も確認できませんでした。呼吸はしており心臓も鼓動していますが、それを除けばまるで時間が止められているかのような印象を受けました」


 凄く調べてる。というか手慣れてる? え、まさかこういう状況に慣れてる?


「正直に言えば、どんな魔法が使われているのか見当もつきません。この状態を維持することもかなりの魔力を使うはずです」


 リステラ症候群の人たちにかなりの魔力が注がれていることは確かだ。同じ量の魔力を私が注ぐのであれば、1時間も持たずに枯渇する。複数人ではなく1人に対してだ。


「この現象の原因について心当たりはありますか?」


 考えるようにエリックさんは黙った。


「眠っている間に夢を見て、その夢の中で死んでしまったら現実でも死ぬという事例を知っています。その時の元凶は人間が逃げ惑い、互いに争い合い、恐怖するところを眺めること、自分の仕掛けをどのように解くかを観察したかったそうです」


 何それこわっ!

 しかも元凶は悪意の塊で人間を実験動物であるかのような扱いをしている。


「そして肝心の元凶ですが……我々には推し量ることのできない、可能であれば関わることすら止めておいた方がいいある種の神のような存在と言えるでしょうね」


 エリックさんは事実だけを述べるように淡々と話した。

 魔法もある世界だし、とんでもない存在も確かにいるかもしれない。勇者とか魔王とか、聖女とか居たりするのかな?


「……その事例ではどのように収束したのでしょうか?」

「夢の中の仕掛けが解かれたことで満足した元凶により解放されたそうです」


 残念ながら外部から解決する方法じゃなかったのか。


「その件と比べたら今回はあまり悪意を感じません。まだマシだと思いませんか? 協力は惜しまないので共に解決へ向けて頑張りましょう」


 これまでとは違い明るい口調で微笑みながらエリックさんは言った。


「そうですね。幸いなことに取り返しがつかないような状況にはなっていません。えぇ、その時はよろしくお願いします」


 ドルフもいくらか明るい口調で答えエリックさんに微笑んだ。


「話を戻します。すでにご存知かもしれませんが、リステラ症候群には発症する順番があります。村の内部に限っては子どもや老人が真っ先に発症したそうです。次に体が弱かったり不健康である方々。次に健康な方々です」


 うん、子どもや老人が真っ先に発症したというのはラテルでも同じだね。


「そして、村を出て戻らなかった方たちは日付を跨いだ瞬間に眠りへと落ち、そのままリステラ症候群を発症したそうです。村から出ても日付を跨ぐ前に村を戻った方は大丈夫だったそうです」


 それは知らない。

 だからカイルがラテルを出た時に魔糸を流れる魔力の量が増えたのか。

 町の内部か外か、これもリステラ症候群を発症する条件の1つらしい。


「それから俺と共に依頼を受けた冒険者ですが、ブロワ村からラテルへの道中でリステラ症候群を発症した状態で発見しました。彼らはブロワ村へ運んでおきました」


 依頼完了後すぐに村を出たにも関わらずリステラ症候群になったんだ。


「村で過ごした時、召喚獣も使って警戒をしていたのですが、怪しい人物や生物は見つけられませんでした。俺が知っていることは以上です」

「ありがとうございます。大変参考になりました」


 本当に。私もクルクルと喉を鳴らしてお礼を言った。


「あと、ブロワ村には俺の召喚獣を数匹残してきました。同時に眠ってしまうということでもない限り、何かあった時には俺に知らせること、そして村人を守るよう言いつけているので安心してください」


 アフターフォローもばっちりだね。

 ……フラグっぽくない? 大丈夫?

 いやいや、現実でそんな漫画みたいな……あー、でも現実にも高速フラグ回収ってあったりするからな。


「定期的な連絡も受けており、今のところその連絡は途絶えていません」


 そこまで聞けて私はようやく安心した。


 これまでのやり取りを見てもエリックさんて善良な歴戦の冒険者って感じがする。

 ……フレイさんがスパイだったことにも全く気付かなかったから、私に人を見る目があるのかは微妙だけどね。

 ある程度は信じてもいいんじゃないかと思うけど、本当に信じていいのかな?


 実はエリックさんが犯人で何かの魔法を実験していたり?

 うーん、さすがにそれは疑いすぎか。

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