番外編 シーナとタタ(1/3)

「後ろから見てもおかしくない?」

「ん、360度どこから見てもバッチリ可愛い」


 鏡で自身の姿を確認してからシーナはタタに尋ねた。

 彼はきちんとシーナの姿を見てから指でオッケーと丸を作り微笑んだ。


「よし、それじゃあ忘れ物はないかな?」

「大丈夫!」


 その問いにシーナは元気良く返事をした。


「じゃあ行こう」


 差し出された手をシーナは握る。

 そして、2人は自宅から出た。


 なんてことはない。ちょっとした買い物だ。

 寝具や食器などは十分に足りていたものの、シーナが着られるような女の子用の服があまりなかった。

 やってきた時、シーナが持っていた服はアントンからもらった1着だけだ。それでは不便だからとタタが室内用と外出用の服を何枚か買った。

 ただ、それは間に合わせのものだ。


 シーナは人間ではない。そうだとしても、これまでの彼女を知っているタタに恐れはない。

 しかし、彼女がどんな価値観や知識、本能、生活リズムを持っているかを知らない。

 それを知らなかったせいで何か問題が起こってしまうかもしれない。


 そうならないために、シーナがやってきてから数日は家の中で過ごさせた。

 そして日々話し合った。

 シーナはタタの言うことを良く聞いて家から出たいと言うことはなかった。


 だが、彼女が目をキラキラさせて窓から外を見ていることをタタは知っていた。


 シーナとの会話に問題はなく、何かあったとしても自分が近くにいれば大丈夫だろう。

 そう思ったタタはシーナと共に買い物へ出かけることにした。

 メインは彼女の新しい服ではあるものの、雑貨屋や市場で様々な物を見て回る予定だ。


「人がいっぱい」


 通りを歩くだけでシーナは目を輝かせてあちこちを見回した。

 それでも約束した通りタタから手を離したりはせず、大声を出したりはしゃいだりもしなかった。


 そうして目的の服屋へと到着した。

 大通りから横道へ入り少し進んだところにあるこじんまりとした二階建ての建物で、入口付近にはいくつかの服が飾られていた。


 店の中へ入ると多くの服が棚に置かれ、もしくはハンガーにかけられ並べられている。

 客も何人かいてそれなりに賑わっていた。


 店内へ入ってきた2人を見て近づいてくる者がいた。

 40代前半ほどで赤色の短い髪に茶色の目をしたふくよかな女性だ。


「あらー! 可愛い子連れてるじゃない。どこから誘拐してきたの?」

「可愛いでしょう? ちょっとそこでね。色々あって一緒に住むんだ。だから今日はこの子の服を買いに来た」


 彼女は服屋の店主だった。

 馴染みであることもあり、タタと店主はそんな軽口を叩きあった。


「誘拐なんてされていません。私がタタさんと一緒にいたいって言ったんです」

「冗談よ。でも、嫌な気分にさせちゃったならごめんなさいね」


 そんな2人のやり取りを見たシーナは本気にしたようで、慌てて店主に言った。

 店主はそんなシーナを微笑ましそうに見る。それから視線を合わせるよう屈むと微笑んでから謝った。


「私はアルマ。よろしくね。お嬢ちゃんは何て名前なの?」

「シーナです。よろしくお願いします」


 冗談と言われ、本気で反応してしまったことを恥ずかしそうにしているシーナに対して空気を変えるようにアルマが自己紹介をした。

 シーナも名乗りお辞儀をする。


 その後、タタはシーナと共に様々な服を見て回った。

 シーナが手に取る服から、派手なものよりも落ち着いたものの方が好みであること、露出はあまり好まないこと、手の込んだものよりもシンプルなものが好きらしいということをタタは知った。


「気に入ったものは試着してみるといい。他のは持って待ってるから」


 タタに促され、シーナはいくつかの服を持って試着用の簡易ボックスへと入った。


「アルマさん、シーナの下着のことを任せてもいいかな? 男じゃ口を出しにくいし、嫌がられたくない」

「任せてちょうだい。あなたが口を出そうものなら全力で止めてたところよ」


 そんな会話の後をした後、少し経ちシーナが簡易ボックスから出てきた。


「着てみてどうだった? 着心地とか、窮屈なところはなかった?」

「どれも良かったよ」

「それなら良かった。この後はアルマさんと買う物を選んで欲しいんだけど大丈夫そう?」


 その問いかけにシーナは不思議そうにしながらも了承した。


「それじゃあこっちに来てね」


 アルマに手招きされ向かったところにあったのが下着であり、シーナはそこでタタの意図に気がついた。


「シーナちゃんならこれくらいのサイズだと思うわ。どういう柄がいいとかある? 生地もいくつかあってね」


 アルマの話を参考にしながらシーナはいくつかの下着を選んだ。


「どうやって下着を洗うかは分かる?」


 シーナが知らないと答えるとアルマは下着の洗い方を丁寧に教えた。

 下着は多めに持っておいた方がいいと言われその通りに選んだ後、アルマはその下着を布の袋へ入れた。


「はいどうぞ。料金はもうもらっているから」


 下着の入った袋を受け取り、シーナはアルマと共にタタの元へと戻った。

 タタはシーナの服が入っているであろう布の袋を小脇に抱え、男性ものの服を手に取って見ているところだった。


「お待たせ。こっちの方は終わったよ」


 そう言ってアルマはタタへお釣りらしい金銭を返した。


「タタさんも服を買うの?」

「良さそうなのがあれば買おうかな」


 タタは少し考えた後、ハンガーにかかった2着の服をシーナへ見せた。


「これとこれで迷っているんだけど、良かったらどっちがいいか選んでもらえないかな?」


 見せられた服は黒色と茶色の外套だった。

 シーナは悩みながらも茶色の外套を選んだ。選んだ理由は分厚くて暖かそうなことと裏地の手触りが良かったからだ。


 タタはシーナの選んだ外套を購入した。


「そうだ。良かったらこれをもらってくれない?」


 店を出る際、アルマは猫の刺繍がされた灰色の裾が長い上着をシーナへ見せた。


「タタさんにはいつもお世話になっているし、私もシーナちゃんと仲良くしたいから」


 戸惑うシーナにタタがお礼を言ってその上着を受け取り彼女へ着せた。


「良く似合ってる」


 アルマへお礼を言ってからタタはシーナを見て微笑んだ。

 シーナもお礼を言い、2人は服屋を出た。


 その後も2人は雑貨屋や市場を回った。

 タタが危惧するような問題は何も起こらず、早めの夕食を出店で買って食べた後に自宅へと戻った。


「お出かけ凄く楽しかった。色々買ってくれてありがとう」

「俺も楽しかった。また出かけような」


 シーナは嬉しそうに返事をした。

 その後、タタは仕事の一環ですぐに家を出た。

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