第028話 調査員

 その後しばらくして、馬車と馬に乗った騎士たちを引き連れたカイルが戻ってきた。

 停まった馬車からローブを着た軽装の3人が降りてきた。

 騎士たちをはじめ、その3人にも黄色の魔糸が繋がっている。


「彼らはリステラ症候群の調査を行っている調査員です。左からアルジェフ、サンドラ、リオルです」


 それぞれエリックさんにお辞儀をする。


「エリック殿だ。プラチナ級の冒険者であり、リステラ症候群についてもすでにご存知だ」


 次にドルフがエリックさんについて簡単に紹介を行った。


「ご紹介にあずかりましたエリックと申します。プラチナ級とはいえ、召喚術士である自分がどの程度お役に立てるか分かりませんが、他人事とは言えない立場にあるので協力は惜しまないつもりです。よろしくお願い致します」


 本人も微笑んで丁寧な自己紹介を行う。

 その言葉には淀みがなく、かといって早口でもなく非常に聞きやすい。


 何だろう。知り合いと雰囲気が似ていて、その人がそうだったからか営業の人っぽいなぁと感じる。陽の雰囲気に溢れている。あくまでも雰囲気が似ているだけで微笑み方とか仕草なんかの細かいところは違うけどね。

 冒険者が自営業だとしたら自分で営業する必要もあるかもしれないし、そういうので鍛えられたのかな?


「アルジェフと申します」


 無表情のままに名乗ったのは30代前半ほどに見える男性だ。耳にかかるくらいの長さの藍色の髪に紫色の目に褐色の肌。落ち着いた雰囲気があり、色気も感じるミステリアスなイケメンだ。


「サンドラです」


 20代前半ほどの女性が微笑みながら言う。明るい茶色の髪にショートカットで金色の目をしている。それから丸い眼鏡をかけていた。

 大人しそうで穏やかそうな雰囲気の人だ。


「……リ、リオルです」


 10代後半くらいの青年寄りの少年といった様子の男性だ。緑色の髪に金色の目をしていてそばかすがある。

 何だか自信がなさそうでおどおどした感じだ。


 3人とも見た目は人間……人族っていうんだっけ。で、魔力量は多い順にリオルさん、アルジェフさん、サンドラさんだ。凄いことにリオルさんはサンドラさんの2倍の魔力量がある。サンドラさんの魔力も決して少ないわけではなく、普通の人に比べて数倍の量があるというのに。

 若そうなのに調査班にいることや魔力量も多いことから考えて、リオルさんは凄い人なのかもしれない。


 じっと見つめていると私の視線に気が付いたのか、ちらりと私を見てはすぐに視線を外した。そのまま見つめると少ししてからまた私を見て視線を外すリオルさん。

 その視線には若干の恐怖が滲んでいるように感じる。


 あれ、これもしかして私が怯えられてるだけ?

 確かめるべくリオルさんを見つめながら近づいてみた。

 威圧しないように体をかがめて、いきなり近づいて驚かせないようにゆっくりと。


「ヒッ……!」


 彼は小さな悲鳴のようなものを上げた。私が近づいた分の5倍は後退し、そのあげくに足をもつれさせて転んでしまった。

 顔からは血の気が引いていて青ざめている。

 そして流れる何とも言えない微妙な空気。


 いや、うん。何かごめん……。


 罪悪感を覚えた私は彼から視線を外し、少し離れたところで腰を下ろして地面に座った。


 そんなに怖かった? 凹む。

 変に手をついてないかとか、足を捻ってないかとか気になるけど私が見ることもストレスになりそうだからなぁ。


「すまない、大丈夫か?」

「は、はい」

「ラナに悪気はないんだ。すぐには無理かもしれないが、良かったら仲良くしてくれ」

「……努力します」


 ドルフがフォローしてくれている。

 2人の方を見るとドルフが転んだリオルさんに手を差し出して助け起こしていた。

 リオルさんは長い沈黙の後、絞り出すように深刻そうな声音で答えた。


『グル』

『何ー?』

『あの人がガルとギルにちょっかいをかけられそうなところを見たら助けてあげて』

『分かった』


 どこで関わるか分からないし一応ね。グルは大丈夫だろうけど、ガルなら格下認定して横柄な態度を取るだろうし、ギルなら脅かしてからかったりしそうだ。


 アルジェフさんが指示を出し、2人が動き始める。彼自身も1人の冒険者に触れて何やら調べている。


 一通り調べることは出来たのか、アルジェフさんがドルフへ報告を行った。

 ただ、残念ながらすでに聞いたようなことばかりで目新しい情報はなかったた。


 私たちはラテルへ引き返すこととなった。

 馬も含めて持っていけるものは可能な限り持って戻るという話だ。


 眠ったままの4人の冒険者を騎士たちが馬車へ乗せる。

 その後に調査員の3人も馬車へ乗った。


 特に問題はなくラテルまで戻ってきた。薄い魔力壁をくぐって門の中に入る。

 ドルフや他の人たちに繋がっている魔糸の色が黄色から青色に変化した。

 安全とは言えないけど少しホッとした。


 そろそろ日も暮れるからと私たちは小屋の中へ戻された。

 ドルフたちはというと、エリックさんを含めて全員でお城の中まで入るようだった。

 この後は連れてきた冒険者たちをもっと詳しく調べたり、リステラ症候群に関して情報の確認なんかをするんだろう。


 私はどうしようかと考える。

 ひとまず探知魔法は切って魔力を回復させることにしよう。まだ余裕はあるけど何かあってがっつり使うことになるかもしれないからね。


 リステラ症候群の発症は夜。さらに言えば日付が変わった直後らしいし、今から寝て夜に備えよう。あ、でも日付が変わって直後っていうのは村の外に居た場合だったっけ? 

 ともかく、アラーム無しで起きられるかは分からないけどそこは気合でどうにか夜に起きてみよう。

 発動を止められるとは思っていない。でも探知魔法で調べてみれば新しいことが分かるかもしれない。


 魔力も使ったし普段のお出かけよりも走ったこともあり、目を閉じた私の意識はすぐに遠くなっていった。




 ふと目が覚める。どうやら夜に目を覚ますことは出来たらしい。日中とは違って静かだから夜なのは間違いないだろう。

 静かとは言っても小屋の屋根を叩く雨の音が聞こえる。眠っている間に雨が降り出したらしい。

 残念ながら今の時間までは分からない。日付が変わる前だといいんだけど。


 可能な限り広範囲に探知魔法を発動させてしばらく様子を見ることにした。

 それでも町の一部しか確認できない。


 体感だと1時間は経った。

 探知魔法の端にあった家へと伸びていた青色の魔糸の色が黄色になった。その3秒後、赤色になる。

 どこの誰かは分からないけど、これでまた1人、眠ったままになってしまう人が増えたのかと思うとやるせない気持ちになった。

 こんな気持ちにならないためにも少しでも情報を集めよう。


 魔糸の変化は一気に赤になるのではなく、黄色になり少ししてから赤色になるようだった。

 1件しか見ていないから他の場合でも当てはまるとは言えない。それでも参考になる。

 その後も念のためと思って3時間ほどは様子を見た。けれども何か起こることはなかった。


 現状の最大範囲で探知魔法を発動させていたこともあって、思っていたよりも魔力を消費していたようだ。

 魔力を使いすぎると怠くなるし眠くもなる。

 今夜はもう休むことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る