第019話 レントナム様の病気の原因について
残された人たちは消火活動に入ったり魔族が倒されたことを伝達しに行ったりと動き始めた。
魔族が居なくなったことで屋敷にかかっていた魔法も解けたのか、扉も窓も壊れるようになっていた。
私たちはというと家に避難していたジェフリーさんたちと合流した。2階建ての家でそれなりに広そうだ。
合流したといってもレクシス様はレントナム様の診察をしているらしくて玄関先に出てきたのはジェフリーさんだけだった。
玄関先でドルフが事のあらましを伝える。
「被害がそう大きくないようで良かったです」
「そのエリックとやらのカードは一応持ってきているが、用心するのであれば他に仕込まれていないか調べておいてもらった方が良いだろうな」
「そうですね。鑑定自体はそう時間はかかりませんのでこの後にでも依頼しに行きます」
エリックさんから渡されたカードはレクシス様に頼まずに鑑定機関に任せるらしい。レクシス様に頼むのかと思っていたから少し意外だったけど、そういう機関があるならそっちに頼む方が正しいか。
その後、私はどうするかという話になった。
厩舎はなくて物置小屋を代わりにすることはできるという。
「レクシス様にお貸ししている客室はそれなりに広いのでドルフ様とラナが一緒に入っても問題ないですよ。ラナであれば部屋に連れて行ってもらっても大丈夫です」
「であればレクシス様に確認し、許可をもらえれば部屋へ連れて行こうと思う」
レクシス様に許可をもらう間、一時的に私は物置小屋で待機することになった。
物置小屋は確かに私がいても余裕なくらいには広かった。
もしレクシス様に断られたとしてもそれはそれで仕方ないと思う。
この小屋で1人っていうのはちょっと寂しいけど仕方ないよね。
とりあえず横になって休んでいると30分もしないうちに小屋の扉が開いた。
「ラナ、行くぞ」
嬉しそうなドルフの声にレクシス様から許可が出たんだろうなと私も嬉しくなってドルフについていった。
開けられた玄関扉から家の中に入って家の中を進む。日本サイズだと狭くて扉をくぐる時にも頭を下げないと駄目だろう。でも家は大きめに作られているようで天井は近いものの頭をぶつけるということは無さそうだ。
そんなことを考えていると1階の部屋に通された。
ベッドが2つにテーブルが1つ、本棚やクローゼット、ソファーがある広めの部屋だった。
「俺はレクシス様の傍へ戻る。ラナはここで大人しくしていてくれ。できるよな?」
私はククッと鳴いた。
ドルフとジェフリーさんを見送ってから部屋を見回す。
何だろう、少しワクワクする。
私はソファーの上に乗っていたクッションを床に置いて横になった。そのクッションを抱きしめるように顔を埋める。
クッションは柔らかくて気持ちが良かった。
移動が多かったり魔力を使ったりで疲労していた私はとりあえず休むことにした。
ガチャっと部屋の鍵が開いた音がして目が覚める。
頭を上げると扉が開いてドルフとレクシス様が部屋に入ってくるところが見えた。
近づいてきたドルフに頭を撫でられる。
「良い子だ」
部屋で暴れるようなことをしなかったことを褒められた。
ソファーに座ったレクシス様が背伸びをしたりドルフに撫でられながらゆっくりしていると部屋の扉がノックされた。
「ジェフリーです」
「どうぞ」
扉が開いてジェフリーさんが入ってくる。
部屋に入ると懐からスイッチらしきものがついた手の平に収まるような棒を取り出した。
「音消しです。レントナム様の症状について聞かせていただけますか?」
「もちろんです」
レクシス様がテーブルの方へと移動して椅子に腰かけた。一言かけてから音消しのスイッチを押すとジェフリーさんを中心に透明な青色のドーム状のものが現れた。
ジェフリーさんはレクシス様の対面に座って音消しをテーブルの上に置いた。
青色のドームには私やドルフも入っている。そして部屋の内部のみに収まっている。
「端的に言えば、レントナム様は寄生虫に感染し現在の症状を引き起こしています」
レクシス様の言葉にジェフリーさんは目を丸くした。
レントナム様の料理は毒見をしていると言っていた。病気ならともかく、寄生虫が原因であれば空気感染ということはまずないんじゃないだろうか。と、なればどこで感染したかだよね。
「感染経路は分かりますか?」
「経皮感染である可能性が高いです」
けいひ? 経口が口からって意味だったよね。経皮感染、つまり皮から感染したってことか。
「体調を崩す前に村での作業や宿の入浴で肌がかぶれたと仰っていましたね。寄生虫はレントナム様の肌を突き破って体内に入って寄生したと考えられます。その結果が肌のかぶれです」
肌を突き破って体の中に入って寄生するって聞くだけで恐ろしい。
「経皮感染する寄生虫にも種類があり、体内に入っても生きていけずに死ぬために肌がかぶれるだけで無害な種類もあります。しかし、体内に入っても死なず宿主に害を及ぼす種もあります。レントナム様が村で田畑に入られって作業を手伝った時のかぶれが無害な方で、宿の入浴時に酷くなったというかぶれが恐らく有害な種の寄生虫が感染した時にできたかぶれだったのでしょう」
確かにそれならいくら料理を毒見をしていても意味がない。
寄生虫のいるその水を素知らぬ振りして処分してしまえば証拠も残らない。
それに持ち運びという点でも寄生虫が入った水を何か入れ物に入れればいい。そしてレントナム様が入浴の直前にでもその寄生虫入りの水を浴槽に入れてしまえばいいのではないだろうか。
外部からだと難しそうでも内部からなら簡単そうだ。外部からでもしようと思ったら不可能ではなさそうではある。
「偶然かどうかについてですが、リーセディアでは前例がありません。恐らく外部から持ち込まれた生物でしょう」
そこまでしてどうしてレントナム様が狙われているのか気になるところだ。
「原因が分かれば対処はできます。薬の材料も一般的なものなので安心してください」
「ありがとうございます。レントナム様をよろしくお願いいたします」
レクシス様はジェフリーさんを安心させるように優しい声音で言った。
ジェフリーさんはお礼を言ってレクシス様に頭を下げた。
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